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インタビュー
No.008
作品と観客とを、どう関係づけるか
語り手:演劇作家、小説家 岡田利規さん
演劇カンパニー「チェルフィッチュ」を主宰する岡田利規さんは、言葉と身体への探求から新しいスタイルの舞台をつくり出し、国内外で多数の公演を行っています。ダンスや美術などさまざまなジャンルの表現と交わりながら「演劇のポテンシャルを引き出したい」という岡田さんに、これまでの作品と表現の変遷、演劇作家の仕事についてお聞きしました。
『家電のように解り合えない』 2011年 あうるすぽっと (c)Tsukasa Aoki

ダンスで身体の面白さに目覚め、演劇に活かす

 もともと、演劇に対する興味は全然なかったんですよ。大学で映画をやりたくて、映画と演劇の両方をやるというサークルに入ったら、どちらかといえば演劇が盛んだった。最初は照明を手伝っていたんですが、文章を書くのが好きだから脚本を書くようになりました。それを先輩が演出するんだけど、何か違うので、自分が演出するしかないのかなと思って演出をやり出したんですね。

 大学卒業後も演劇を続けたかったので、1997年にチェルフィッチュを旗揚げしました。確信ではないけれど、続けていればなんとかなると思っていましたね。1999年に、横浜STスポット演劇フェスティバル「スパーキングシアター」に出場し、ディレクターの岡崎松恵さんが面白がってくれて自信がつき、STスポットに通うようになりました。山田うんさんや天野由起子さんなど、ダンス公演を初めてたくさん見て、からだの持つ面白さを演劇で見せないのは嘘なんじゃないかと思い始めます。ダンスに転向しようとは思わなかったのは、言葉に関心があったからです。そこから、言葉と身体の探求がチェルフィッチュの核になり、その最初の試みが『マンション』という作品です。ダンサーの手塚夏子さんに誘われて、渋谷のル・デコで2002年に行った合同公演で、テキストも映像も残っていない幻の公演なんですが、一部の人たちの間で話題になりました。

 2003年の『マリファナの害について』は、女の子とその友達、友達の彼氏と、喋っている主体が入れ替わる一人芝居。そこから、複数の登場人物が、聞いた話を説明するというスタイルに展開したのが『三月の5日間』(2004年初演)です。この作品で2005年に岸田國士戯曲賞をいただき、「岡田利規って誰?」「チェルフィッチュって何?」と言われるようになりました。

 ダンスの公演に参加するようになったのは、2004年の「WE LOVE DANCE FESTIVAL」からで、キャンセルになった出演者の代わりに急遽出ないかと誘われて。「あと3日でタイトルを決めなきゃいけない」というので、家にあったクーラーを見てとりあえず『クーラー』と名付けて、その後、音楽に合わせてダンスをつくりました。通常はダンスに合わせて音楽をつくりますし、ダンスといっても日常のしぐさからのダンス的動きで、言葉の意味ともズレているというので反響が大きかったですね。また、今でも自分の糧になっているなと思うのは『体と関係のない時間』(2006年、京都芸術センター)です。美術セットは、アーティストの小山田徹さん。舞台上での時間を、時計で計れる時間とは違うものにし、時間を引き伸ばそうと試みました。

チェルフィッチュ『三月の5日間』 2006年 スーパーデラックス (c)Toru Yokota

チェルフィッチュ『体と関係の無い時間』 2006年 京都芸術センター (c)福森クニヒロ

写真左/チェルフィッチュ『三月の5日間』 2006年 スーパーデラックス (c)Toru Yokota
写真右/チェルフィッチュ『体と関係の無い時間』 2006年 京都芸術センター (c)福森クニヒロ

海外公演でブチ当たった壁を乗り越えて

 2007年には、パフォーミングアーツのフェスティバル『KUNSTENFESTIVALDESARTS 2007』(ベルギー・ブリュッセル)に招聘されて『三月の5日間』を上演、初の海外公演となりました。そこで初めて、海外の演劇のマーケットなど、舞台芸術界の仕組みを知ります。ディレクターたちには、社会に何を提起するかという使命感も感じました。

 その翌年、『KUNSTENFESTIVALDESARTS 2008』(ブリュッセル)、「Wiener Festwochen」(ウィーン)、「Festival d'AUTOIMNE」(パリ)との共同製作作品として『フリータイム』を発表します。文脈を共有していない異文化の観客に向けて、欧米か非欧米かという問題を気にせずに素直に上演するというやり方は僕にはできなくて、エキゾチシズムをコケティッシュに使うのではなく、あるいは敵がい心をぶつけるようにやるのでもなく、どのようにつくれるかと考え抜きました。ですが、意識しすぎてある種の強さに欠けてしまい、悔しい思いをしましたね。

