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松蔭先生の課外授業
No.017
東京都写真美術館 アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち
ゲスト:アーティスト/野村恵子さん
松蔭浩之先生が若手アーティストをゲストに都内の美術館で行う特別な授業。
前回に引き続き、写真家の野村恵子さんと東京都写真美術館で開催されている展覧会を鑑賞します。今回は、タイ出身の映像作家、映画監督のアピチャッポン・ウィーラセタクンの展覧会を訪れます。
アピチャッポン・ウィーラセタクン《ゴースト・ティーン》の前で

東京都写真美術館で展覧会「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」を鑑賞した松蔭浩之先生と野村恵子さん。続いて二人は「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」の会場へと足を運んだ。ガイド役は、同館学芸員の田坂博子さんだ。入口の前に、モニタや本が並ぶ一角があった。

田坂 このスペースは、アピチャッポンのアーカイブのようなものです。彼の作品のソースになったもの、たとえばお化けのマンガとか映画などを並べていて、いわば彼の本棚みたいなものですね。

松蔭 なるほど、いい導入部だ。

田坂 (会場に入って)まずは、《窓》という作品です。彼にとって初めてのビデオ作品で、ビデオカメラでテレビ画面を撮影したところ、フリッカー(ちらつき)現象が起きたんです。そのさまを少しずつ体を動かしながら撮った作品です。

松蔭 まるで遊びみたいな作品だ。それなのに、いいなあ、ちゃんと展示してもらえて。

田坂 この作品は当館のコレクションです。

松蔭 ますますいいなあ、収蔵してもらえて。

田坂 本展は映像作品だけでなく、写真も展示しています。こちらは、宇宙船をつくる様子を撮った写真です。

松蔭 いいなあ! 自由でいいなあ! 「いい」としか言いようがない。ほんと、楽しそうで。

田坂 この写真《ナブア森の犬と宇宙船》を撮ったのはナブアというタイ東北部の村です。そこは、かつて共産ゲリラと疑われて虐殺された人が多くいました。でも、そんな時代を知らない子供たちと一緒に宇宙船をつくったり、ワークショップのようなことを何ヶ月にもわたって続けてきたんですよ。

松蔭 なんでまた?

田坂 ナブアという村の新たなイメージをつくろうと取り組んだのです。こちらの、本展のメイン・ビジュアルでもある写真《ゴースト・ティーン》も、ナブアで撮影しました。

松蔭 この写真、こんなにでかかったのか!

会場入口にはアピチャッポン作品のソースとも言える品々が並ぶ
会場入口にはアピチャッポン作品のソースとも言える品々が並ぶ

アピチャッポン・ウィーラセタクン《悲しげな蒸気》2014年 ライトボックス、昇華型熱転写方式
アピチャッポン・ウィーラセタクン《悲しげな蒸気》2014年
ライトボックス、昇華型熱転写方式

学芸員の田坂博子さんとともに
学芸員の田坂博子さんとともに

田坂 オリジナルを引き延ばして、約4メートル×6メートルにしたんですよ。タイの幽霊のマスク(面)です。「怖い」とよく言われるんですが、どうですか、怖いですか?

松蔭 いや、怖いというより面白い。マスクの上から眼鏡をかけていたりとか。

野村 この展覧会、彼本人が構成を考えたんですか?

田坂 一緒に考えていきました。このマスクの写真も当館のコレクションなんですが、収蔵作品もある程度見せたいというこちらの意向も伝えました。

そして二人は、数々の映像作品を鑑賞。さまざまな工夫に「いいなあ!」「すてき!」と声をあげた。

アピチャッポン・ウィーラセタクン《花火(アーカイヴス)》2014年 シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション
HDデジタル、カラー、ドルビーデジタル5.1、6分40秒

アピチャッポン・ウィーラセタクン《花火(アーカイヴス)》2014年 シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション
HDデジタル、カラー、ドルビーデジタル5.1、6分40秒

