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インタビュー
No.007
都市と森をつなぐ、“揺らぎ”のある建築へ
語り手:建築家 藤本壮介さん
「T-House」「東京アパートメント」など人の動きを誘発するような有機的な建築を生み出す、建築家の藤本壮介さん。原風景とも言える北海道の森のありようと、東京の路地風景につながりを見出すという独自の視点を持ち、海外にも活動を広げています。自然や人間の多様性、不確定性を建築に取り入れていこうとする建築観と、これまでの創作についてお聞きしました。
「House N」プラン

一人遊びから、可能性が何倍にも広がる共同制作へ

 僕は北海道の釧路に生まれて間もなく、北見というやや大きい町に移り、その後小学校2年生から高校卒業までを、田んぼと自然しかないような場所で過ごしました。粘土で恐竜をつくったり、絵を描いたり、妄想の中で盛り上がるといった一人遊びをしたり、父の書棚にあったガウディの建築の写真集を、彫刻を鑑賞するような感じで眺めていました。

 高校に入ってからは物理学に興味がわき、東大の理科に入ればいろいろ学べるからという理由で大学に入学したのですが、物理の授業がまるで理解できなくて、これは手の届かない世界だなと(笑)。それで、ものをつくることが好きだったので、建築を専攻することにしたんです。世界のありようを理解する方法をガラッと変えるという点で、建築は物理学とも似ていたんですよね。

 学生のときは自分一人で作品をつくりますが、建築家として働くとなればチームでの創作になります。僕は大学を卒業してからどの建築事務所にも所属せず、一時は北海道にも帰り、時々コンペに応募しながら興味の赴くままに過ごしていました。2000年に事務所を開いてからは一人、二人と所員を増やしていったんですが、始めてみたら、人と話しながらものをつくることも楽しかった。なりゆきに任せている間に、大勢の人と、大勢の人のための場所をつくる仕事をしていたんです。

 僕は好奇心がめちゃくちゃに旺盛というわけではないけれど、素直に驚くのが好きなんですね。知らない街に行ったら、ご当地グルメを全部食べ尽くしてやるぜ、とは思わないけれど、そこで起こる意外なことや未知のことを楽しめるというか。ポジティブな受け身というか(笑)、自分に来たものは何でも最初から拒まず、ポジティブにやれるという性質も、建築に向いていたのかもしれません。

「House N」 Photo by Iwan Baan

「House N」 Photo by Iwan Baan

「House N」 Photo by Iwan Baan

北海道の森と東京の路地に共通する、“揺らぎ”

 上京して以来、中野坂上とか、道がくねくねして家屋が建ち並ぶような街に住んできました。北海道はだだっ広いか、区画整理されているかで、小さい場所にごちゃごちゃとできている街がないので、東京の街並みが新鮮で。大きなビルも多いけれど、路地を歩くと木造の家とか郵便受け、電柱などがこまごまとあって、自分をとりまくものは意外と小さく、人にやさしい。路地もどこまでも続いていて閉じていない。最近、北海道の雑木林はそんな感じだったなと気づきました。いろんな背丈や種類の木があり、遊んでいれば木の葉っぱがグシャグシャとまとわりつく。東京の電線も、自分を取り囲む枝や蔓と同じように見えます。

 東京はまた、いい意味での不可解な時間の積み重ねがある。大昔の地形の上に、江戸時代の名残と明治の近代化、そして戦後の再出発と高度成長を経て現代に至るまで、本当にさまざまな時間の片鱗が、坂とか路とか建物として残りながら共存している。そこにリアルな生活の持つ力が重なって、何やら奇妙な有機体になっている。快と不快のギリギリの絶妙なバランスを保っている場所だと思います。都市計画の中でもっときれいな街にできたのかもしれないけれど、生活からにじみ出るリアルなものが蓄積されると、そこには揺らぎが生まれます。自然にも自然がつくり出す揺らぎがあるように、誰がつくったわけでもない都市空間の揺らぎが僕にはとても心地いいし、東京にはそれがいい感じに蓄積されている。大規模開発を行うときれいな街にはなりますが、揺らぎは失われますよね。土地が蓄積してきた片鱗を建築家が残そうと努力しても、やはり戻ってはこない。開発された街は時間が浅く、そこには不可解さもない。バラバラなのに快適というのは、海外の街と比べても希少な東京の魅力だと思います。

 このような揺らぎのありようを自分の建築にも取り入れたいと思いますが、いかんせんきれいになってしまうところが課題ですね。それでも多様性というか、例えば住宅の中でもいろいろな場所があり、昨日はここでご飯を食べたけれど、今日はここで食べようかとか、どのように使ってもいいデザインを考えるようにしたいと思っています。人間の行動や建物の機能を建築家の考えに押し込めてしまうのではなく、人々の生活が自然にさまざまな形で表れてくる、生活自体が持つダイナミズムが家そのものであるような建築にしたいなと。

