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イベント・レポート
No.016
小林照子×藤原えりみトークショー 「アート×ビューティー〜日本人にとっての“美しさ”とは?〜」(後篇)

日本におけるメイクアップアーティストの草分け的存在であり、「からだ化粧」の考案者としても知られる小林照子さんをゲストに迎え、美術ジャーナリストの藤原えりみさんがナビゲーターを務めたトークショーが、5月28日、日比谷図書文化館で開催されました。西洋と日本の絵画を題材に、それぞれが専門家の視点から語った聴きどころ満載のアート&ビューティ談義。今回はその後篇をお届けします。


日本の古代から近世における
美と化粧(けわい)の概念

《源氏物語絵巻 東屋一》 12世紀前半 徳川美術館蔵 ©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
《源氏物語絵巻 東屋一》 12世紀前半 徳川美術館蔵
©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom

藤原:後半は日本美術を見ながらお話をうかがいたいと思います。まずは《源氏物語絵巻 東屋一》から見て行きましょう。この時代、美女の条件は顔の造作より髪の毛に重きが置かれている気がするのですが、いかがでしょうか? この絵を見ても、いかに髪を美しく見せるかということに相当神経を使って描かれているように思います。

小林:この時代は、香りや立ち居振る舞い、髪型など、身にまとうものすべてを化粧(けわい)と言って、それによって未婚か既婚かとか、どういう教育を受けた、どういう地位や身分の女性かということを表していたんですね。その中で髪型というのはとても大きな意味を持っていて、色白の肌に真っ直ぐで艶のある長い黒髪というのが美しさの象徴でした。

藤原:後白河上皇の寵愛を受けた平滋子(たいらのしげこ)が天然パーマだったらしいんですよ。髪を梳(す)きながら真っ直ぐにするのは大変だったでしょうね。何しろ社会的な地位がかかっているわけですから。この時代の女性たちの髪にかける思いは並大抵ではなかったと思います。

ご自身の経験談を織り交ぜながら語る小林照子さん
ご自身の経験談を織り交ぜながら語る小林照子さん

小林:江戸時代に書かれた『都風俗化粧伝(みやこふうぞくけわいでん)』という本があって、その注釈を手がけられた高橋雅夫先生のお手伝いをしたことがあるのですが、内容が面白いんですよ。顔の美の基準が今とまったく違って、《お市の方 肖像画》のように、切れ長の細い目に小さな口が美しいとされていたんですね。だから目がぱっちり大きい人は、少しでも細く見えるように、常に数メートル先を見て伏し目がちにしていなさいとか、首が長い人は短く見えるように襟を詰めて着なさいとか(笑)。そんなアドバイスも載っているんです。

藤原:その流れが、後の浮世絵の世界にも続くわけですね。菱川師宣の《見返り美人》を見ても、顔の造作や手足が小さいですよね。さらに興味深いのは、西洋の伝統とは全く違うしなやかな体の動き。人間の体とは思えないようなやわらかな動きは、日本人のひとつの美意識の表れだと思います。

小林:着物の着方もゆったりしていますよね。着付け教室で教わるような、いわゆる正統派のカチッとした着方ではなく。

藤原:江戸時代の絵になると、着崩しのエロティシズムが表現されるようになるんですね。浮世絵に代表される風俗の女性の美の追求は、明治、大正と引き継がれていきます。鏑木清方(かぶらききよかた)もその一人で、《築地明石町》を見ても、浮世絵の持っている美人の佇まいと明治以降の自立した女性の存在感を兼ね備えた魅力がある。この女性の着物姿、半襟が見えないんですよ。

鏑木清方《築地明石町》 1927年 個人蔵 ©Akio Nemoto
鏑木清方《築地明石町》 1927年 個人蔵
©Akio Nemoto

小林:あ、本当だわ。つまり襦袢を着ずに、素肌に着物を着ているということですね。

藤原:そうなんです。かなりモダンな着方ですよね。


はかなげな美しさから
力強いはつらつとした美しさへ

小林:この《築地明石町》の女性のような主張しない眉の引き方は、古い時代の和のメイキャップの時によくするんです。つまり、男性の影に隠れているような、謙虚で、抽象的な顔にするわけですね。西洋人にはあまり合わないんですが、東洋人の顔にするととても雰囲気が出ます。

藤原:竹久夢二が描く女性も、まさにそんな感じですよね。先生は夢二の絵とモディリアーニの絵に通じるものを感じていらっしゃるそうですが、具体的にはどんなところですか?

小林:首が細くて、はかなげなところですね。モディリアーニの描く女性で私が好きなところは、目の位置が高いこと。しかも顔や鼻が長いでしょ。そういう女性は非常にはかなげな美しさを持っているんですよ。そのイメージで日本人の顔をつくると、夢二の描く女性になる。私は、夢二はモディリアーニの影響を受けたんじゃないかなと思っているんです。

竹久夢二《水竹居》 1933年 竹久夢二美術館蔵 展覧会:「生誕130 年記念 再発見!竹久夢二の世界」展【前期】美人画家・夢二―女性をおしゃれに、美しく―(2014年7月4日〜9月28日)竹久夢二美術館(東京都文京区弥生2-4-2)

アメデオ・モディリアーニ《婦人像(C.D.夫人)》 1916年頃 ポーラ美術館蔵

左――竹久夢二《水竹居》 1933年 竹久夢二美術館蔵
展覧会:「生誕130 年記念 再発見!竹久夢二の世界」展【前期】美人画家・夢二―女性をおしゃれに、美しく―(2014年7月4日〜9月28日)竹久夢二美術館(東京都文京区弥生2-4-2)
右――アメデオ・モディリアーニ《婦人像(C.D.夫人)》 1916年頃 ポーラ美術館蔵