田坂 次は《花火(アーカイブス)》です。やはりタイの東北部のノーンカーイの寺院で撮影しました。その寺院にある動物の彫刻を撮って、ガラススクリーンに映して見せています。

松蔭 うん、展示の方法も面白い。ガラス越しに壁や床にも映像が映って、いいインスタレーションだ。

田坂 その寺院の開祖も共産主義者と弾圧されて、ラオスに逃げていたこともありました。いろんな記憶を蘇らせる見せ方なんです。

野村 単純に見てもきれいですけど、そういう背景があるんですね。私、実はもともとアピチャッポンのファンで、映画はよく観てきましたが、展示は今年初めて観たんですよ。

松蔭 あ、僕と逆だ。タイを代表する現代美術家の一人という認識で、実は映画は観てなくて。

野村 最初は『ブンミおじさんの森』。最近では『光りの墓』も観ましたね。アニミズムや土着性とか、アジア人として理解できる面が多いですよね。

松蔭 世界の各地に、彼の作品を理解したり、愛したりしている人たちが多くいる。これは、この世界の豊かさの現れだと思う。スタッフにも恵まれてるし。

田坂 確かに、アピチャッポン・ファミリーがいないと成り立たない面がありますね。本展も、彼のネットワークがあったからこそ実現できました。

野村 日本でもヨーロッパでも彼は高い人気がありますが、タイではどうなんですか?

田坂 タイでもかなりの人気ですよ。ただ、映画監督としては名高くても、美術家としては、2016年に初めて、タイの美術館で個展が開かれました。

野村 松蔭さんが言うとおり、本当に自由な方だと思います。

松蔭 生き方そのものなんだよね。自由に生きて、自由に作品をつくることは、なかなかできないけどね。

アピチャッポン・ウィーラセタクン《故宮(ピピッタパン・ティ 台北)》(部分)2008年
撮影:松蔭浩之

アピチャッポン・ウィーラセタクン《故宮(ピピッタパン・ティ 台北)》(部分)2008年
撮影:松蔭浩之

かねがねカメラを操ってきた松蔭先生と野村さんが嫉妬するほどのアーティスト、それがアピチャッポン・ウィーラセタクンなのである。


構成:新川貴詩

アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち

国際的に活躍する、タイ出身の映像作家・映画監督である、アピチャッポン・ウィーラセタクンの個展が開催中。アピチャッポン作品の重要な要素でもある、目に見えない亡霊=Ghostをキーワードに、これまで直接的に言及されることが少なかった社会的、 政治的側面にも焦点をあてながら、アピチャッポンの映像世界を東京都写真美術館の映像コレクション作品と作家蔵作品から紹介しています。
2017年1月29日まで開催。
http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-2572.html

松蔭浩之(まつかげ・ひろゆき)

1965年、福岡県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。在学中に平野治朗とアート・ユニット「コンプレッソ・プラスティコ」を結成し、90年にベネチア・ビエンナーレに参加。以来、個展やグループ展多数。主な個展に「日常採取〜A DAY IN THE LIFE」(ギャラリー サイトウファインアーツ、神奈川、2014)など。アーティスト・グループ「昭和40年会」会長も務める。「瀬戸内国際芸術祭2016」に「昭和40年会」として出品。
ミヅマアートギャラリー
http://mizuma-art.co.jp/artist/0220/

松蔭浩之(まつかげ・ひろゆき)

野村恵子(のむら・けいこ)
兵庫県生まれ。同志社女子大学英文学部中退、大阪ビジュアルアーツ専門学校を卒業後、アメリカへ。1997年、コニカプラザ「新しい写真家登場」特別賞受賞。1999年、日本写真協会新人賞受賞。2000年、東川賞新人作家賞受賞。主な個展に「赤い水」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン、2014)、「Soul Blue 此岸の日々」(Poetic Space、ビジュアルアーツギャラリー、NADER、2013)など。
http://www.keikonomura.com/

野村恵子(のむら・けいこ)

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