 樹木が多彩で時間による変化も伴うように、自然の多様性や予測不可能性を建築にも活かしたいんですね。「武蔵野美術大学美術館・図書館」では、例えば住み慣れた街でも「こんなところ、あったかな?」と路地に引き込まれていくように、全貌がわからない豊かさ、期待感を膨らませるものをつくりたいと思いました。そうすることで、型通りの図書館ではなくて、意外な本に出会ったりインスピレーションが生まれる場所としての新しい図書館のあり方につながるのではないかと思ったんですよね。「HOUSE N」では外部の自然を取り込んでいます。今後の建築は、例えば空調で室内を一定に保つより、外気の変化などをポジティブに取り入れていくような、不確定要素を許容していくほうが豊かなんじゃないかと思っているんです。そうした建築を実際につくる際には困難はありますが、単に問題解決でなく、これまでと違う発想を生むクリエイティヴィティにつながります。心をオープンにして目の前で起こることを楽しむといいのではないでしょうか。

スケッチ

建築模型

「武蔵野美術大学美術館・図書館」左/スケッチ、右/建築模型

「だったら」の可能性。「あいだ」からの発想

 建築の設計ではたくさんの模型をつくりますが、最近は、単に模型をつくることで満足しないようにもしています。手を動かすと発想が出てきますが、何も考えずに惰性でつくり続けてしまうこともある。そうなると新しい発想にはつながりません。むしろ模型で直感的にできたものに対して言葉を与えることで発想を誘発するようなつくり方が面白い。「だったら、〜はどうだろうか?」という話し方で、しりとりするように次の可能性につなげていくんです。そして、言葉にならないものはスケッチで表す。模型と言葉とスケッチが次々と入れ替わっていくといいバランスが生まれます。現実的な条件から考えていくとともに、その先に展開するものを考えたいですから。

 建築の周りにはランドスケープやインフラがあり、建築の中には家具がありますが、ここ最近は、それぞれが溶け合うようなあり方が面白いと考えています。街と建築と家具とが、人間の身体を通してシームレスにつながるといい。それは、今までの概念では「なかった」はずの間を考えることなのではないかと思うんです。街と建築の間って何だろう? とか、建築と家具の間って何だろう? と。そうすると意外な豊かさが湧きあがります。現在設計中の「ベトン・ハラ・ウォーターフロントセンター」(セルビア共和国ベオグラード)の、道なのか広場なのか"ぐるぐる"したデザインは、そんな考えからつくっています。路でもあり建築でもあり家具でもあるような場所。人間の生き方って良い意味でいい加減で、それが豊かさだと思うんです。そんな豊かさを「機能性」が切り捨てていないか、人の活動の揺らぎを受け止める場所がもっとあっていいんじゃないかと。

 建築家を目指す人には、生い立ちとか家族のありようとか、それぞれが持つ固有の文化、個別性を掘り出しながらも、世界の人と共有できるものをつくり出してほしいと思います。個人の「こんな場所があったらいいな」という思いが世界とつながれるのが、建築の面白いところ。世界どころか、未来の人にもつながることができる。建築は建ち続けることで未来の人のための場所にもなり得るし、50年後のある日、一枚の図面や写真が再発見されることでアイデアが後世につながることもある。今、「メンテナンスフリー」なんて言葉がささやかれていますが、建物や文化は手入れしなければ継承されません。そこに人が関わっていくからこそ、生きたものとして継承される。「ルイス・カーン設計の家の外壁を手入れすることが生きがいだ」という住み手に会ったことがありますが、家も住み手もとても生き生きしていた。「手入れすることが豊かさである」という価値観に変わるといいなとも思います。

「ベトン・ハラ・ウォーターフロントセンター」完成イメージ
「ベトン・ハラ・ウォーターフロントセンター」完成イメージ


インタビュー・文/白坂ゆり
写真提供/藤本壮介建築設計事務所

藤本壮介(ふじもとそうすけ)

藤本壮介(ふじもとそうすけ)

建築家。1971 年北海道生まれ、東京在住。1994年、東京大学工学部建築学科卒業。2000年、藤本壮介建築設計事務所設立。2009年より、東京大学特任准教授、慶応義塾大学、東京理科大学 非常勤講師。「藤本壮介展 山のような建築 雲のような建築 森のような建築(2010年、ワタリウム美術館)、「第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展」(2010年、ヴェネツィア)など展覧会も多数。10月29日から東京都現代美術館で開催される展覧会「建築、アートがつくりだす新しい環境―これからの"感じ"」(2012年1月15日まで)に出品中。
http://www.sou-fujimoto.net/

 
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