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トーキョー・アートエッセンス
No.028 文学の原点に帰って21世紀の小説をやる
語り手:クリエーター いとうせいこう氏
今年3月、12年ぶりに小説の執筆を再開されたいとうせいこうさん。作品の発表の舞台になっているのは、「連載小説空間」というブログ形式のウェブサイトです。今回はクリエーターという視点で、文学の原点をふまえた上であるべき21世紀の小説とは? アウトプットの場がなぜインターネットなのか? というお話からアートとは何か? まで、いとうさんの幅広い表現活動とその発想の源について語っていただきました。

「連載小説空間 through いとうせいこう」画面一部
「連載小説空間 through いとうせいこう」画面一部
http://seikonovel.exblog.jp

みんなが参加するメディア、それが小説だった

 小説っていま、一方的に本屋に並んでるもんじゃないですか。まず、それにげんなりしてたわけですよ。小説ももうメディアとしてどうなんだろうって、ずっと思っていて。今年の2月、南の島に行っていたんですが、そのことをぼんやりと考えていたときに、そもそも文学の原点とは何だったんだと。面白い小説がいっぱい出ていたのって18世紀のイギリスなんですが、そこで何があったんだろうって考えると、サロンがあったんだよね。作家たちはそこで、自分が書いたものを配っていたわけです。サロンの誰かがそれを読んで「うわ、これ面白い!」みたいな意見が出て「面白いから次も書け!」と。そうやって次のサロンでも書いたものを見せたら、「面白い!」。それでまた書く、読者が待っている、書く。ああ、小説ってそういう読者で持っているもんだよなと。

 翻って日本の小説の原点を考えると、同じなんだよね。『源氏物語』が日本初の長編小説なんだけど、これって紫式部の書いたものが、みんなの手に渡って広まったもの。読者ネットワークがサロンになって、途中で誰かが書き写したりなんかして写本ができて、絵までついていくわけよ、勝手に。紫式部、著作権とか言ってないから(笑)、そんなちまちましたこと。小説っていうのは、みんなが参加するメディアだったんです。そのことを近代の作家は、誰も考えてこなかったんですよ。みんなにとって何が面白いかっていうことを、忘れてたんだね。みんなが意見を言えたり、ワクワク待ったりするようなものが文学だった。そこに戻ったら、12年間ずっと書けなかった小説が書ける。ネットだったらできる、ってことなんです。

ネットという風通しのいいサロン

 「連載小説空間」というブログで小説を連載しているんですが、毎回ちょっとずつ書いては壁にぶつかって、言ってみたら毎日悩んでる。ネットなら書けると言っても、そりゃ大変ですよ。でも、閉鎖的な文芸誌に書いているより、よっぽどましですね。大先生が書いて「お前ら読め!」っていうもんじゃなくて、小説を待ってくれている人だけが読む。もちろんネットでの発表は、不特定多数の読者に公開されたものになってしまいます。だけど僕が「こういう方向がいいと思っている」という明確なビジョンを持っていると、それに賛同してくれる人たちがある種のサロン的なものをつくっていくんですね。

 サロンと言っても、僕はヒエラルキーが固定化しているサロンには昔からすごく反発しているんで、いま形になりつつあるのは、誰がいちばん偉いとかのない、クリエイティブな人だけが賞賛を受けるようなもの。作者も読者も、お互いがクリエイティブになれる場です。例えるならば、僕の「連載小説空間」はLinuxみたいなもんなんですよ。Linuxはフリーのソフトウェアとして公開されたOSで、全世界のプログラマーがどんどん改良を加えて普及したものなんですが、いままさに僕の小説は、全く知らないプログラマーのサイトで改良されたものが読めるようになっていたりと広がりを見せているんです。

いとうせいこうオフィシャルウェブサイト「WATCH SEIKO」トップ画面
いとうせいこうオフィシャルウェブサイト「WATCH SEIKO」トップ画面
http://www.cubeinc.co.jp/ito

監修されているウェブサイト「plants +」トップ画面
監修されているウェブサイト「plants +」トップ画面
http://www.plantsplus.jp


委ねるということを、恐れない

 小説は画面の上から下に読みますよね。でもブログって、新しい記事が上に積み上がっていくじゃないですか。それで読者から「これじゃ読みにくい」というコメントがサイトに書き込まれたんですよ。だから「読みにくいって文句言ってないで、お前たちが読みやすいようにしろ!」と書いたところ、「いいんですね?」って全然知らないプログラマーが、小説を順番通り読めるように自分のサイトをプログラミングして、僕の小説を載せてるわけ。他にも、わけわかんない写真を挿絵のように載せる人たちもいるんです。まあ、僕としては今後、『源氏物語』のように絵とかイラストをつけたり、音楽をつける人も出てきてほしいんだけど(笑)。

