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トーキョー・アートエッセンス
No.006 ローマでのアート鑑賞術! 谷川渥 写真
語り手:美術評論家・國學院大学教授 谷川 渥 氏
國學院大学で教鞭をとるかたわら美学におけるさまざまな研究をすすめ、美術評論などの著書も多い谷川渥氏。今回は、イタリアのローマに1年間滞在したときの芸術の楽しみ方について、日本では信じられないような体験談を語っていただきました。

 2006年の4月から1年間、在外研究のためローマで暮らしました。毎日のように美術館や教会へ通うという、日本では考えられない贅沢な時間を過ごすことができました。私が滞在していたアパートは、ローマの中心地といっていいナヴォナ広場の裏に位置していました。すぐそばにバロックの建築家ピエトロ・ダ・コルトーナがファサードを手がけたデッラ・パーチェ教会がありますが、ここではラファエッロのすばらしいフレスコ画が見られます。ブラマンテが設計した付属する回廊では、ちょうどカラッチの展覧会があり、貴重な作品が一堂に集められていました。

 ローマでの芸術の楽しみ方のポイントは、なんといっても教会です。通常美術館に収蔵されるような作品が、それこそ無尽蔵に街中の教会にあるのです。例えばカラヴァッジョ、美術館以外に2つの教会を訪ねれば、その作品を見ることができます。サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会には、聖マタイを主題とする3点。サンタ・マリア・デル・ポポロ教会には、聖パオロと聖ピエトロを扱ったそれぞれ1点、あわせて2点の絵画があります。ちなみにこの教会内には、ラファエッロ設計のキージ家の礼拝堂があり、そこにはベルニーニの彫刻が2体置かれています。教会の一つひとつに言及していたらきりがありませんが、あと一つだけ、フィリピーノ・リッピの美しいフレスコ画が見られるサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会を挙げておきましょう。

 日本にいる時に画集の中で見ていた作品が、こんなところにあったのか! という発見の連続でした。教会がアーティストたちに仕事を依頼し、各工房が腕を競い合ったということをまざまざと見せつけられます。既存の形式を打ち破る斬新な作品が生まれ、ルネサンス芸術で世界を席巻したのも、教会がパトロンとして芸術を支え、より素晴らしい作品を求めたためと考えることができると思います。教会が持っている雰囲気も素晴らしく、作品が生まれた時間と空間が、現在とつながっていることを感じさせます。ちょっと入りにくいかもしれませんが、大声で騒いだりしない、肌を露出した服装を避ける、入場料のない所には気持ち程度の寄付をするなど、マナーを守れば、誰でも見学可能です。
デッラ・パーチェ教会のブラマンテ回廊はカフェになっている
デッラ・パーチェ教会のブラマンテ回廊はカフェになっている

ヴァチカン博物館は見学に3時間以上かかるほどの広さがある
ヴァチカン博物館は見学に3時間以上かかるほどの広さがある

ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院はブラマンテ、ミケランジェロ、ベルニーニなどの手によりつくられた
ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院はブラマンテ、ミケランジェロ、ベルニーニなどの手によりつくられた
 もちろん、美術館も欠かせません。なかでも圧巻なのは、ヴァチカン博物館、ボルゲーゼ美術館、そしてバルベリーニ宮ですね。ヴァチカンはキリスト教芸術の最高のものが集めてあり、その長年にわたる権力を象徴する場となっています。システィーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画や「最後の審判」はいうまでもなく、「ラオコーン」をはじめとする古代彫刻、ラファエッロの「アテナイの学堂」「キリストの変容」など、素晴らしい作品ばかりです。ロダンは「ベルヴェデーレのトルソ」を見て、我々は古代人には勝てないと絶賛し、これをきっかけに断片様式を始めたといわれています。

 ボルゲーゼ美術館は、イタリア名門貴族の底力を感じさせます。現在、ボルゲーゼ一族の敷地はローマ最大の公園になっているのです。そして、ベルニーニの「アポロンとダフネ」、カラヴァッジョの「ゴリアテの首を持つダヴィデ」などの数多くの名作が、素晴らしい屋敷の中に展示されています。予約をしないと入れないので気軽に行けませんが、必見です。バルベリーニ宮の国立古典絵画館は、やや地味ですが、ここにもラファエッロ、ティントレット、カラヴァッジョの素晴らしい作品があり、なによりもコルトーナの天井画「神の摂理の勝利」は必見でしょう。建物は、ベルニーニとボッロミーニの手になるバロック時代の代表的建築です。

 ローマから東京に戻ると、東京はいつの間にかきれいな街になってきたなと感じました。ただ、広場やオープンカフェといった公共空間があまりないですね。息が詰まる感じになるときがあります。日本の閉鎖性を考える時、街の構造の問題が多少なりとも影響しているのではないかと思います。一度勇気を持って、人々を自由に包み込むような何もない広いスペースを作ってみたらよいのではないでしょうか。広場の歴史の違いや文化戦略的な問題もあるかと思いますが、我々が少しずつオープンな空間を楽しめるようになると、何かが変わるのではないかと感じました。

お知らせ

谷川氏が翻訳した演劇が次の日程で公演されます。

タイトル:「エリーニュスがエウメニデスになるとき」
原作:アイスキュロス
翻訳:谷川 渥
構成・演出:ルティ・カネル

■期間:9月14日(金)〜23日(日)
■場所:両国シアターX(カイ)


谷川 渥 谷川 渥 写真
1948年東京生まれ。東京大学大学院修了後、美学、哲学、西洋美術分野での評論執筆活動を行う。現在、國學院大学哲学科教授。2006年に在外研究のためローマに1年間滞在。主な著書に、『美のバロキスム』(武蔵野美術大学出版/2006年)、『廃墟の美学』(集英社新書/2003年)、『芸術をめぐる言葉』(美術出版社/2000年)、『幻想の地誌学』(ちくま学芸文庫/2000年)、『鏡と皮膚』(ちくま学芸文庫/2001年)、『図説 だまし絵』(河出書房新社/1999年)など。
 
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