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トーキョー・アートエッセンス
No.018 映画づくりに大切なのは、見せたいと思う人の顔が見えること (c)2007『ALWAYS 続・三丁目の夕日』制作委員会
語り手:映画監督 山崎貴氏
『ALWAYS 三丁目の夕日』を制作した映画監督の山崎貴氏は、その映像技術が世界的に評価されています。監督がいい映画をつくるために実践している技術的な側面とともに、映画づくりに欠かすことのできないエッセンスを語っていただきました。

「芥川賞受賞なるか!?」(c)2007『ALWAYS 続・三丁目の夕日』制作委員会
「芥川賞受賞なるか!?」
(c)2007『ALWAYS 続・三丁目の夕日』制作委員会
スタッフ全員で盛り上げた『ALWAYS 三丁目の夕日』

 昔はハリウッド映画などの洋画が好きでしたが、今はどちらかというと邦画の古い作品が好きです。時間のハードルを乗り越えてきた人たちの作品は、とにかくすごいと思っています。映画は、眼と聴覚が同時に刺激されるので、情報量がたくさんあってインパクトも強いと思います。でも、スタッフ全員が全方位で必死に頑張らないと人の心を打つ作品にはなりません。映画づくりで感じることは、スタッフ全員が頑張ることが大切。一人で頑張ってもうまくいかない。スタッフの一人ひとりが、つくっている映画を誰に見せたいのかがわかると、強くなる。つまり、誰かの顔を想像することができると頑張り方が違ってきます。『ALWAYS 三丁目の夕日』は、つくっていくプロセスの中で、「親に見せたい!」とみんなが思うようになった作品です。

 『ALWAYS 三丁目の夕日』は、もともとプロデューサーが、東京タワーが建設される景色を再現してほしいということからスタートしました。個人的には宇宙船やロボットをつくりたいと思っていたし、昭和という時代にも特に思い入れがなかったので、最初はあまり気が進みませんでしたが、お世話になっている方でもあり頑張りましょう! ということになったのです。

 どんな物語があるのかを聞いたら、とにかく東京タワーが毎日大きくなっていくので、それをVFXで再現してほしいと言うのです。それは、私の監督としての仕事じゃなくて技術だけが目当てなの? と寂しい気持ちにもなりましたが、若いスタッフを説得して制作を始めました。そして、専門学校時代の友人に昭和をテーマに映画を撮ることを話したことから、制作現場が盛りあがり始めました。彼は昭和の大ファンで、「それは素晴らしい! 羨ましい!」と絶賛してくれて、いかに昭和が素晴らしいかをとくと説明してくれました。彼にも制作を手伝ってもらったんですが、現場にそういうテーマ通の人が加わると、非常に雰囲気が変わるということを実感しました。とにかく好きですから、昭和の魅力をおもしろおかしく現場のスタッフに説明してくれて、だんだんみんなも盛り上がってきたんです。

  他の仕事にも言えることかもしれませんが、仕事としてやっているだけでは乗り越えられないものがあると思います。もっと楽な仕事は他にもあると思う。みんな映画が好きで入って来たけれど、辛いことも多いし、現実はそう簡単ではない。でも、この映画を見せたい人の顔が見えると違います。世界で初めてのものをつくるんだという志、みたいなことが大切なのです。今登っている山は、いつもの山ではない、頑張ろうという感覚。私は、それをスタッフと一緒に探していきたいと思っています。ただ基本的な姿勢、「映画づくりはルーティンワークではない、普段と違う特別なものをつくるんだ」ということは伝えていきたいですね。

一度やったことは上手に行く、その経験知を生かして
「鈴木オートの人々」(c)2007『ALWAYS 続・三丁目の夕日』制作委員会 「鈴木オートの人々」
(c)2007『ALWAYS 続・三丁目の夕日』制作委員会

 どうしたら質の良いものをつくることができるのか、ということについて考えると、映画づくりにコンピュータの技術が導入されて、トライ&エラーの実験をたくさんできるようになったことが、非常に重要だと思います。私は、プレビズ(PREVISUALIZATION)を非常に重視しています。プレビズは、コンピュータの中でセットを構築して、そこにキャラクターも並べて、そこで1回映画を撮ることです。カメラワークはラフですが、難しいカットなどは何回もそこでやってみます。それをやることによって、これはお金をかける価値があるとか、こんなに大変なことしても大したことないとかがわかってくるのです。シナリオを練ることも同じですが、取りかかりの段階で一生懸命やっておくと、すごくコストパフォーマンスがいいのです。同じお金を使うにしても、現場に行って失敗するよりは、思っていたことがうまくいくかどうかをラフの段階でやっておきたいと考えています。

