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インタビュー
No.010
ものづくりで大切なのは、自分に正直に生きること
語り手:コスチューム・アーティスト ひびのこづえさん
80年代末に「コスチューム・アーティスト」として、雑誌、ポスター、テレビCM、演劇、バレエ、ダンス、映画、PVと多岐にわたるジャンルで衣装を制作しているひびのこづえさん。近年は、日本の地場産業と連携して商品開発なども行っています。さまざまな第一人者とコラボレーションしながら独自のスタイルを持つひびのさんに、衣装デザインという枠に収まりきらない活動についてお聞きしました。
水戸芸術館 「ひびのこづえの品品 たしひきのあんばい」 2007年 展示風景

コスチューム・アーティストを名乗る

美容雑誌 『re-quest/Qj』 2005年3月号より
美容雑誌 『re-quest/Qj』 2005年3月号より

 芸大のデザイン科を卒業する頃、「ザ・チョイス」や「日本グラフィック展」といった公募展が次々とでき、アートとデザインの狭間で新しい動きが生まれました。私も、日比野(克彦/現パートナー)が名づけたグループ「DIAMOND MAMA」で友人たちと活動しながら公募展に出品し評価をいただいていたのですが、自分が何を表現していけばいいのかはっきり見えてはいませんでしたね。

 その頃からシャツもつくっていましたが、最初は平面の中に半立体をつくるみたいなイメージ。DCブランドが日本に生まれ、美術館より洋服屋に行く方が刺激的で、アメリカの古着文化にも憧れていました。最初は洋服のプリントを描こうとしていたのですが、平面に描いても面白くない。それで布に描いて裁断して仕立てれば、直接描いた自分の匂いや線が見えなくなると考え、服を作品として発表しました。そして、友人たちの一言「着て撮影しよう」を実践。着ることによって作品が生き生きするのを見て、衣装を自分の表現として使えるかなと意識しました。

 とはいえ、洋服の勉強もしていないし、売ることが前提にあるファッションデザイナーとは違うなと。階段状の帽子とか、人の身体に不思議なインパクトのあるものを着せてオブジェ化し、写真や映像など別の媒体にしたいと考えていたので、コスチューム・アーティストという肩書きでやっていこうと決めました。ギルバート&ジョージにならって「リビング・スカルプター」という肩書も候補にあったのですが、説明が長くなるので止めたんです。フリーになったのは、本来はアートディレクターとして電通や博報堂に就職するつもりが残念ながら女性の求人がほとんどなく、狭き門を女友だちと争う気になれなかったから。でもコマーシャルの仕事で電通や博報堂と仕事をする事になるのですが、その頃は、コミュニケーションの取り方がわからず、男性社会の中で孤立感があり、常に緊張していました。


衣装が引き出す新しいからだの表現

NODA MAP  第13回公演『キル』 2007年

NODA MAP  第13回公演『キル』 2007年

NODA MAP  第13回公演『キル』 2007年

 野田秀樹さん演出の東宝プロデュース公演『から騒ぎ』で初めて大きな舞台の衣装を依頼されたとき、自分が手づくりしていた衣装を外部の人の手で何処までつくれるのかわからなくて、少し抑えたデザイン画を出したら、野田さんに「やり直し」と言われてしまったんですね。何かを見抜かれた気がして、次は自分の思うままに作り方を考えずに思い切ったデザインを描いてOKをいただきました。

 野田さんにとっても分岐点だったNODA MAPの第一回公演『キル』は、今でもすごく好きな作品です。野田さんの脚本には、国や時代を超えた不思議さがあり、モンゴルのようでリアルなモンゴルじゃない。人が羊になったり、椅子が別のものに変わったり。衣装が色んな意味を持ちました。再演のときは、時代的に初演の予算の3分の1でしたがベースを共通にして上だけ色を変えたりいろいろ工夫をしました。ナチュラルな世界、赤い攻撃的な世界、白い世界の場面の衣装の一部を変えてイメージをつくりました。例えば赤い世界のときはあえて上着を半身だけにしたことで、より人間の裏表を表すこともできました。また、2011年の『南へ』は火山観測所の話なのですが、公演中の3月11日に震災が起き、現実を含めて進行していくライブ感が印象に残っています。野田さんの芝居は、台本を読んでも意味が難解で、いつも謎解きしながらつくっていくような気持ち。おそらく野田さん自身も手探りで、役者と動きながら演出していくので、稽古場に行くと新しい解釈が加わっていることもあって。野田さんに「とにかく衣装はニュートラルに」と言われていた本当の意味が、最後になってわかったりしました。

