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トーキョー・アートエッセンス
No.002 思い出に残るあの美術館 荻原朔美氏 写真
書き手:多摩美術大学教授・演出家 荻原朔美氏
演出家、映像作家、版画家、エッセイスト、大学教授・・・様々な経歴はまさに多芸多才。そんな萩原朔美氏が初デートした頃のドラマチックな思い出がいま甦ってきます。

 昔よく聞いた歌を耳にすると、急に思い出が甦ってくる。それと同じことが場所でも起きることがある。昔行ったことのある場所に立つと、ゆっくり思い出が再生されるのだ。
 そんな時、
 「自分が物語をそこに作れば、その土地の地主になれるんだ」
というフォークナーの有名な言葉を思い浮かべてしまう。
 物語といっても、私の場合は東京を舞台にした小説を試みることではない。自分の実人生を少しばかりドラマチックに作り上げようと努力するだけのことだ。
 たとえば、知らない土地に引っ越して数年暮らす。(実は今まで15回引っ越した)で、何十年か後にその数年間を振り返った時、その土地がまるで自分のふるさとのように思えてくる。思えてくるように積極的に思い出づくりに励む。私にとって地主になるというのはそういうことなのだ。
不忍池の畔から上野の森を望む
不忍池の畔から上野の森を望む
 私は、都内のいくつかのホールや美術館の「地主」である。
 生まれて初めてデートした場所が東京文化会館だった。これは忘れられない。一体どんな話をしたらいいのだろうか。どんな服を着ればいいのか。喫茶店にすら入ったことのない17歳だった。たしか大学の吹奏楽コンクールのような催しだったと思う。ホールの大きな内部の空間に圧倒された。なんという曲目が演奏されたのか。まったく覚えていない。2歳下の彼女の白いワンピースが、座席と座席の階段通路をゆっくりと登って行く。そのシーンだけは今でも鮮明に思い出す。何故か白いワンピースの彼女の動きはスローモーションなのだ。
 この初デートだけで物語が終わっていれば、上野は私にとって気持ちいい土地だった。

 ところが、どういうめぐり合わせか第2章があった。失恋もまた上野だったのだ。これもまた忘れることができない。
 東京都美術館。僕らの中で「トビカン」と呼んでいた場所だ。企画展を観た後に館内の喫茶店に入った時だ。20代から付き合っていた彼女が唐突に別れ話を持ち出した。
 「結婚したい人が居るの」
何故か店内の話し声がすうっと消えた。春の心地良い空気に浮かれていた心が固まってしまった。
 実は、何年か前に子供と一緒に「トビカン」に行った。遠縁の者が出品している団体展を観るためである。浮き世のギリである。観終わって、子供が休みたいというので館内の同じ喫茶店に入った。失恋した相手と一緒になっていたら、目の前の子供はここには居ない。ふとそう思った。不思議な感じがした。訳もなく面白くなって笑ってしまった。子供がいぶかしげに私の顔を見た。私はその時、やっと「トビカン」の地主になれたような気がしたのであった。

周辺を散策しながら楽しめる東京都美術館
周辺を散策しながら楽しめる東京都美術館

萩原氏の気分でQ&A
──仕事以外で美術館や博物館を訪れるのはどんなときですか。
散歩の途中でふと入ったりすることはしょっちゅう。目的じゃない気安さが心地いい。もちろんデートなんかも。目的は別ですからね。(笑)
──美術館などで絵を鑑賞する以外の楽しみ方は何かありますか。
観終わった後に、ランチしたり、お茶したりすること。だから、近くに公園がある美術館はうれしいですね。それと、本やミュージアムグッズを買うことが楽しみ。街の本屋さんに置いてないカタログや画集、写真集はみんな美術館で買っています。
──東京で好きな場所とかエリアなどはありますか。あれば、その理由も聞かせてください。
特に限定したところは……。ありません。たぶん休日にフラッと行ったエリアがその時好きな場所になるんだと思います。
──いま何かチャレンジしてみたいことはありますか。
オヤジバンド! ジャズのフルバンドなんかできたらいいと思います。私はドラム。これは私の青春の思い出です。

萩原朔美 萩原朔美 写真
1946年東京都生まれ。67年から70年まで寺山修司主宰の演劇実験室・天井棧敷に在籍。75年『月刊ビックリハウス』(パルコ出版)を創刊、編集長に。イメージフォーラム映像研究所講師。多摩美術大学教授。著書に『毎日が冒険』(三月書房)、『思い出のなかの寺山修司』(筑摩書房)、『小綬鶏の家』(集英社)他多数。
多忙な中でも美術館にはよく通う萩原さん
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