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トーキョー・アートエッセンス
No.014 これからは、真逆のこともやりますよ。 日本民藝館(東京都目黒区駒場)
民藝運動の創始者である柳宗悦の企画によって昭和11年に開館
語り手:美術史家・明治学院大学教授 山下裕二氏
雪舟、若冲、岡本太郎から現代作家まで、幅広く日本美術の魅力を発信し続けている美術史家の山下裕二氏。なぜ日本美術ブームがおきたのか。そういった取材が来るようになったことを機に、これからは今までと真逆の試みを考えるようになったそうです。ブームの仕掛け人のひとりである同氏に、今後の活動やこれからの美術館のあり方についてお話しいただきました。

インターネットが、日本美術の垣根を低くした

 ここ20年ほど、日本美術のおもしろさを多くの人に知ってもらうための活動をしてきました。最近、私のところには、「なぜ、いま日本美術がブームなんですか?」みたいな取材がよくあります。意識的に発信してきたので、これまでの普及活動の成果がかたちになって、一巡したのかなと。ただ、日本美術への注目度が飛躍的に高まったのは、圧倒的にインターネットの影響が大きい。たとえば、今まで若冲の絵を見るには、専門書を探して拡げるしかなかった。それが、ウェブで「伊藤若冲」と検索すれば画像がすぐ出てくるようになったわけです。展覧会に行った誰かが、個人のブログに展覧会のレビューとカタログからスキャンした画像を載せてしまう。ネット上の無法地帯に、作品のヴィジュアルが一気に伝わる。若冲のディテールを見れば、誰でもすごいと思うでしょう。要するに、ダイレクトに画像にアクセスすることが簡単になった。これが、急速に日本美術の垣根を低くしたんですね。

 メディアがちょっとしたきっかけをつくれば、個々がネット上でバーチャルに体験している若冲の本物が見られる展覧会へは、待ちかねたようにワッと行くわけです。新しい観賞者の多くは、そんな、インターネットから情報を得た若い人の層と、自分の時間を持てるようになった団塊の世代。青年のころにはビートルズを聴いて、アンディ・ウォーホルはかっこいいなと思っていたけれど、日本の古美術はかっこ悪いと思っていた。そういった世代に、いざ情報が流通するようになると、「あれ、これってひょっとしておもしろいじゃないか?」と気づく。それに、年齢とともにだんだん日本回帰していくメンタリティも手伝って大量に動員されるようになったのでしょう。

日本民藝館 外観・内観(写真左・右)、 木喰明満《地蔵菩薩》日本民藝館所蔵(写真中央)柳宗悦によって再発見されるまで、木喰仏も長く忘れられた存在だった。そごう美術館で開催される木喰展では、「柳宗悦が発見した木喰」について日本民藝館学芸員の尾久彰三氏と特別対談予定。
日本民藝館 外観・内観(写真左・右)、 木喰明満《地蔵菩薩》日本民藝館所蔵(写真中央)
柳宗悦によって再発見されるまで、木喰仏も長く忘れられた存在だった。そごう美術館で開催される木喰展では、「柳宗悦が発見した木喰」について日本民藝館学芸員の尾久彰三氏と特別対談予定。

日本美術は、ハイブローな空間で楽しむものに

 ある意味では、日本美術を普及するという私の役割はいったん終わったかなと思っています。これからは、真逆のことをやるつもりです。ハードルの高い展覧会をつくりたいんです。高い入場料、最高の空間で、18歳、いや35歳以上かな。鑑賞眼を持った人だけが入れるR指定の展覧会。本当に楽しめるか、入館前にその人のセンスをテストしたいぐらい(笑)。美術館を、もっと質の高いハイブローなものにしたいんです。大人から子どもまで誰でも見られるものじゃなくて、特定の人だけが見ることができるものもあっていい。教育普及活動の一環として、先生に無理やり美術館へ連れて来られて見るのでは、子どもは美術館を嫌いになる。見ちゃいけない、というものほど見たくなるんですよ。美術館はいつか大人になったら行ってやるという、あこがれの場になるべきなんです。かつての18禁の映画館のような存在。高校生が頑張って変装してきたら、まあ見逃してやる(笑)。本当に見たいというあこがれの対象になると、少し見ただけでも心に染みて、それが後の人生の糧になるんですよ。

