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トーキョー・アートエッセンス
No.043 次代を予見する「変身-変容」のイメージ バールティ・ケール《狩人と預言者》2004 Courtesy the Artist and Hauser & Wirth
語り手:東京都現代美術館チーフ・キュレーター 長谷川祐子さん
「変身-変容」をテーマに、1980年代から現在までの15か国21組のアーティストによる絵画、彫刻、映像などを集める「東京アートミーティング トランスフォーメーション」展が、東京都現代美術館で開かれます。古今東西、「変身」をテーマにした作品は数多くつくられており、本展では人間とそうでないもの(動物や機械、想像上の生物、異なる遺伝子組成をもつ体など)の境界を、人類学者の中沢新一氏との共同企画で探ります。今回は、企画者の長谷川祐子さんに「変身」に秘められたねらいをうかがいました。

トランスフォーメーション展、企画の経緯

マシュー・バーニー《クレマスター3:ファイブ・ポインツ・オブ・フェローシップ》2002 Collection of the Artist, Courtesy Gladstone Gallery, New York
マシュー・バーニー《クレマスター3:ファイブ・ポインツ・オブ・フェローシップ》2002 Collection of the Artist, Courtesy Gladstone Gallery, New York

 いま世界ではどういうことが起きているか。展覧会のアイデアはいつも、時代の状況を観察・リサーチするなかからつくり出しています。近年では、欧米のアートが洗練の極みの先で新主知主義のようになってしまい、固着化して見える一方、ブラジル、ロシア、インド、中国といったBRICs諸国から注目すべきアーティストが多数登場しています。しかも90年代に主に中国から台頭した(西洋美術に対抗し、社会的メッセージの強い)作家たちとはタイプが異なっている。これは、最近の言葉で言えば「オルターモダン」というか、欧米のモダニズムとはタイプの異なるモダニズムの現れではないでしょうか。国の経済成長も伴い、自分たちの文化に自信を持つ作家が増えてきたのではないかと思います。その創作のエネルギーはどこからくるのかを考えてみると、西洋圏の人間中心主義的な発想の行き詰まりに対して、非西洋圏に根づいた「人間も動物も生きとし生けるものみな等価値であり、つながりを持っている」という仏教やヒンズー教にも見られる汎神論的な発想なのではないかと直観したのです。

 そこで、芸術人類学者の中沢新一さんと共同で展覧会を企画できないかと思いました(編註:中沢氏は多摩美術大学芸術人類学研究所の所長、長谷川氏はその所員でもある)。中沢さんは芸術の原初的な力とは何だったかという地点に立ち返り、『対称性人類学』を著しておられます。人間と動物は相互的な関係をもっていて、西洋では暗闇であり獏として放っておかれている無意識の世界が、実は独自のロジックを持つ世界であるということを説いており、そのような思想・アイデアを展覧会にうまく反映できないかと考えました。


「世界」のイメージと「個」の狭間で

アピチャッポン・ウィーラセタクン「トロピカル・マラディ」2004 Courtesy Kick the Machine Films
アピチャッポン・ウィーラセタクン「トロピカル・マラディ」2004 Courtesy Kick the Machine Films

 日本では、「変身」の多様なイメージが、昔話から、マンガやアニメーションのキャラクターなどにまであふれています。『奇生獣』『エヴァンゲリオン』『仮面ライダー』などを見ても、ロボット的な発想ではなくて、テクノロジーと人間が一体になっていくような独自のテクノロジーに対する宗教的・儀式的・霊的なアプローチがありますよね。こうしたアニミズム的なサブカルチャーも含めて論じていけたらと思い、「トランスフォーメーション」=「変容」をキーワードとしました。また、メインの関係をわかりやすく「人間」と「動物」としましたが、例えばテロリスト的な、理解できないもの=「怪物」のような存在も含め、他者とどう関係を結べばよいのかという意味合いもあります。

