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江戸アートナビ
No.008
江戸の流行神!? 美女於竹さんと影絵の系譜 歌川国芳 《下女如来障子へうつる法のかげ》
 監修/安村敏信氏

江戸絵画の専門家・安村敏信先生と一緒に、楽しく美術を学ぶコラム「江戸アートナビ」。今回は、歌川国芳(うたがわくによし)の《下女如来障子へうつる法のかげ(げじょにょらいしょうじへうつるほうのかげ)》に描かれた美女、於竹(おたけ)さんに注目するとともに、日本絵画における影の表現の変遷をたどります。


Point.1 流行神となった於竹とは?

歌川国芳 《下女如来障子へうつる法のかげ》 東京都江戸東京博物館蔵
歌川国芳 《下女如来障子へうつる法のかげ》 東京都江戸東京博物館蔵

――於竹さん……、初めて聞く名前ですが、有名だったんですか?

口裂け女とかトイレの花子さんとはちょっと違いますが、一大ブームを巻き起こして、いつの間にか消えていった都市伝説のような人と言うのかな。大伝馬町の佐久間家に仕えていた女中で、洗い物をするときは流し場に袋を置き、洗い流した米粒まで粗末にすることなく乾かして食べたとか、自分のご飯は貧しい人や動物にあげたとか、善行を積んだ素晴らしい女性だったようです。おまけにとても美人で、この絵では男が言い寄ろうとしています。ところが近づいてみると、障子に仏の影が――。於竹さんの正体は大日如来だったという伝説が絵画化されています。

於竹伝説にはいろいろあるんですが、羽黒山の行者が「竹は大日如来の化身である」という夢のお告げを受けるんですね。それを信じて於竹さんに会いに行くと、彼女の全身から光が。夢のお告げは正しかったと思ったんでしょう。竹自身、念仏に励むようになり、彼女が亡くなると家主の佐久間夫妻は等身大の仏像をつくって供養。その後、この仏像は羽黒山の仏殿に安置されました。それを出開帳という形で回向院に持ってくると、江戸で大当たり。ただ仏様を拝むより、善行を積んだ於竹さんを拝んだ方がいいんじゃないかと、庶民信仰の対象になったんですね。於竹さんの浮世絵は多数刷られ、美談に尾鰭(おひれ)がついて物語から伝説にまで発展。一躍、時の流行神となったというわけです。

Point.2 日本絵画における影の表現の変遷

――影が印象的ですが、こういう手法は以前からあったんですか?

日本の絵画の中でいちばん早く描かれた影の例は、鎌倉時代の絵巻物《一遍上人絵伝》に見られますが、影を本格的にテーマとした絵は、元禄時代にならないと出てきません。英一蝶(はなぶさいっちょう)が積極的に影を描き始めたんですね。《朝暾曳馬図(ちょうとんえいばず)》の川面に映る影、《四季日待図巻(しきひまちずかん)》の障子に映る影などが有名で、それ以降、ほかの絵師たちも影を描くようになりました。

歌川広重(うたがわひろしげ)の《猿わか町よるの景》では満月に照らされた影、葛飾北斎(かつしかほくさい)の《くだんうしがふち》では洋風版画に対抗した影の表現が試みられています。国芳も忠臣蔵の討ち入りの場面で月影を描いていますね。これらは西欧から入ってきた銅版画の影響を受けています。銅版画に描いてあった影を見て、初めて影って描くものなんだなと認識したわけです。もちろん日本人も影があることはわかっていました。だけど、描く必要はないと思っていたんです。北斎や広重あたりが影をもっと面白くしてやろうといろいろな表現に挑戦し、そこからまた新たな手法が生まれました。

Point.3 遊び心にあふれた影絵も登場

歌川国芳 《猫の当字 うなぎ》 和泉市久保惣記念美術館蔵
歌川国芳 《猫の当字 うなぎ》 和泉市久保惣記念美術館蔵

――具体的にどんな影の表現があったんですか?

《下女如来障子へうつる法のかげ》では、於竹さんの実態が影で表されていますが、虚と実を対比するような表現が進むと、影主体の絵も出てきます。顔を描かない、影の肖像画なんてのもあるんですよ。シルエットで役者の横顔を描いている役者絵なんかものすごくリアルで、ファンが見たら誰が描かれているかすぐわかったでしょう。顔を描かず影で真実を映し出すなんて、面白いですよね。

お遊びの要素が強い絵もたくさん描かれました。障子に映った松の木のシルエット、その正体は編み笠を持った人間でしたとか、金魚のシルエットかと思いきやタヌキだったとか、影と実態が全く違う浮世絵なんかは、その意外性が評価されていっぱい描かれました。シルエットではなく文字の形に絵をはめ込むようなものもあって、国芳の《猫の当字 うなぎ》という作品は、猫の体で“うなぎ”という文字を形づくっています。他にも、以前このコラムでとり上げた影からくり浮絵のような、絵の後ろから光を当てて影の変化を楽しむようなものも流行し、江戸の庶民を楽しませていたようです。

イラストレーション/伊野孝行 http://www.inocchi.net/


 

監修/安村敏信(やすむら・としのぶ)
1953年富山県生まれ。東北大学大学院博士課程前期修了。2013年3月まで、板橋区立美術館館長。学芸員時代は、江戸時代の日本美術のユニークな企画を多数開催。4月より“萬美術屋”として活動をスタート。現在、社団法人日本アート評価保存協会の事務局長。主な著書に、『江戸絵画の非常識』(敬文舎)、『狩野一信 五百羅漢図』(小学館)、『日本美術全集 第13巻 宗達・光琳と桂離宮』(監修/小学館)、『浮世絵美人解体新書』(世界文化社)など。
http://nichibi.webshogakukan.com/yorozu/

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