東京のアートシーンをアーティストとともに創り、発信する Tokyo Art Navigation
展覧会・イベント情報 アーティストファイル エッセンス ビジョン スポット
マイページ サイトマップ
Tokyo Art Navigationとは?
TOPICS
TOP
トップ > トーキョー・アートエッセンス
トーキョー・アートエッセンス
No.036 アートは世界に対して発言するためのツール
語り手:森美術館館長 南條史生さん
六本木ヒルズ内、森タワーの最上層に位置する森美術館。館長の南條史生さんは、これまで「都市とアート」という視点で、様々なアート・プロジェクトを企画されています。今回のインタビューでは、森美術館の今後の企画展について、経済学から考えるアートの新たな戦略、若手アーティストへのメッセージなど、幅広い視点からお話いただきました。

森美術館の今後のラインナップ

 今年の森美術館の展覧会、企画のコンセプトは「日本を再定義する」です。日本の再定義によって、この国の現代美術はいったいどういうものになっていて、どういう発言が可能なのかということを1年通して考えてみてはいかがでしょうかと。「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」では、「芸術は可能だ」という結論が出なければ困るんですが、美術には例えばシュルレアリスム的なファンタジーの世界や、マイクロポップで取り上げられたかわいく繊細な傾向のように、自分の内的な世界を突きつめて表現するものがある一方で、今生きている我々のリアリティを問うものもある。リアリティに根拠を持つ作品をつくっていくことも、アートのひとつの重要な役割だと思うわけです。そして日本ではこの辺が弱い部分でもあるので、その辺をキチッと主張したらどうかと。2010年はそういう視点で、日本人の現代美術を見せていきます。

 その後、少し国際的な方向に戻します。2011年は、UIA2011(第24回世界建築会議)という世界最大の建築家の国際会議が日本に来るので、それに合わせて日本の近過去の建築の見直し、戦後の日本の建築史というものをしっかり打ち出す企画展をやりたいなと。あとは、アジアの作家もやります。インドは既にやりましたが、更に東南アジアのアートの実情を伝えたい。それから中近東も気になっていて、歴史や文化はもちろん、全く別な世界観を持つイスラムの現代アートを、できればちゃんと紹介したい。鎖国状態にある最近の日本人の意識を変えるべく、知らないものに焦点を当てたいんですね。未知の社会に入っていこうとする好奇心、冒険精神というものを日本人はもう一回取り戻すべきだと思うので、こうした企画は長いスパンで実現できればと考えています。


経済学とアートの可能性

 最近出たクリス・アンダーセンの『フリー』という本で、著者は経済学というものを「人間の選択のシステムにおける心理学である」といった規定をしていました。経済とは、人がいかなる判断で何を選ぶのか。どういう理由で選ぶのか。そしてそれに対してどのような価値を認めるのか。その心理の研究が経済学である、と。非常に面白い見方だと思いました。アート作品って値段に根拠がなくて、欲しい人がすごいお金を払う世界。一体この心理は何なのか。この経済モデルって一体どうなっているのか。これはまだ議論されてないと思うんですが、「ダイヤモンドはなぜ高いのか? それは高いから売れるんだ」という答えしかないという経済学の理論に少し通じるところがある。高いということをみんなが知っているから買う人は自慢できる、という構造でダイヤの値段は維持されているということなんですが、例えばピカソの絵のスタイルはみんなが知っていて、誰が見てもピカソだとわかる。だからピカソは高いという説明になるのかもしれない。

 これに対して、ひとりのアーティストが違うスタイルでずっと創作を続けると、マーケットは「これはあの人だ」というアイデンティティがつくれないから、マーケティングも難しい。別な見方をすると、ブランディングに似ているんではないでしょうか。ブランディングの心理を見ると、茶道の世界を思い出します。茶道では「利休のつくった茶杓」「景徳鎮でつくられた器」のように逸話が価値を持つ。もともとそういう文化のある国だったから、ブランドという概念を浸透させやすかったんだと思うんです。ダミアン・ハーストや村上隆はそういったシステムを見抜いて、自分自身をブランディングしたわけです。経済学の俎上にアートをのせて論じることができれば、理解できる現象があるし、これからのアーティストにも新しい戦略が見えてくるのではないかと思います。


「アイ・ウェイウェイ展」(2009年7月25日〜11月8日)設営風景 撮影:御厨慎一郎
「アイ・ウェイウェイ展」(2009年7月25日〜11月8日)設営風景 撮影:御厨慎一郎