 また、現代は、インターネットやグローバル経済、テクノロジーの発達によって、従来の社会に属する「人間」のかたちがぶれはじめ、多様化・複雑化しています。グローバル社会では知識が広範になり、世界とつながっている感覚がある一方、個人はローカルな民間信仰や文化に密接に結びついてもいます。例えば、移民にとって、何が自分のオリジナルなのかわからない複合的な状況がありますよね。Aさんは日本人だからこう、Bさんはインド人だからこうとは言えない。グローバルカルチャーと呼ばれる共有イメージと、個々人がもつ文化資源との間にズレがある。そのギャップが、人々の心身に緊張感をもたらしているのではないでしょうか。

 アートが有する寓意やメタファーには、こうした緊張を緩和する機能があるのです。中島敦『山月記』の一節や、タイの民間伝承から発想されたアピチャッポン・ウィーラセタクンの「トロピカル・マラディ」では、ジャングルを舞台に、兵士と村の青年との恋、呪いによって虎に変身させられた青年の物語が描かれています。鑑賞者がどちらの立場に感情移入するかによっても見方が変わりますし、あるいは双方の視点に立って考えることもできるでしょう。

 アートは、既成の常識では判断できないことにも、目に見える具体的な造形をもって、人々に想像力をもたらし、新しい適応力を与えていきます。「トランスフォーメーション」=「変わる」姿が、どんな世界が次に来ることを象徴しているのか、それがどういう世界であれば受容できるのか、あるいはどういう部分に共感するのかなどと考えてみてください。アートを鏡や予兆、その先のものを想像させてくれるキーとして、ズレという緊張感を、逆により豊かな資源として拡張していけるのではないでしょうか。現代が直面している新しい状況に対し、人間が人間以外のものとどういうかかわりをもてばいいのか、あるいは人間的であるとはどういうことなのか、考える機会になればと思います。


アルケミー、マジック vs リインカーネーション

バールティ・ケール 《アリオンの妹》 2006 (c)Bharti Kher Collection:Titze Collection Photo:Shankar Natarajan
バールティ・ケール 《アリオンの妹》 2006 (c)Bharti Kher Collection:Titze Collection Photo:Shankar Natarajan

 展覧会では、西洋圏と非西洋圏とにおける「変容」の捉え方の違いを見比べることもできます。例えばマシュー・バーニーは「身体改造」という言い方で、具体的・段階的に変容の過程を踏んでいます。バーニーには、矮小化してしまった芸術に対して、自身の変身譚を描いた神話的な叙事詩をつくりたいといういわば西洋的な野望があり、整形手術や運動医学などに関する最先端の知識を駆使しながら、〈クレマスター〉シリーズのようなキモカワイイ姿が創造されています。西洋の「変身」には、このようなアルケミー(錬金術)的な人体改造あるいは魔法によるものしかありません。

 一方、アジアには、リインカーネーション(輪廻)思想があり、人間以外のものに生まれ変わるという「変身」のイメージが、さほど疑わしさもなく日常に溶け込んでいます。ソフトバンクのCMの犬のお父さんも、あるわけないけどあるみたいな中間的なところで受け入れられていますよね(笑)。ですが、欧米の人にとってはコミックに映るでしょう。そうであれば、アートがどういうところから生まれて、どう違って見えるのかに気づきますよね。

 例えば、アングロインディアンであるインドのバールティ・ケールは、両親が移民であるためにイギリスで育ち、インドには4歳のとき少しだけ行っただけで、20歳を過ぎてインドに戻り、インド人と結婚するというダブルアイデンティティを抱えています。《アリオンの妹》という彫刻は、片足がよく見ると馬の蹄になっていて、上半身にスペルマの形をしたビンディ(編註:既婚の女性の印。現在はファッションアイテムでもある)、買い物フリークを揶揄するようでいて、天使や千手観音にも見える。インドでは、伝統的な生活とモダンな現代的生活とが混在し、動物が人間と普通に一緒に暮らしている環境もありますので、自ずと獣性が身体のなかの一部として現れてくる。このように多様な要素が混ざっているのに混乱して見えないのは、彼女なりの徹底した統合法があるから。伝統的手法を取り入れながらそれを読み替え、複層的な文化的背景やアイデンティティ、状況をすべて融合させているのです。なおかつ造形的なカッコよさも観客を惹き付ける大事な要素で、ここ5年間で現れてきた特長なんです。

