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トーキョー・アートエッセンス
No.005 美術館のはじまり 谷川渥 写真
語り手:美術評論家・國學院大学教授 谷川 渥 氏
國學院大学で教鞭をとるかたわら美学におけるさまざまな研究をすすめ、美術評論などの著書も多い谷川渥氏。今回は、美術館のルーツについて語っていただくとともに、ヨーロッパと日本の美術館の違いとそのあり方について率直なご意見をいただきました。

 美術館の始まりは何だったのかと考えるとき、17世紀にオランダなどで流行した「画廊画」を思い浮かべることができます。「画廊画」とは英語で“Gallery Painting”と言われ、ひとつの部屋の中に数多くの絵画や彫刻が飾ってある様子を絵にしたものです。貴族が美術品のコレクションを始めた時代に、現実の、あるいは空想の所蔵品を一枚の絵の中に描き込んだのです。この一種の幻想絵画を現実化したのが美術館と言えるのではないでしょうか。
 西洋では“ミュージアム”というひとつの言葉ですが、日本では“美術館”と“博物館”というふたつの言葉で使い分けています。この問題については『美学の逆説』(ちくま学芸文庫 2003年)の中で扱っていますが、神聖ローマ帝国のハプスブルク家がその発想の始まりではないかと考えています。彼らは「王は宇宙の支配者である」という認識を持って、この世界にあるすべてを王様のものとして収集しました。17世紀に「芸術と驚異の部屋」をつくって、自然と人為とを問わずさまざまなものを集めたのです。
 人間が手で作り出した美しいもの、面白いもの、それが絵画や彫刻、陶器などさまざまな美術品であり、のちに美術館に展示されました。そして、自然が生み出した貴重なもの、珍しいもの、例えば宝石などの鉱物や動物、植物などを集めたものが博物館で展示されるようになったのです。
 ウィーンではこのハプスブルグ家の膨大な財宝を、美術史美術館と自然史博物館に保存しています。両者は向かい合わせの建物で、ほとんどの観光客は美術史美術館だけ訪問しますが、自然史博物館も必見です。とてつもない宝石が展示されており、ハプスブルク家の誇った王の権力がいかにすごいものであったのかを感じさせます。

 この王様のための空間を他の王侯貴族たちも真似て、美術品をコレクションするようになりました。18世紀にフランス革命が起きて、これらのコレクションを民衆のために一般公開したのがルーヴル美術館です。特権的な空間と美術品が権力者のものから民衆のものへ移っていったと考えることができるでしょう。
 パリの美術館はうまくできていて、ルーヴル美術館に行けば、古代から18世紀あたりまでのヨーロッパ芸術の歴史がわかり、オルセー美術館に行けば、近代の名作が集められています。そして、ポンピドゥー・センターでは現代美術の作品を鑑賞することができます。美術や歴史についての知識があまりなくても、外国人でも、それぞれ展示されている内容にふさわしい建築空間の中で、フランスの美術のルーツや流れについて分かるようになっているのです。
1793年に開館したルーヴル美術館はフランス内外から年間約600万人が訪れる
1793年に開館したルーヴル美術館はフランス内外から年間約600万人が訪れる

19世紀の美術を収蔵するオルセー美術館は、鉄道の駅舎を美術館に保存利用している
19世紀の美術を収蔵するオルセー美術館は、鉄道の駅舎を美術館に保存利用している
 日本の美術館は明治以降、西洋の美術館の制度が入ってきてから整えられました。ヨーロッパのような莫大な富を背景にコレクションした歴史がないために、なかなか一カ所に美術品を集中して所蔵・公開することはできないと思います。それ故、短期集中型の企画展によって、外国の美術館の作品を借用する傾向にあります。日本美術についても、本物を見たいと思ったら、やはり、奈良や京都のお寺に行って仏像を見たり、襖絵を見るほかはないのかもしれません。このあたりに、日本の美術館の今後の課題があるのではないでしょうか。私自身は、外国の人が来て、この美術館に行けば基本的な日本の美術の流れがすべて分かる、という空間が東京にあるといいなと思っています。西洋的な美術館の手法と日本独自の伝統的な美術のあり方をうまく融合させるようなことができれば面白いのではないでしょうか。さまざまなアイデアを持っている学芸員などの方々がリーダーシップを発揮して文化戦略的に企画を進め、魅力的な美術館運営を実現して欲しいと期待しています。

次回は‥‥
谷川氏が通う東京の美術館やイタリア滞在中のエピソードなどをご紹介します。(9月13日アップ予定)

お知らせ

谷川氏が翻訳した演劇が次の日程で公演されます。

タイトル:「エリーニュスがエウメニデスになるとき」
原作:アイスキュロス
翻訳:谷川 渥
構成・演出:ルティ・カネル

■期間:9月14日(金)〜23日(日)
■場所:両国シアターX(カイ)


谷川 渥 谷川 渥 写真
1948年東京生まれ。東京大学大学院修了後、美学、哲学、西洋美術分野での評論執筆活動を行う。現在、國學院大学哲学科教授。2006年に在外研究のためローマに1年間滞在。主な著書に、『美のバロキスム』(武蔵野美術大学出版/2006年)、『廃墟の美学』(集英社新書/2003年)、『芸術をめぐる言葉』(美術出版社/2000年)、『幻想の地誌学』(ちくま学芸文庫/2000年)、『鏡と皮膚』(ちくま学芸文庫/2001年)、『図説 だまし絵』(河出書房新社/1999年)など。
 
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