藤原:図版で見ていた可能性はありますよね、時代を考えると。

小林:江戸時代や明治時代の美の基準から言うと、こんなに首が長いのは不美人なんですよ。先ほどの『都風俗化粧伝』のように、どうしたら短く見せられるかを教えていたりするくらいですから。目もこんなにぱっちりしていますしね。でも、とても叙情的な雰囲気があって、私が子供の頃に影響を受けた絵のひとつです。あとは、やはり中原淳一ですね。日本に西洋人がまだほとんどいない時代に、あの太い眉とくっきりした目の女性画は衝撃的でした。オードリー・ヘップバーンみたいですよね。

藤原:まさにヘップバーン全盛の頃ですからね。欧米でもオードリー以前は、ふっくらしていて、整っているけれど個性の薄い抽象的な顔が好まれていたので、それとは正反対のオードリーの登場は、新しい美の基準として衝撃を与えたと思います。中原さんの絵は、最近、若い女性たちの間で大人気になっているんですよ。

小林:アニメのキャラクターの顔ですものね。逆三角形の顔って子供のイメージなんですよ。子供は咀嚼(そしゃく)器官が未発達で顎が細いから。子供の顔、つまり、可愛い、誰からも愛される顔なんです。今の団塊の世代の人たちは、この非常にはつらつとした現代的なイメージと、それより少し前の時代の夢二の叙情的なイメージと、両方があこがれの原点にあるような気がします。

理想の美しさと、ありのままの美しさ

藤原:先生は藤田嗣治(ふじたつぐはる)の絵もお好きだそうですね。

小林:あの乳白色の肌の表現は見事で、とてもメイキャップの参考になります。この《私の夢》を見ても、何色というひとつの色じゃなくて、いくつもの色がありますよね。キメの整った本当にきれいな肌は光を取り込むので、鏡のようにいろいろなものが映り込むんですよ。私は「からだ化粧」の肌をつくる時、最初に白を塗り、その中にいろいろな色を手で塗り込んでいくんです。肩のように張っているところは周りの自然のものが映ったようなブルーを入れたり、光があまり入らないところには影になる色を入れたり。そうしていくつもの色を散りばめていって、最後にパールで仕上げるんです。藤田嗣治の絵も、たぶん最初に白を塗ってからさまざまなニュアンスカラーを加え、最後にツヤのある白を入れているんじゃないかしら。

藤原:藤田は肌の色に何を使っているかは明らかにしなかったんですが、先生ならではのご推察ですね。では最後に、女性から見た女性の美しさというのは、男性から見た時と違うものがあるのではないかということで、上村松園(うえむらしょうえん)の《母子》とメアリー・カサットの《リンゴに手を伸ばす子供》の2点を選んでみました。どちらも母親が子供を抱いた絵で、作者は女性です。母性をテーマに、男性の視点とはまた違う美しさを表現している作品だと思いますが、先生はどうご覧になりますか?

小林:私は「仕草」「形」「技術」が日本人の美意識であり、思いやりでもあると思っているんです。人をきれいにしたい、もっと魅力的にしたいという気持ちは、やはり愛情なんですよ。メイクやスキンケアをする時、モデルを両腕で胸に抱きしめるような仕草になるんですが、それは相手を思う気持ちの表れなんです。からだ化粧をした時、モデルが「お母さんの懐に抱かれているみたいで、とても安心できて気持ちいい」と言ってくれたことがあるのですが、この2つの絵も皮膚という非常に温かい“袋”で抱く仕草がとてもよく表現されていて、愛情が伝わってきます。

メアリー・カサット《リンゴに手を伸ばす子供》 1893 ヴァージニア美術館蔵

上村松園《母子》 1934 東京国立近代美術館蔵 Photo: MOMAT/DNPartcom 撮影=©大谷一郎

左――メアリー・カサット《リンゴに手を伸ばす子供》 1893 ヴァージニア美術館蔵
右――上村松園《母子》 1934 東京国立近代美術館蔵
Photo: MOMAT/DNPartcom 撮影=©大谷一郎

藤原:上村松園の絵は技術的には未熟だと批判する人もいます。体の芯が通ってないとか。確かにふにゃふにゃしていますし、地に足がついていない感じがするんですけれど、私は先生がおっしゃったように、松園の絵は外から見た体ではなく、女性が生きている自分の体の感覚を絵にしているような気がするんです。

小林:骨格や筋肉ではなく、内から湧き出る感情に動かされた仕草から入っている感じですよね。

藤原:これは男性のアーティストにはいくら言ってもわかってもらえないんですよ。

小林:メイキャップアーティストも男性と女性では視点が違いますね。女性は女性の立場になっているから、TPOを考えて生活感をもってメイキャップするんですけど、男性は女性に対して理想像があるから、空想の世界に連れて行くようなメイキャップをするんですよ。どちらも必要とされるんですけどね。

藤原:そういう風に男性と女性で感じ方や表現が違うところも、美が持つひとつの側面かもしれませんね。

<プロフィール>
小林照子(こばやしてるこ)
美容研究家、メイクアップアーティスト。85年からコーセー初の女性取締役を務めた後、91年に美・ファイン研究所を設立。『人を美しくする魔法』(マキノ出版)など著書多数。

藤原えりみ(ふじはらえりみ)

藤原えりみ(ふじはらえりみ)
美術ジャーナリスト。1956年生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。女子美術大学、國學院大学、京都造形大学の非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)、共著に『西洋美術館』(小学館)など。

インタビュー・文/杉瀬由希

 
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