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イベント・レポート
No.026
東京都庭園美術館「オモテの面白さ」能楽師/友枝雄人さん

能楽師の友枝雄人さんによるレクチャー&デモンストレーションが、去る5月9日に東京都庭園美術館で行われました。能面の種類ってどんなものがあるの? 能面をつけて演じるときってどういう感じなの? など、「オモテ」の基本を初心者にもわかりやすく解説していただきました。その模様を2回に分けてレポートします。

レクチャー&デモンストレーション 「オモテの面白さ」より
レクチャー&デモンストレーション 「オモテの面白さ」より


オモテの基本

Q1 能楽師の方は能面をいくつくらい持っているのでしょうか?

能面のことを「オモテ」と呼び、数え方は1面(めん)、2面と数えます。私の家は古いものから新しいものまで合わせると30から40面ほど持っています。能面はヴァイオリンなどと一緒で、古いものを受け継いで使っています。やはり古い面は大事ですので、そういうオモテはここぞというときに使います。

レクチャーでは能楽師シテ方喜多流の友枝雄人さんを講師に、東京都庭園美術館学芸員の八巻香澄さんが聞き手になって、オモテの魅力を解きほぐしました
レクチャーでは能楽師シテ方喜多流の友枝雄人さんを講師に、東京都庭園美術館学芸員の八巻香澄さんが聞き手になって、オモテの魅力を解きほぐしました


Q2 舞台ではどのくらい古いものを使っていますか?

室町時代のものは国宝級になってしまうので難しいですが、江戸時代のものは舞台で使うことは珍しくありません。
『マスク展』で展示されているオモテは、かなり古いものではないかと思います。特に「童子」と「大癋見(おおべしみ)」という鬼のオモテは、能として完成される前の神楽とか民俗芸能のものかもしれません。オモテになる前のものは洗練されておらず無垢というか、芸術志向になる前の土着の力強さを持っている。それにくらべて「 尉」と「中将」のオモテは能に形成された後の、能楽に使われてきたものだと思われます。 世阿弥は身分の高い人たちに認められる芸能を整備してきたところもあって、洗練されていった反面、土着の力強さを失ってしまった部分もあります。現在の形になったのは、応仁の乱の直後あたりになるのではないでしょうか。

持参した「童子」のオモテを手に解説する友枝さん
持参した「童子」のオモテを手に解説する友枝さん


Q3 種類はどのくらいあるのですか?

本当に複雑なんです。能楽には5流ありまして、流儀によって使うオモテの種類が違ったりします。今は他の流儀とも交流がありますので、うちの流儀ではもともと使わなかったオモテも使うようになった、ということもあります。そういう細かい知識からしても数え切れないくらいあります。
だいたい、鬼のオモテは男女合わせて4、5種類。女性のオモテは出産前、出産後というのに分かれるのですが、だいたい7、8種類。 尉(年老いた男性)のオモテが7、8種類。そして男性のオモテが5種類くらいですかね。能楽は仮面劇ではありますが、少年と老人以外の生身の男性の役の場合は 「直面(ヒタメン)」と言いまして、オモテをつけません。男性としてオモテをつける場合は亡霊として現れるときだけなんです。それから、年老いた女性のオモテも4、5種類あります。そうすると、60種類くらいになるかもしれません。優れたオモテをつけるのには、やはり重圧がありまして、経験や芸を磨かなくてはなりません。今の私にはまだ手の届かない……と思うものもありますね。


Q4 オモテをつけて演じているときはどんな心持ちなのでしょうか?

難しい質問ですね。オモテをつけると自由を奪われるんです。オモテの中は暗闇になりまして、視覚を頼りにするというよりは、自分が覚えた感覚で舞う。オモテの中に自分が閉じ込められるような、精神的に追い込まれるような、そんな状態です。
オモテをつけるという行為は舞台に出る前の最後の所作なんですね。ですから、舞台に立つ人間の魂として非常に大事に扱っています。新しいオモテであろうが、古いオモテであろうが、オモテに対して畏敬の念を持って舞台に立つというのは、能楽師として共通の感覚だと思います。


Q5 オモテをつける前の儀式、しきたりというものはあるのでしょうか?

『翁』という演目に関しては神事に近いものがあります。『翁』の場合、主人公を「シテ」とは言わずに「太夫(タイウ)」と言います。かなり特別な存在になりまして、楽屋では御神酒をあげ、灯明を灯すなど、いろいろな所作があり、開演の約2時間くらい前からその準備をしていますね。所作事はもうちょっと簡略化されるのですが、他の 演目の場合でも同じような心境で舞台に立っています。


能楽師にとって「オモテ」とは舞台に立つ人間の魂。では、オモテの中で演者はどんな演技をしていて、どんな風景が見えているのでしょうか。次回は、「オモテ」の魅力をさらに探求するとともに、友枝さんに演じていただいた『清経』のデモンストレーションの模様をお届けします。

「フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵 マスク展」に展示中の「オモテ」能面、翁(日本)c musee du quai Branly photo Sandrine Expilly
「フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵 マスク展」に展示中の「オモテ」 能面、翁(日本)
© musée du quai Branly
photo Sandrine Expilly

文・構成/TAN編集部

 
イベント・レポート

都内で開催される注目のアートイベントをご案内し、その模様をレポートするコラムです。リアルな空間で、そしてオンラインで、日々の暮らしにアートを取り入れてみませんか。

フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵

マスク展
フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵のアフリカ、アジア、オセアニア、アメリカから集められたマスク(仮面)約100点を展示。人は仮面を纏って舞い踊り、一体化することによって、我と仮面(=他者)という両者の力をあわせ持つ存在となって、未知なる時空の扉を開こうとしました。それぞれの土地の特質や文化を背景に、人々のさまざまな願いが反映されたマスクの魅力を紹介し、その表現の本質に迫ります。展覧会は6月30日まで。
http://www.teien-art-museum.ne.jp

友枝雄人 (ともえだたけひと)

1967年10月28日生まれ。故友枝喜久夫の孫。伯父友枝昭世の養子となる。故喜多実、友枝昭世、塩津哲生に師事。能楽協会会員。
3歳で初舞台「鞍馬天狗花見」。10歳で初シテ「経政」。平成6年「猩々乱」、平成14年「道成寺」、平成17年「石橋」、平成22年「翁」を被く。「五蘊会」主宰。「條風会」同人。平成21年小学館白洲賞受賞。慶応大学経済学部卒業。

友枝雄人 (ともえだたけひと)

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