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トーキョー・アートエッセンス
No.009 美術館は未体験を体験する場所 千住 博 写真
語り手:日本画家 千住 博 氏
現在、東京・京都・ニューヨークの3箇所に活動拠点を置いている日本画家の千住博氏。東京を仕事の打ち合わせや社会的活動の場とし、京都では京都造形芸術大学の学長として芸術教育の分野でアーティストたちと共に仕事をしています。そして、作家として作品制作に集中する場所と定めたところがニューヨーク。まさに、世界をまたにかけた活躍をされています。

アートは自分の枠を広げるための装置

 東京・京都・ニューヨークを活動の拠点にしていますが、実に多くの美術品が集まっているのが東京。世界でも有数の文化財が存在しています。私立の美術館、記念館などもたくさんあり、常に多くの展覧会が開催されています。しかし、残念なことは、多くの人がそのことをあまり自覚していないのではないかということ。あまりにも身近にありすぎて、目がいかないのかもしれません。若い作家についても同様のことがいえます。東京には、世界レベルで通用する質の高いアーティストがたくさん集まって作品を発表していますが、ほとんど理解されていないのではないでしょうか。このような構造を生み出した要因は、アートを啓蒙する人たちの教育がアンバランスなために、きちんとしたアートプロデューサーを育てられていないという点にあるように思います。世界の中の東京、その役割について、改めて考えてみる必要があるでしょう。

 京都は、仕事をするようになって感じたことですが、1200年という歴史のある町で、お寺や美術品と一緒に暮らし、それらを自分たちの工芸などに取り入れる文化のシステムができています。京都の方が、自分たちは文化財と共に生きているという自覚を持つことは、自然なことだと思いました。

 ニューヨークは、非常に多くの美術館が常に多くの人によって賑わっています。一般の方たちが、運動靴をはいて美術館の中を散歩するように歩いています。未知のものと触れあい、自分にわからないものがあることは何と素晴らしいことだろうと、未体験を体験して楽しんでいるのです。理解不可能なものを見るという、その知的な喜びをもって、彼らが美術文化に接し、歴史や人類全体に対する尊敬の念を持っている姿が見てとれます。

ザ・フォール(95年ヴェネチア・ビエンナーレ優秀賞受賞作)
ザ・フォール(95年ヴェネチア・ビエンナーレ優秀賞受賞作)
 日本人は根本的に彼らとスタンスが違うと思いましたね。しかし日本の美術館は、理解できるもの、見たことがあるものを確認するような、安心を見に行くための場所になってはならないのです。自分の理解を超えるものを見て、自分を高めようとして美術館に足を運ぶという考え方を持ってほしいと思います。アートは、わかるものを見て自信をつけるのではなく、わからないものを見て自分の枠を広げるための装置なのです。そういう風に考えれば、現代美術でも抽象絵画でも、「何でこうなっちゃうの?」という素朴な疑問から、人間の意識というものへの観察力が生まれてきます。同時に、自分の固まりつつある頭をシェイクして、自分を押し広げていく作業でもあるのです。わからないものに接するということの大切さを、もっと知っていただきたいと思います。

日本人が持っていたはずの見ることの素養

 現在の日本文化のベースにもなっている江戸文化の大きな特徴は、文化というものが一般の人たちにも普及したということだと思います。その中でできたものが、歌舞伎であり、浮世絵であり、そして大相撲。「わかる」ということが、普通のこととして人々の頭の中に入ってきた。それは素晴らしいことですが、同時に弱点も生み出したと思います。

 異民族に囲まれていた欧米は、お互いに何とかしてわかり合おうとして、コミュニケーションが発生したと考えることができます。わからないものに接し、言葉も通じないようなわからないもの同士が共通項を探し出すことによって、異民族が理解し合い、今日のヨーロッパやアメリカを築いたのです。私は、彼らが自分たちの中で、いろいろな考え方があるけれど、皆同じ人間なんだなと考えることを認識する装置として生まれたのが芸術だと思います。

大徳寺聚光院伊東別院
大徳寺聚光院伊東別院
 ところが日本は、浮世絵や歌舞伎のように全員の共通項である芸術文化が非常に高度に登り詰めてしまったがために、共通項でない部分への対処法がどうしても後回しになってしまったのではないでしょうか。そういう意味で、わかりやすいものに対して、人々が引きつけられる傾向が強かったと考えることができます。さらに遡ると、日本の文化は西から東へと大陸を通じて伝播してきたものが、言葉は悪いですが、吹き溜まりのように集まった結果ともいえます。例えば、正倉院の御物を見ると日本の中に世界があると感じることができます。日本の文化は、想像を超えた多様性と国際性を最初から持っていたのです。このことを考えれば、日本人は、自分に違和感があるものを受け入れるということを最初からうまくやっていたはずです。わからないものを自分に許容することができる日本の文化を、今一度取り戻してほしいと思います。

次回は・・・
千住氏が考える芸術教育についてご紹介します。[1月17日(木)アップ予定]

千住 博(せんじゅひろし) 千住 博 写真
撮影:山口和也
1958年東京都生まれ。'82年、東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。'87年、同大学大学院博士課程修了。以後、日本画家として世界各国で個展を開催するなど活躍している。'93年、ニューヨーク・ギャラリー・ガイドの表紙に選出される。'95年、第46回ヴェネチア・ビエンナーレ絵画部門で東洋人として初の優秀賞を受賞。2002年、第13回MOA美術館岡田茂吉賞絵画部門大賞受賞。近作では、大徳寺聚光院別院の全襖絵、ホテル・グランドハイアット東京の壁画など。羽田空港第2ターミナルのアートディレクターなども手掛ける。『千住博画集-水の音』(小学館)、『絵を描く悦び』(光文社)などの著書も多数。2008年3月5日より日本橋島屋にて千住博展、大阪、京都、横浜を巡回。
 
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