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異分野×アーティスト 〜対話から生まれる化学反応〜
No.003
映画監督/石井裕也さん 絵本作家/長田真作さん[前編]
映画と絵本、それぞれの舞台で
活躍するふたりの思い。
「わからないこと」の大切さとは?

詩集を原作にした『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などで高い評価を得る石井裕也さんと、絵本界の寵児的な活躍をみせる長田真作さん。かねてから親交があり、協働も行うふたりならではの「表現」をめぐる対話です。

映画監督/石井裕也さん 絵本作家/長田真作さん

――今回は長田さんの原画展「GOOD MAD」会場(渋谷ヒカリエ 8/01/COURT、2018年1月5日-14日)でお話を伺っています。おふたりはすでにご親交もあるとのことですが、はじめにお互いの存在をどう感じているか、それぞれ伺えますか?

長田 石井さんは原作のある映画も撮っていますが、常に一からものづくりをしている人という印象が強く、そこは僕が絵本を作ることにも共通しそうに感じます。もちろん監督として多くの人と関わる仕事かと思いますが、非常に孤独な時間も多いのじゃないかなと。そういうところに、勝手にシンパシーを抱いています。

石井 それはでも、誰しもがそうでしょうね。表現者と呼ばれる人であれば、そこからは逃れたくても逃れられない。ただ、制作の出発点ということでは、映画は原作がある場合も脚本家が別にいる場合もある。そういう意味では、作品によって色々な種類の孤独があると思います。

――『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)は、詩集をもとに生まれた作品ですね。

石井 言ってしまえば、原作は小説でも漫画でも、絵本でもいい。そこで何を源にするかといえば、やはりストーリーとキャラクターです。でも、詩はそのいずれでもない、僕らが生きるうえで抱えている「気分」が深く描かれていることがある。それを映画にしても、何ら問題はないと思っています。

――明確なストーリーがないと、不安になることはありませんか?

石井 でも、じゃあストーリーが何のためにあるかということですよね。これはサク(長田さん)の絵本にも通じそうな話だけど、まずさっきの「気分」があって、ストーリーはそれを多くの人に説明するための装置だとすれば、その装置を使えるときは使えばいいし、無ければ無いでいいと思う。

長田 僕がなぜ絵本をつくるようになったのか、と立ち返ると、それこそ最初は自分のなかで「こういう気分を出したい」と思って絵を描いていました。それがあるとき「これって、つなげたら一個の作品になるな」という感覚があったんです。だから僕にとって絵本というのは、結果として出会った表現媒体。でも、だからこそ、しっくりきました。絵本の強さは、たとえばストーリーはあまりない場合でも突っ走れる、そんな寛容さや自由さだと思っています。だいたい32ページというボリュームも、僕には表現しやすいんです。

「インプットの入口は具体的な作品ではなく、むしろ無意識の積み重ね」と語る長田さん

「インプットの入口は具体的な作品ではなく、むしろ無意識の積み重ね」と語る長田さん

「わからないこと」「不安」から始まる大切さ

――たしかに長田さんの作品は、絵の魅力に引き込まれ、読後は不思議な余韻が残る印象です。何かの予感を描いたような「風のよりどころ」や、「カオス オペラ」と冠された三部作などは特にそうですね。いわゆる道徳や教訓をわかりやすく伝える絵本とは、かなり異なる世界です。

長田 そういう、ある意味安心して子供たちに渡せる絵本もたくさんありますが、僕は「不安」も大事にしたいんです。不安を礼賛するわけではなくて、でもそれを安易に解消したくもない。すべてに答えが用意され、それをすっと選ぶことで不安が解消してしまうと、人は考えることをやめてしまうのではと思うからです。子供は、見聞きするもの全てが未知という世界から、少しずつ知恵と知識を増やしていきますよね。反面、成長とともに不安やワクワクは少しずつ薄らいでいく。でもそこをずっと保つ努力が、僕にとっての絵本の仕事かなって。だから、バリエーションはありますが、基本的にどこか哀しみというか、何か抜けきれないものが入る。スパッとは終わらないですね(笑)。

石井 僕も子供のとき、いつも不安だったなと思うし、同時にワクワクすることもありました。それが最近は、答えが知りたいとすぐスマホで調べて、何かしらの答えを得て安心してしまう時代でもある。わからないということが、恐くなっているのでしょうね。でも絵や映像は本来、そういうものを扱えるはずで、むしろ果敢にやっていくべきとも言える。理屈では説明できず、より人間的で、ときに不合理でさえある何か。たとえば立川談志さんが落語で目指したことにも、そういう面があったのではと思います。

「アイデアはいくらでも出るし、日々ネタ探しという人生もつまらない。それよりも、テーマを見つけることの方が時間がかかる」と石井さん

「アイデアはいくらでも出るし、日々ネタ探しという人生もつまらない。それよりも、テーマを見つけることの方が時間がかかる」と石井さん

――石井さんの『夜空は…』でも、ふたりの若い男女の不安と、そこからの繊細な内面の変化が描かれていたように思います。

石井 不安は対象のない恐怖と言えるかもしれません。具体的な対象がわかれば、人でも物でも「アイツは怖い」というわかりやすい恐怖になる。でも、何だかわからないからこそ不安で、どうにもできない状況というのがあって、僕もそれは嫌いじゃないです。サクほどではないけどね。