 ロシア在住のAES+F(タチヤーナ・アルザマソヴァ、レフ・エヴゾーヴィチ、エヴゲーニイ・スヴァツキイ、ヴラジーミル・フリトゥケス)は、ルネサンス絵画を下敷きにして、冷戦以降の現代社会における文化の融合や対立などを描いています。東西の文化や風景、ファンタジーと現実が混在する世界で、子どもたちが殺し合う戦争を描いた《最後の暴動》は、氷山やドラゴンなど背景はCGで制作し、人物は写真撮影したものをモーフィングで動かしています。その姿は、闘っているようにも愛し合っているようにも見え、さまざまな解釈を観客に委ねています。ひとりの人間が意思を持って変わろうとするバーニーの作品と違い、時代の荒波にもまれて変容していく集団が、ロシアの状況を照らし出しているともいえるでしょう。

 このように、グローバルカルチャーと個人が持つ多様な文化との間にどのようなずれがあり、それをどうつなげて再編していくのか、あるいは自身のイメージの世界をどう広げていけるのか、自分自身とはいったい何なのか、思い巡らしてはいかがでしょうか。

インタビュー・文/白坂ゆり

Information

AES+F 《最後の暴動2 パノラマ #4》 2006 (c)AES+F Courtesy Triumph Gallery and Multimedia Art Museum, Moscow [参考図版]
AES+F 《最後の暴動2 パノラマ #4》 2006 (c)AES+F Courtesy Triumph Gallery and Multimedia Art Museum, Moscow [参考図版]

■東京アートミーティング トランスフォーメーション[中沢新一・長谷川祐子共同企画]
会期/10月29日(金)〜1月30日(日)
時間/10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館/月曜日(ただし1月3日、1月10日は開館)、12月29日(水)〜1月1日(土)、1月11日(火)
会場/東京都現代美術館 企画展示室1F、3F、アトリウム
料金/一般1300円、大学・専門学校生・65歳以上1000円、中学・高校生650円

■関連イベント
ヤン・ファーブルのパフォーマンス
日時/10月29日(金)20:00〜
アーティストトーク
日時/10月30日(土)15:00〜17:00
 
登壇/ シャジア・シカンダー、サイモン・バーチ、石川直樹、及川潤耶、高木正勝、スプツニ子!
アピチャッポン・ウィーラセタクン「トロピカル・マラディ」上映
日時/ 11月19日(金)、11月21日(日)の11:00、13:30、16:00予定
11月23日(火・祝日)の13:30、16:00予定
 
備考/ 11月19日(金)19:00〜アピチャッポン・ウィーラセタクンのトークも予定
関連イベントの会場は東京都現代美術館地下2Fの講堂で開催
※10月30日(土)のアーティストトークは展示室内で開催
※参加方法、他詳細は公式ホームページよりご確認ください

http://www.mot-art-museum.jp/

次回は…
引き続き、長谷川祐子さんに「トランスフォーメーション」展についてうかがいます。[11月25日(木)アップ予定]
長谷川祐子(はせがわゆうこ) 長谷川祐子(はせがわゆうこ)

東京都現代美術館チーフ・キュレーター。京都大学法学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。水戸芸術館、世田谷美術館、金沢21世紀美術館を経て2006年より現職。イスタンブールビエンナーレ総合コミッショナー(2001)、上海ビエンナーレ共同キュレーター(2002)、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー(2003)、サンパウロビエンナーレ共同キュレーター(2010)などを歴任。近年の主な企画展に「Space for Your Future」(2007)、「ネオトロピカリア:ブラジルの創造力」(2008)など。著書に『女の子のための現代アート入門』(淡交社)。多摩美術大学美術学部芸術学科特任教授。
http://www.mot-art-museum.jp/

 
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