スパイラルガーデン 「LIVE BONE」 2011年

NHK教育テレビ 『にほんごであそぼ』より「茸(くさびら)」 2004年放送

写真左/スパイラルガーデン 「LIVE BONE」 2011年
写真右/NHK教育テレビ 『にほんごであそぼ』より「茸(くさびら)」 2004年放送

 衣装の魅力は、服を身に着けた人の身体が衣装に影響されて面白い動きが生まれる所にあるので、特にダンスの衣装は楽しいですね。森山開次さんとは、「LIVE BONE」というライブパフォーマンスを企画していろんな場所で発表しています。大きな頭蓋骨と長い背骨を持った衣装は、人の動きに制約を与えるので、開次さんは身体から離れた衣装の先端まで意識を傾けて踊ることになる。おまけに場所に合わせて演出も変わり、即興の部分も残した川瀬浩介さんの音楽と絶妙な間が生まれ、見る人から笑いが起こります。楽しくて少ししんみりとするパフォーマンスです。フランスでエルヴェ・ロブという振付家とダンスをつくったときは、いろんな国籍やいろんな体格をした人たちがいて、日本人とは違う体の魅力に目を奪われ、ますます面白い衣装を考えたいと思いました。同時に、ヨーロッパには各劇場に衣装の工房がキチンと付いていて、新しい素材や技術に出会えるシステムも充実しているので、その点には憧れを抱きました。

 衣装だけでなくセットも担当しているのが、『にほんごであそぼ』です。野村萬斎さんやベベンさんこと国本武春さんなど伝統文化を背負うすごい人たちが、子どもたち以上に楽しんで演じていているTV番組で、内容に関わる提案もできることがやりがいにつながっています。もともと言葉を使う仕事は苦手でしたが、私なりの言葉から閃く物を形にしています。


長く使い続けられることへの憧れ

和工房みずとりの下駄とコラボレーションしたスリッパ
和工房みずとりの下駄とコラボレーションしたスリッパ

 バブルの頃はとても刺激的な時代で、新しいことをドンドン求められていたムードがあり、短いサイクルで消費されていくことに対する疑問が芽生えつつも、奇抜な衣装をたくさんつくっていました。ところがバブルが崩壊すると、ファッションがリアルを求めて行く流れが生まれます。私の中にもシンプルで強い物をつくりたい気持ちが生まれ、いつの間にか日常生活の中で長く使い続けられ愛着の持てる物づくりに移行し、プロダクトデザインも手がけるようになりました。

 日本の企業は勤勉で正確で、細かいところまで気に掛けながらもトライを忘れない職人気質が残っていることが素敵だなと思います。フランスを始めヨーロッパでは職人が街の中に生きていて、経済的にものすごく潤っているわけではないけれど、とても文化水準が高いと感じます。日本でも最近では、少量でも良質なものを生産できる体制が戻ってきました。そこで私にも、例えば鹿児島県の大島紬を復興できないかと、思案中のプロジェクトがあります。

 以前、衣装は一からすべてつくっていましたが、今は既製服をうまく加工したりもします。時代に合った方法論を見つけて、表現の幅を広げることも大事です。私自身、いまだに試行錯誤していますけど、クリエイションって人に付いて習うものではないなと思いますね。大切なことは、自分を信じて自分に正直に生きること。迷ったままで進めていると後悔する。すべて思い通りには行かなくても、条件やハードルがあるからこそそれを越えるアイデアが湧くこともある。私の場合、人とのコミュニケーションが苦手だったけれど、つくりたいものをつくるために努力する中でそれが少し解消されて新しい発見が生まれています。


インタビュー・文/白坂ゆり

ひびのこづえ

ひびのこづえ

コスチューム・アーティスト。1958年、静岡県生まれ。82年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。84年、日本グラフィック展・奨励賞受賞。88年よりコスチューム・アーティストとして仕事を始める。89年、日本グラフィック展・年間作家新人賞、95年、毎日ファッション大賞・新人賞受賞。97年、作家名を内藤こづえからひびのこづえに改める。野田秀樹脚本・演出『キル』(94、97、2007年)をはじめ、舞台衣装を多数手がける。NHK教育テレビ『にほんごであそぼ』『からだであそぼ』の衣装セット担当。「ひびのこづえの品品 たしひきのあんばい」(2007年、水戸芸術館)など個展多数。ハンカチ、タオル、インテリア小物などの多数の商品開発も行う。5月27日、「全国植樹祭やまぐち2012」の衣装を担当予定。
http://haction.co.jp/kodue/

 
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