 私には「一度やったことは上手にいく」という経験知があって、コンピュータの中で一度映画をつくることにしています。みんなには「体験ツアー」と言っていますが、そこで、撮影や美術、さまざまなことをシュミレーションしておくと、だいたいのことは初めてやるより上手くいきます。ただ一つ問題なのは、新鮮味がなくなってしまうことです。新鮮さによって得られるエネルギーもすごくあるので、その部分を欠かすことはできません。いかに新鮮なままで体験ツアーをするかということについては、実際の舞台装置でやらずにヴァーチャルでやるのがすごく効果的です。ヴァーチャルで周到に準備した上で実際の役者さんが演じると、本当にリアルで新鮮で素晴らしいと感じることができます。「やっぱ実物はすごい!」とみんなで感動しています。

 機材の発注からロケ地の選定まで、プレビズをやってきちんと実験を重ねておくと、実際の現場でスタッフが不安を感じる部分に対しても、自信を持って大丈夫と言えます。基本的には監督がOKを出せば良いのですが、逆に私がどうしても主張したいことがあるときにも、きちんとみんなが腑に落ちる説明をすることができます。そういう信頼関係を築くことが大切だと思います。わがままを言っているのか本質的な狙いなのか、一緒に仕事をする人たちにわかってもらえる仕事のループをつくっていきたいですね。

 プレビズは絵画でいうエスキースです。エスキースが、時間軸の上でできるようになったと思ってもらえればいいと思います。その意味では今、東京都現代美術館で開催している「スタジオジブリ・レイアウト展」(※)には興味がありますね。実際にできあがった映像を見るより、途中の線でできているもののほうが燃えます。先日、雑誌の「ブルータス」で漫画家の井上雅彦さんの特集をやっていましたが、その中で、美術史家の山下裕二さんが、“筆ネイティブ”という言葉を紹介していました。筆ネイティブというのは、物心ついたときから筆を握り、筆で描くことが血肉化している人を意味するそうです。井上さんは、筆で絵を描いていて、山下さんが言う長谷川等伯や円山応挙などの筆ネイティブに迫る画力を持っていると評されていました。それで、「俺も筆ネイティブになりたい!」と思ってあわててタクシーで筆を買いに行きました。今、次回作で時代劇に取り組んでいますが、筆で映画のスケッチなんかも描いていこうと思います。乞うご期待といったところでしょうか。

※「高畑・宮崎アニメの秘密がわかる。スタジオジブリ・レイアウト展」
 9月28日(日)まで開催中。入場は日時指定の予約制。詳細は下記よりご確認ください。
 http://www.ntv.co.jp/layout


次回は…
小山登美夫ギャラリー代表、小山登美夫さんを紹介します。[10月9日(木)アップ予定]

山崎 貴(やまざきたかし) 山崎貴氏 写真

1964年6月12日、長野県松本市生まれ。映画監督・脚本家・VFX(Visual Effects)ディレクター。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、学生時代からアルバイトをしていたアニメーションやスペシャルエフェクトの映像制作を行う株式会社白組に入社。特撮技術を用いた映像制作を専門とし、企業CMやテレビドラマなど、さまざまな現場を経験する。伊丹十三監督映画のデジタル合成などの制作に参加。2000年『ジュブナイル Juvenile』で監督デビュー。本作でイタリアのジフォーニ映画祭「子供映画部門最優秀賞」及びニフティ映画大賞2000「日本映画部門映像効果賞」を受賞。第2作『リターナー Returner』(2002年)は、韓国・香港・シンガポール・マレーシア・北米で公開された。『鬼武者3 オープニングCGムービー』(2004年)に続き『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)を制作して大ヒット。日本アカデミー賞最多12部門を受賞。2007年には『ALWAYS 続・三丁目の夕日』を制作。著書に『ジュブナイル』(メディアファクトリー)『リターナー』(角川書店)がある。

 
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