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No.007
深川資料館通り商店街協同組合(清澄白河)

2019.10.23

「清澄白河」駅から、東京都現代美術館へ続く深川資料館通り商店街。名物の深川めしや佃煮の名店から、古本屋、ギャラリー、雑貨店など新旧多様な店が並ぶ活気ある商店街です。この場所で、深川資料館通り商店街協同組合が、1998年に始めたのが「かかしコンクール」。やがて「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」にも組合として異例の出品を果たすほど盛り上がるイベントとなりました。なぜ農作地とは無縁の清澄白河で始まったのか。このイベントを始めた分部登志弘(わけべ・としひろ)さんに、そのいきさつを伺いました。

今年度の「第22回 かかしコンクール」のようす
今年度の「第22回 かかしコンクール」のようす

世相を反映する地域アートのコンクール

「現代アートが好きなので、深川に東京都現代美術館ができてうれしかった」と話すのは、今年81歳になる「あづま屋文具店」の分部登志弘さん。深川資料館通り商店街協同組合で22年続く「かかしコンクール」を主宰しています。この800mほどの通りに150体以上のかかしが並ぶのは毎年9月。東京都現代美術館で行われる授賞式には、100名を超える応募者はもちろん、江東区長や国会議員、地元の消防署、警察署も列席するなど江東区をあげての一大イベントです。

商店街協同組合の会長を務める分部登志弘さん
商店街協同組合の会長を務める分部登志弘さん

コンクールの応募条件は「どこからでも どなたでも」。今年のテーマは「オリンピック」「リアル」「自由部門」の3つでした。応募総数は165体。作品のラインナップを見ると、2020年の東京オリンピックを想起させるようなスポーツ選手のほか、テレビ番組で人気の「チコちゃん」、内田裕也・樹木希林夫妻などがモチーフに。「ビッグニュースがあると、そこに着目したかかしが生まれる。話題になった出来事が反映されるのは早いんですよ」と分部さんは言います。

かかしには近年話題になった出来事が反映される

かかしには近年話題になった出来事が反映される
かかしには近年話題になった出来事が反映される

疎開先で稲穂が好きになった

深川といえば江戸時代の埋立地。田園風景とは程遠い下町情緒漂うまちに、なぜかかしなのでしょうか。そのきっかけをたどると、戦時中の経験が関係していました。第二次世界大戦が始まる以前、1938年にあづま屋に生まれた分部さんは、幼い頃に大空襲を経験します。家の前に焼夷弾が落ち、火傷を負いながらも深川区役所(現・江東区深川江戸資料館)に逃げ込みました。

「逃げ込んだあとにまた火の手があがったんですが、外から扉をドンドンとたたく人たちがいる。でも、いまこの扉を開けたら火が入ってしまう。火が静まったあとに扉を開けたら、真っ黒になった人が山となっていて……」。

現在の深川江戸資料館。この資料館がある通りを「深川資料館通り」と呼ぶ
現在の深川江戸資料館。この資料館がある通りを「深川資料館通り」と呼ぶ

1945年3月10日の東京大空襲では、下町の江東区、墨田区、台東区などが焼け野原になり、10万人以上の犠牲者が出たとも言われています。悲惨な光景を目のあたりにし、その足で埼玉・大宮に嫁いだ姉の元に向かい、そのまま3年間の疎開生活を送りました。疎開先は、それまで見たことのない田畑に囲まれた土地でした。
「小学校の宿題が勉強じゃなくて、草刈りだったんです。田畑で草を刈って校庭に持っていき堆肥にする。草とか藁とか、深川の生活にはなかったものだから珍しかったですね。そのあと田んぼの稲穂はどんどん垂れ下がって、お米が実って。その稲穂が好きでした」。
壮絶な経験をした分部さんにとって、稲穂は穏やかな暮らしの象徴だったのかもしれません。

東京都現代美術館の地下講堂で行われた「かかしコンクール」の授賞式。賞の種類は9つ
東京都現代美術館の地下講堂で行われた「かかしコンクール」の授賞式。賞の種類は9つ