長田 好物というわけではないですよ(笑)。不安って強い毒でもあるから、どこかで発散しないと、とも思います。それでも必然的につき合わなくてはいけない、という感覚が強いのかな。その付き合い方として、絵本は僕と並走してくれているというか。たぶん「観察」が好きなんです。何かを疑問に思ったり、執着したりするのは、面倒くさい作業かもしれません。でも僕は、疑問に出会い、それが何かを知らないまま持ち帰ることも割と好きです。

石井 ああ、なるほど。

長田 ただ、それを誰かと言葉で共有するのは難しくて。だから自分のなかでの楽しみだなと思っているのが、絵本でなら他の人とも楽しめるのだとわかった。もちろん、何も感じない人もいるかもしれません。ただ僕としては、自分と通じ合える人を全力で探す作業、いわば感性の婚活のようなことを(笑)、絵と文でやっている感覚です。

石井さんと共作した長田さんのデビュー作『あおいカエル』(リトルモア)

石井さんと共作した長田さんのデビュー作『あおいカエル』(リトルモア)

映画監督と絵本作家、共作のきっかけ

――長田さんのデビュー作となった絵本『あおいカエル』(2016)には、「ぶん(文):石井裕也」というクレジットがあります。おふたりの協働のきっかけは?

石井 サクがこの本を出そうと頑張っていたころ、出版元のリトルモアの孫家邦社長(『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』のプロデューサーでもある)から連絡があったんです。「このままだと、サクはアカンくなる」と。

長田 はい(苦笑)。いま思えば10冊くらいの絵本で表現すべきものを、1冊に詰め込もうとしていて。デビューの力みと、やりたいこととやれることの葛藤で、精神的な肉離れみたいになったまま突っ走り、編集者もお手上げになりつつあるときでした。

石井 たぶん、ショートしちゃったんだろうね。やりたいことと、実際に表出してくることの間に乖離が生まれて。その悔しさも含め、色々なことがうまく外に出せず、ただ沈殿してしまう。若い作家にはよくあることで、僕にも経験があります。それで孫さんは、サクと交流がある僕に、何か手助けしてやれないかと連絡してきました。大事な商業デビュー作に自分が関わってよいのか悩んだのですが、このときのサクはとにかく作品を形にするのが重要だとも思いました。失敗してもいいから形にすることで、きっと視野は広がり、次の創作に進めるだろうとの予測があって、引き受けたんです。そもそも初めて彼の絵を見たときから、才能があるのはわかっていました。当初からこういう世界を、ちょっと狂ったような世界観で描いていたよね。

長田 はい(笑)。あのとき石井さんはシンプルな言葉で「譲歩や妥協ではなく、どこかいちばん大事かを見つめれば、何かわかってくるのでは」と言ってくれたのを覚えています。実際、自分の危うい部分を見直すことにもなったし、その後はやりたいことを良い意味で分散できるようになり、多くの絵本をつくれるようになりました。

〈後編に続く(後日リリース予定)〉

構成:内田伸一
Photo:中川周

取材協力:
GOOD MAD 長田真作原画展
2018年1月5日(金)〜1月14日(日)
会場:渋谷ヒカリエ 8/01/COURT
主催:現代企画室、リトルモア、PHP研究所、岩崎書店、方丈社、国書刊行会/協力:OURET
企画:小倉裕介(現代企画室)/制作:伊藤ヨシタカ(ルートカルチャー)/空間デザイン:吉田英司(Ballon)/グラフィックデザイン:久保頼三郎/照明:篠原力/制作協力:新井鈴香

石井裕也(いしい・ゆうや) 1983年生まれ。大阪芸術大学の卒業制作として映画『剥き出しにっぽん』(91分/16ミリ/2005)を監督。主な監督作に『川の底からこんにちは』(2010/第53回ブルーリボン賞監督賞他受賞)、『舟を編む』(2013/第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞他受賞)、『ぼくたちの家族』(2014)、『バンクーバーの朝日』(2014)など。

石井裕也(いしい・ゆうや)

長田真作(ながた・しんさく) 1989年広島県生まれ。2014年より独学で絵本の創作活動を始める。2016年に『あおいカエル』(リトルモア)でデビュー。以降『タツノオトシゴ』『コビトカバ』(以上、PHP研究所)、『かみをきってよ』(岩崎書店)、『きみょうなこうしん』『みずがあった』『もうひとつのせかい』(以上、現代企画室)、『ぼくのこと』(方丈社)、『風のよりどころ』(国書刊行会)、『ONE PIECE picture book 光と闇と ルフィとエースとサボの物語』(集英社)などを刊行。
http://www.nagata-shinsaku.com

長田真作(ながた・しんさく)

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