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江戸アートナビ
No.004
しかけで楽しむ、隅田川の花火 作者不詳《影からくり浮絵(隅田川高尾つるしぎり)》 監修/安村敏信氏

江戸絵画の専門家・安村敏信先生と一緒に、楽しく美術を学ぶコラム「江戸アートナビ」。今回は、からくり仕掛けによって隅田川の花火が浮き上がる《影からくり浮絵(隅田川高尾つるしぎり)》を取り上げます。江戸の夏を彩る、打ち上げ花火の下で繰り広げられている悲劇とは……!?

作者不詳 《影からくり浮絵(隅田川高尾つるしぎり)》 東京都江戸東京博物館蔵 絵の後ろに明かりを灯すと、花火や提灯部分に光が透過し、美しい夜景が現れる


Point.1 粋な江戸っ子たちに愛された、打ち上げ花火

――江戸の夏の風物詩といえば隅田川の花火ですよね。

今ではすっかり定着していますが、もともと花火は関西が主流でした。戦国時代が終わると、鉄砲の火薬を扱っていた職人たちが職を失って花火師になり、線香花火みたいなものを売っていたんだな。ところが関西では売れなくて、江戸に花火をもってきたところ、ものすごく流行った。「鍵屋〜」「玉屋〜」の掛け声で有名な鍵屋も、奈良出身の花火師です。彼らが5月末あたりの川開きで、舟を浮かべて宴会をしている旦那衆から「鍵屋、一本やってくれ」なんて言われてお金をもらい、舟の上からポーンと打ち上げる。そんな風にして打ち上げ花火をやり出すと、これがものすごく人気になり、隅田川の花火も有名になった。まあ、それだけたくさん花火にお金を出すお大尽がいたわけです。一瞬のことにお金を使うのが粋だと思う江戸っ子がね。それで、鍵屋に注文が入って花火が上がると、「チクショー! こっちも上げてやろう」なんて、玉屋にも注文が入る。両国橋をはさんで競い合って花火が打ち上げられている様子は、『江戸名所図会』にも描かれています。

――今月の作品は、そんな花火が浮き上がって見えるのが面白いです。

Point.2 遠近法・レンズ・光を駆使した、“しかけ絵”

この絵がどういう仕組みになっているかというと、まず、花火や提灯のところが切り抜かれていて、その部分には薄い和紙が貼られています。花火の一部には色も塗られていたりして、芸が細かいんだよね。それで、この絵の後ろに明かりを灯すと、薄い和紙のところだけ光が透ける。そんな仕掛けが施されています。庶民たちはこれを、レンズを通して絵を見る“のぞきからくり”という装置を使って楽しんでいたようです。遠近法が用いられた絵をレンズ越しにのぞくと、奥行きがグッと増すので、みんなビックリ。西洋文化が入って来るまで、日本の絵には奥行きも遠近感もないからね(笑)。では、こういった“しかけ絵”はいつ登場したかというと、天明2(1782)年に刊行された山東京伝(さんとうきょうでん)の黄表紙『御存商売物』に記載があるんです。文中に“おらんだ大からくり”というものが出てきて、“京四条川原の夕涼みの景色が夜の景色へと変わり、さっと灯がともる”と説明されています。まさに《影からくり浮絵(隅田川高尾つるしぎり)》と同じような仕掛けが、18世紀後半には既に流行っていたんですね。

――花火や仕掛けにばかり目がいってましたが、スゴイ場面が描かれているんですよね。

Point.3 純愛を貫いた? 高尾太夫の最期

実はこの《影からくり浮絵(隅田川高尾つるしぎり)》は4連作のうちの最後の1点で、高尾太夫(たかおだゆう)と仙台藩主・伊達綱宗(だてつなむね)の吉原での出会いから身請け、伊達騒動、そして吊るし斬りが画題になっています。20代で隠居させられた綱宗は、絵を描いたり歌を歌って暮らしていて、狩野派のなかなか豪快な絵を残しているんだよね。本当はそっちに興味があるんだけど(笑)、まあ、綱宗は高尾太夫に入れ揚げて、太夫の体重と同じだけの小判を積んで身請けをしたのに、太夫には想い人がいて、その人との純愛を貫くために綱宗に心を開かなかった。それで花火の晩、豪華な屋形船を出して、接待しているにもかかわらず言うことを聞かない大夫に対して、綱宗はとうとう頭にきたんだね。「このヤロー!」と舟の上で吊るし斬り。夜空に描かれている花火がシューッと落ちていくところなのは、太夫の死の場面と重ねているのかもしれない。ただ、太夫の想い人って5説くらいあって、いろんな男がいて、誰かわからないんです(笑)。

――モテる女は大変ですね! さて次回8月は背筋も凍る幽霊画、ではなく、ちょっと不思議で少女漫画チックな幽霊画を紹介します。お楽しみに!

イラストレーション/伊野孝行 http://www.inocchi.net/


 

監修/安村敏信(やすむら・としのぶ)
1953年富山県生まれ。東北大学大学院博士課程前期修了。2013年3月まで、板橋区立美術館館長。学芸員時代は、江戸時代の日本美術のユニークな企画を多数開催。4月より“萬美術屋”として活動をスタート。現在、社団法人日本アート評価保存協会の事務局長。主な著書に、『江戸絵画の非常識』(敬文舎)、『狩野一信 五百羅漢図』(小学館)、『日本美術全集 第13巻 宗達・光琳と桂離宮』(監修/小学館)、『浮世絵美人解体新書』(世界文化社)など。
http://nichibi.webshogakukan.com/yorozu/

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