 それにしても、いまの日本の美術館は世界的に見ても特異な存在です。数の多さに加えて、メディアが展覧会を主催するというのは日本特有の運営システムです。これでは公平な目線で批評できない。横並びな展覧会になってしまう。美術館というのは、個人の趣味に貫かれたものであるべきなんです。昭和11年に開館した駒場の日本民藝館は、柳宗悦個人のテイストが隅々まで行き渡ったすばらしい空間です。個人の趣味がここまで貫かれたところは、本当に少ない。展覧会も、一個人の強い思いが貫かれたものを開催してほしいと思います。学芸員や主催者の、ぜひこの作家の作品を集めて紹介したい、という思いから組織を動かして展覧会を開催すべきだと考えています。もちろん、そういった展覧会はあります。頑張っている学芸員もいます。これからも既存の価値を追認するのではなく、まだ誰も気づいていない新しい価値を発掘して提示するような展覧会を実現してほしいですね。マスコミ主導ではなく、個人主導の展覧会をつくる。私もやりますから。3年後の「増上寺展(仮称)」で、狩野一信の《五百羅漢図》を世に出しますよ。

次回は…
ジャズピアニストの山下洋輔さんをご紹介します。[6月12日(木)アップ予定]

狩野一信《五百羅漢図》第58幅「神通」部分 (c)増上寺蔵
狩野一信《五百羅漢図》第58幅「神通」部分 (c)増上寺蔵
インフォメーション

狩野一信筆《五百羅漢図》関連
■NHK BS ハイビジョン番組:今秋の放映を予定
■展覧会「増上寺展」(仮称):2011年の公開に向けて現在準備中

セミナー・対談
■ナディッフ モダン アート・セミナー 「日本美術」の現在・過去・未来
 講師:山下裕二
 日程: 第1講 6月28日(土)
第2講 7月5日(土)
第3講 7月19日(土)
第4講 7月26日(土)
 “日本美術ブーム”の現状
 “アートバブル”の功罪
 メディアと美術 −微妙な関係
 美術館への提言
 時間:各回17:00〜19:00
 受講料:1回/3,500円 4回/12,000円
 会場:Bunkamura 地下1F 会議室
 電話:03-3477-9134(4/28〜受付開始、各回定員25名)

■「生誕290年 木喰展」 特別対談「柳宗悦が発見した木喰」
 山下裕二×尾久彰三(日本民藝館学芸員)
 日時:7月6日(日)14:00〜
 場所:そごう美術館 展示室内(そごう横浜店 6F)
 電話:045-465-5515(当日10:00〜座席券配布、定員80席)
 ※参加費は無料ですが、入館料が必要となります
 公式ホームページ:http://www2.sogo-gogo.com/common02/museum

※各イベントの詳細、お申込み方法等は、公式ホームページ・お電話にてご確認ください。

若手アーティストにむけて
一番やりがいを感じている仕事が、まだ注目されていない若い作家を紹介する雑誌(『美術の窓』)の連載です。美大や芸大を出ても、生きていく手立てがないわけです。だから、藁にもすがる思いで公募展に応募したり、貸ギャラリーで発表の場を設けて頑張っている。私自身もかつて挫折を味わったことがあるので、才能ある若い作家で一生懸命やっている人を応援したいという気持ちは強いですね。いわゆる現代美術のカテゴリーでは、美術だからということで守られている空虚な価値観があまりにも強すぎるけれど、要は作品がどれほどの強度を持っているかということ。美しいものを見たい。ただ色がきれいだとか、形が整っているという意味ではないですよ。可能な限り美大の卒展や小さなギャラリーまでまわっていますが、これからも、誰も保証していない価値を、自分で見つけ出して発信していきます。


山下裕二(やましたゆうじ) 山下 裕二 写真
1958年、広島県生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院修了。美術史家。明治学院大学文学部芸術学科教授。日本美術応援団団長。1993年、論文「夏珪と室町水墨画」で国華賞受賞。室町時代の水墨画研究を端緒として、縄文から現代まで幅広い領域で評論活動を展開。主な著書は、『室町絵画の残像』(中央公論美術出版)、『岡本太郎宣言』(平凡社)、『日本美術の二〇世紀』(晶文社)、『若冲になったアメリカ人ジョー・D・プライス物語』(小学館)、赤瀬川原平氏との共著『日本美術応援団』(日経BP社)、『実業美術館』(文藝春秋)など。刊行中の雑誌の連載に、『文藝春秋』(文藝春秋)の「日本美のかたち」、『みる花椿』(資生堂)の「其ノ、ココロハ」、『美術の窓』(生活の友社)の「山下裕二の今月の隠し球」などがある。
 
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