 要するに、21世紀のメディアのポイントって「委ねる」ということなんです。「僕は小説を書くことしかできません。あとはお願いします」って委ねる。何でもかんでも自分ひとりでやるとか、自分の権利でがんじがらめにするとか、そういったことからは何も生まれないでしょ。それに、自分ひとりでやれることなんて本当に小さなもので、直径10センチみたいなもんだからね。委ねちゃうと、みんなが入ってくる。他の人が入ると、勝手に大きくなるから。変な形にはなりますよ(笑)。それを恐れていては何もできないので、僕のビジョンに賛同してくれる人に委ねるところは委ねる。力を貸してくれた分、僕はその人たちに何を返すかって言ったら、刺激を返すしかない。だから頑張って面白いものを書く。これ以上の原理ってないでしょ。

アートは、人をクリエイティブにするためだけにある

 もともと僕の発想の源は、何でこれが好きなんだろう、つまり初期衝動って何かって考えることなんですよね。文学の原点を考えていたら、ネットがあるじゃんということなんだけど、紙媒体だって面白いことができると思ってる。誰かの初期衝動で、その可能性を見つけ出したとき、ルネッサンスがおこるというか。それをおこさせるものが、アートなんだよね。音楽も美術も文学も、何の目的でそこにあるかって言うと、人をクリエイティブにするだけのためにあると思うわけ。時空を超えてずっとエネルギーを発し続け、それを見た次の世代をクリエイティブな気持ちにするものがアートだと思うわけです。

 そういったものが、今回のコンペティション「したまちコメディ大賞2009」にもあると思うんですよ。あの審査員に見てほしくて応募する、入賞作品に触発された誰かが次の年に応募する、またその作品からクリエイティブな気持ちをもよおすって、そうやって続いていくのが人類でしょ。だから僕は、こういった場をつくりながら、自分もものをつくりたい。そして、僕をクリエイティブにするに決まってる人に会いたいと思う。杉本博司さんに会いたいとか、演出家の鴨下信一さんにいま会っておかなければならないとかさ。やっぱり僕はルネッサンスをおこしたいと思ってるから。もう実際にはじまってるけどね。

Information

(c)  2009 keikosootome/「したまちコメディ映画祭in台東」実行委員会
(c) 2009 keikosootome/「したまちコメディ映画祭in台東」実行委員会

■第2回したまちコメディ映画祭in台東

昨年、85,000人以上の来場者でにぎわったコメディ映画の祭典「したまちコメディ映画祭in台東」(略称したコメ)は、「映画」「したまち」「笑い」という3つの要素を掛け合わせることで、映画人、喜劇人、地元の皆さん、映画・喜劇を愛する皆さんが一体となって盛り上がることができる、これまでの首都圏の映画祭にはない住民参加型の映画祭を目指しています。
日本の喜劇発祥の地であり、いまなお古き良き庶民文化が脈々と引き継がれている下町「浅草」と、日本有数の芸術・文化施設の集積地域「上野」を舞台に、昨年同様、浅草在住のクリエーター、いとうせいこう総合プロデューサーを中心に、「コメディ」を単に面白いだけのものに留まらず、芸能・文化・歴史など多角的な側面から捉えていきます。そして、世代を超えた多くの方々にコメディ映画に親しんでいただけるよう、国内外の新作・旧作・名作・珍作・異色作から選びに選び抜いた最上級のコメディをプログラミングしていきます。

日程  :  2009年9月21日(月・祝)〜9月25日(金)
会場  :  浅草・上野エリア
公式HP  :  http://www.shitacome.jp/2009/index.shtml
いとうせいこう いとうせいこう

1984年、早稲田大学法学部卒業後、講談社に入社。「ホットドッグプレス」編集部などを経て1986年退社。その後、作家・クリエーターとして、活字・映像・舞台・音楽・ウェブなど幅広いジャンルで表現活動を行い、カルチャーシーンに影響を与え続けている。学生時代より舞台活動をはじめ、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍。主な著書に『ノーライフキング』、『ボタニカル・ライフ』(講談社エッセイ賞受賞)、みうらじゅん氏との共作『見仏記』シリーズなど多数。ウェブでの新しい試みとして、2009年より「連載小説空間 through いとうせいこう」で小説の連載を開始。動画専門チャンネル「plants +」を監修。現在たいとう観光大使を務め、今秋開催される「したまちコメディ映画祭in台東」の総合プロデューサーとしても活躍している。
http://www.cubeinc.co.jp/ito/

 
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