 でも、その経験があったから、2009年にベルリンの「HAU」劇場に招聘され、「Asia-Pacific Weeks Berlin 2009」で『クーラー』の拡張版『ホットペッパー、クーラー、そして、お別れの挨拶』を上演したときには、思い切り素直につくれたんです。これは、海外でオファーが多い代表作の一つになりました。近年は、ヨーロッパのディレクターが日本にリサーチに来るので、これから日本の劇団が海外で公演する機会は増えると思いますが、これはみんながたどる道ではないかな。

チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』 2009年 HAU劇場(ベルリン) (c)Dieter Hartwig

チェルフィッチュ『私たちは無傷な別人である』 2010年 愛知芸術文化センター/愛知トリエンナーレ2010 (c)Tatsuo Nanbu

写真左/チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』 2009年 HAU劇場(ベルリン) (c)Dieter Hartwig
写真右/チェルフィッチュ『私たちは無傷な別人である』 2010年 愛知芸術文化センター/愛知トリエンナーレ2010 (c)Tatsuo Nanbu

集団での創作、観客との関係から新たな境地へ

 2009年に、金沢21世紀美術館で塩田千春さんのインスタレーション作品とともにパフォーマンス作品『記憶の部屋について』を上演した際には、1日6時間という長さで観客はその間出たり入ったりするという、演劇とは異なる見せ方に挑戦しました。この辺りから、舞台上のパフォーマンスを見せるというだけでなく、パフォーマンスによって観客の中に何かをつくり出すという発想が生まれていきます。

 そこで、『わたしたちは無傷な別人であるのか?』では、『ホットペッパー、クーラー、そして、お別れの挨拶』とは対極的なミニマムな構成で、観客の想像力に委ねて表象を成立させるにはどうしたらいいか、徹底して取り組みました。ミニマムであることで、演劇が成立する驚きを見せたい。だけど観客には伝わらないだろうなという確信があったので(笑)、製作過程を公開し、さまざまなゲストと対談しながら創作していったんです。しかし結果的にそれは杞憂で、上演してみたら観客にはちゃんと届いたのでうれしかったですね。これ以上ないと思うところまでいったので、その後、ストイックさをいい意味でゆるめて、観客に何を持って帰ってもらえるのか考えながら『ゾウガメのソニックライフ』を製作しました。

 演出とは、つくる作品と観客とをどう関係づけるかということだと思います。目の前にいる観客は観客というだけでなく、それが社会であり、世界でもある。セリフの言い回しやポーズはどうでもよくて、いや、どうでもよくはないけれど、それが演出ということではない。それに、自分が見えているところに俳優やシーンを持っていくということはたいしたことじゃなくて、キャストやスタッフ、参加したアーティストなどが自分の予想のつかないものを出してきたときに「成功した」と僕は思います。テキストを書くときには、それがどういうシーンになるかまったく考えていません。適当に読んでもらうところから始まって、みんながいろいろやってくれるうちに僕の知らないところに持っていかれ、「あ、こういうすごいことになるな」と思う方へ方向づけていく。これまで舞台美術を手がけてくれたトラフ建築設計事務所や美術家の塩田千春さん、金氏徹平さんなどにも「こういうものをつくって」とは言っていません。そうしないと、自分の限界を越えた見たことのないものが生まれないから。

 それでいて、矛盾するようですが、俳優やスタッフたちが見たこともないことをやったときに、「僕がそうしてと言ったんだ」と自分で自分を欺くことができるほどに、あたかも「最初からわかっていた」と思う地点にたどり着くようなことがあります。それが演劇をつくる醍醐味なんじゃないかと思いますね。


インタビュー・文/白坂ゆり

岡田利規(おかだとしき)

岡田利規(おかだとしき)
Photo by Nobutaka Sato

演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973 年横浜生まれ。1996年、慶應義塾大学商学部卒業。1997年、全作品の脚本と演出を手がける演劇カンパニー「チェルフィッチュ」結成。2004年、『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞受賞。05年、ダンス作品『クーラー』で「トヨタ・コレオグラフィー・アワード2005」最終選考会に選出。07年、新潮社よりデビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表、翌年、第二回大江健三郎賞受賞。『三月の5日間』100回公演記念ツアーを12月9〜11日早川倉庫(熊本県)、12月16日〜23日KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオにて敢行。
http://chelfitsch.net/

 
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