若手アーティストに向けて

 美術業界では、不況になると現代美術が脚光を浴びる。それは事実だし、いい作品が出てくるとか値段が落ち着いてコレクションしやすいとか、様々な視点で不況の方がいいと言う人もいます。バブルのようなアートマーケットに翻弄されることなく、落ち着いて「自分はアーティストとして何をするべきなのか」を考えることもできますよね。実は僕は日本の若手アーティストには不満があって、もう少し世界、というか周囲の状況に目を向けてもいいんじゃないかなと思っています。作品を見るとみんな主題が内向きで、自分の身の回りの小さな世界、プライベートな事象にしか興味がないって感じがする。例えばアジアの作家を見ると、戦争、テロ、宗教の衝突、様々な問題がいま世の中にあるということが作品の中に出ているんだけど、日本の作家にはほとんどそれがないわけです。実際、私がやった2回のシンガポール・ビエンナーレの中から、社会的、政治的な作品を集めた「堂島リバービエンナーレ2009」も、日本で興味を引くのは難しかった。

 私は驚いたんですが、フランスでは子供の夏休みの宿題に「人権について絵を描いてきなさい」という宿題が出たりするんですね。どうやって描くのかみんな困るんだけど、子供たちは結局、人権宣言を読んで、ニュース、新聞を見るしかない。そこに人種差別の記事が出ていれば、写真や文字をそのまま画用紙に貼って作品にする。するとその絵は自然に社会性を帯びてきて、写真や文字のコラージュのように現代美術の表現を使うことになる。そういう子供たちは、大人になってから現代美術がわからないとは言わないでしょう。こういうことは外国へ出てはじめて知ることだから、アーティストも美術評論家を目ざす人も海外へ行って、自分たちが見ているものを他の視点から見る訓練をすべきですね。インターナショナルな視点を持つことは、より高いコミュニケーション能力を身につけることにつながる。またアートというものが、もっと高いレベルで社会に何か還元できるのではないかと思います。そのためには、自分がそうしたことを理解し、論じるレベルにいることが必要です。いちばんいいのは、現代美術をたくさん見る、旅をする、人と話す、モノを読むこと。海外の美術雑誌を見るときに、パッと写真を見て終わらせてしまうのでなく、その中の議論を読まなければ情報を得たことにはならない。スタイルの真似に止まらず、一体何を言おうとしているのかを読み解く。そして、アートは閉じこもるためのものでなく、発言していくためのツールと考えて、世界を視野に大志を持って進んでいってほしいですね。


照屋勇賢 《告知―森》 2005 年 紙袋、糊 18cm×8cm×28cm ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ニューヨーク
照屋勇賢 《告知―森》 2005 年 紙袋、糊 18cm×8cm×28cm ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ニューヨーク

Information

■六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?
注目のアーティスト20組の作品(写真、彫刻、インスタレーション、映像作品、グラフィティー・アート、パフォーマンスなど)から、「芸術は可能か」を探る展覧会。
会期:3月20日(土)〜7月4日(日)
会場:森美術館
http://www.mori.art.museum/

南條史生(なんじょうふみお) 南條史生(なんじょうふみお)

1949年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部、文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。国際交流基金を経た後、インディペンデントキュレーターとして様々なアート・プロジェクトをディレクションしている。2002年森美術館開館準備室より副館長、2006年森美術館館長就任。これまでに、第47回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー(1997年)、ターナー賞審査委員(1998年)、第51回ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞審査委員(2005年)等を歴任。アーティスティック・ディレクターを務めた「横浜トリエンナーレ2001」(2001年)、「シンガポール・ビエンナーレ」(2006年)は、第1回の立ち上げから携わっている。また、パブリックアート計画のコンサルタントとして「新宿アイランドアート・計画」(1995年)等がある。現在、各種団体の選考委員、コンペティション審査委員等としても活躍。
http://www.mori.art.museum/

 
創作活動サポート
メンバー登録
東京のアートシーンを共に創造するメンバーを募集しています!
アーティストの方はこちら
あなたの作品や活動をTokyoから世界に向けて発信してみませんか?
サポーターの方はこちら
創作活動をサポートするギャラリーや稽古場の登録、展覧会やイベントを投稿できます。
メールマガジン登録申し込み
デジタルミュージアム
東京・ミュージアム ぐるっとパス2007
詳しくはこちら