終戦後、分部さんは清澄白河に戻り、やがて文具店を継ぎました。ある時、店によく出入りしていたメーカーの営業マンと話していると、実家が埼玉の農家だということがわかり、疎開先で見た稲穂のことを思い出しました。
「彼に稲穂を送ってもらえませんか、とお願いしたら、たくさん送ってくれたので店の前に飾りました。そこに細い竹を買ってきてかかしをつくったら、近所で評判になったんです」。

その出来事を機に商店街で「かかしコンクール」をやったらどうだろう、と思いついたそうです。なぜこんなところでかかしなんだ、と最初は商店街でもなかなか受け入れてもらえませんでしたが、徐々に周囲を説得し、20年以上続く大きなイベントになりました。

授章式には多くの人が参加。式の前後、会場ではさまざまなパフォーマーが大道芸や演芸を繰り広げていた

授章式には多くの人が参加。式の前後、会場ではさまざまなパフォーマーが大道芸や演芸を繰り広げていた
授章式には多くの人が参加。式の前後、会場ではさまざまなパフォーマーが大道芸や演芸を繰り広げていた

地域全体でアートのまちを盛り上げる

「かかしコンクール」は商店街を飛び出し、新潟県で3年に一度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」にも2006年から3回連続で出品しています。「かかしはアートであると言うため」、募集の案内を見つけて応募したそうです。100本ほどのかかしを棚田に展示し、バスをチャーターし、商店街のみんなで越後妻有に出かけました。

取材当日は、「MOTサテライト2019 ひろがる地図」も開催。チーズ専門店のウインドウに施された光島貴之による作品。

取材当日は、「MOTサテライト2019 ひろがる地図」も開催。コーヒーショップの店内に施された光島貴之による作品。
取材当日は、「MOTサテライト2019 ひろがる地図」も開催。チーズ専門店のウインドウ(上)や、コーヒーショップの店内(下)に施された光島貴之による作品。

深川江戸資料館に展示された今和泉隆行[地理人]による作品(右端)
深川江戸資料館に展示された今和泉隆行[地理人]による作品(右端)

かかしをたどりながら商店街を歩いていると「よく知っているはずの場所でも新しい気づきがある」と分部さん。
「昔は生鮮品のお店がたくさんありましたが、いまは1軒しかありません。夕方になると買い物や銭湯に出かける人たちで賑やかだった商店街も、いまはすっかり様子が変わりました」。現在の清澄白河は、コーヒースタンドや洋菓子店、ベーカリー、新しい飲食店などが増え、いまも活気あるまちに変わりはありません。
「ここに来たいと思われるまちでいられたら」という思いから、同じくまちなかで展開する東京都現代美術館主催の「MOTサテライト」にも、「非常にいい取り組みですよね」と好意的な分部さん。美術館のリニューアル工事休館中、2017年に始まった「MOTサテライト」は周辺のエリアで、作品展示やイベントを行うプロジェクトです。分部さんは、展示場所として空き店舗を紹介するなど、初回から協力をしています。「清澄白河にアートを展開することで、まちの魅力を発見できる。リニューアルオープン後も続いているのはいいことですよね」。

さまざまなかかしが商店街を彩った

さまざまなかかしが商店街を彩った

さまざまなかかしが商店街を彩った

「かかしコンクールは子供から大人まで誰でも参加できますので、なかには不思議なかかしや、一見不格好なかかしも。でもどんな作品でも展示します。その人にとってのアートってあるから。それは現代アートにも通じますよね」と話す分部さんの眼差しには、地域に愛されるイベントが育つ理由がにじみ出ていました。

次回、2020年のかかしコンクールは、東京オリンピック・パラリンピックの開催に先立ち、7月に開催される予定です。

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

深川資料館通り商店街協同組合

[事務所]
住所:江東区三好3-8-5
TEL:03-3641-2464
定休日:土、日、祝日
営業時間:9:00-14:00(商店街事務所受付時間)
https://fukagawakakasi.wixsite.com/fukagawa

[イベントお問い合わせ]
TEL:03-3641-3452(あづま屋文具店)

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