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インタビュー
No.011
常に満足できないから、次の映画が生まれる
語り手:映画監督 荻上直子さん
『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』など、社会の流れに乗り切れないような人々の存在に光を当て、ユーモアを交えて描く映画監督の荻上直子さん。アメリカの大学院で映画を学び、自主映画の登竜門「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」で評価され、映画監督になった荻上さんは、既成概念に縛られることなく、オリジナルの世界をスクリーンに映し続けています。これまでの作品と映画監督の仕事についてお聞きしました。
5月公開予定の『レンタネコ』より。心の寂しい人に、猫を貸し出すちょっぴり不思議な女性・サヨコと、彼女が出会う人々が繰り広げる物語。(c)2012 レンタネコ製作委員会

アメリカで映画を学び、自主映画からスタート

 千葉大学工学部画像工芸科で写真を学んでいたのですが、映画を撮ろうと思ったのは、動くものが撮りたくなったからです。映画といえばハリウッドかな、じゃあUSC(南カリフォルニア大学)の映画学科に行こうという感じで、それ以上深く考えず、それまで映画もあまり見ていませんでした。アメリカの大学院は、映画を撮るための教育システムがしっかりしていて、最初はできないと思っていたことも、講義に沿ってやるうちにいつのまにかできるようになっているような、合理的で質の高い内容でした。学生の中には「オレが一番になってやる」とばかりに、競争心の強いエゴイスティックな人が多かったです。でも、先生に媚を売ったり、友だちを蹴落としたりしていたような人は途中で消えていって(笑)、10数年経った今でも映画祭などで会うのは、私のような英語があまり話せないアジア人のことも気遣ってくれたような数少ない人たちです。他人のことを気遣える、心に余裕のあるような人が残るものなのかもしれません。

 帰国後すぐにメイキング撮影などで映画の現場についたんですが、一生懸命ちゃんとこなせば次々と仕事は来るものの、このまま続けていても監督にはなれないなと思いました。それで3本くらいで見切りをつけ、自主映画を撮った。それが『星ノくん・夢ノくん』で、「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」に応募して音楽賞をいただきました。


脚本のイメージを越える撮影の現場

『バーバー吉野』より
『バーバー吉野』より

 次の『バーバー吉野』は、PFFの受賞者の中で、長編映画を撮るための脚本コンペに通ったので製作できた作品です。自主映画は一からすべて自分で用意しなければなりませんが、プロの映画では大勢のスタッフが付いて、ロケーション、美術、衣裳などなどすべてにわたって選択肢を用意してくれるんですね。それらをすべてチョイス、決断していくのが監督の仕事。『星ノくん・夢ノくん』は、仲間10人くらいで1週間で撮り、その後自分で編集してというペースでつくりましたが、『バーバー吉野』は限定されたスケジュールの中で次々撮っていかなければならないので、無我夢中でした。例えば、祭りのシーンの撮影では雨が降ってしまったので、次の日にしてくれるかと思ったら「撮りなさい」と言われて。今だったらすぐ「雨のシーンに変えちゃおう」と切り替えて、却ってメリハリがついていいシーンが撮れたりするんですが、当時は戸惑いもあり。やはり経験を積んで成長していくということだと思いました。ベルリン国際映画祭では児童映画部門特別賞を受賞しましたが、海外の人はいつも大袈裟に反応してくれるので(笑)、うれしかったです。

『かもめ食堂』より (c)かもめ商会 Photo by 高橋ヨーコ

『めがね』より (c)めがね商会

左/『かもめ食堂』より (c)かもめ商会 Photo by 高橋ヨーコ
右/『めがね』より (c)めがね商会

 その後、日本映画のシステムに不自由さを感じる出来事があり、プロデューサーに「外国で映画をつくりたい」と言って実現したのが『かもめ食堂』です。フィンランドのヘルシンキで撮影しました。ところが、現地のスタッフは仕事がのんびりとしているうえに、週末はちゃんと休むので、最初の3日間はもうどうしようかと。だけど、路面電車のシーンの撮影で、次の電車が来るまでの10分くらいの間にスタッフの女の子がアイスクリームを買いに行ったのを見たときに、これは怒ってもだめだ、あちらに身をゆだねて私が合わせなきゃと切り替えたんです。編集で映像を見ていたら、そういったフィンランドのゆっくりした空気が映っていたので、結果的にそれでよかったんだなと思いました。

『トイレット』より (c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ
『トイレット』より (c)2010"トイレット"フィルムパートナーズ

 脚本を書くときは、私自身はあまりテーマを決めてつくりません。『めがね』は場から発想しましたし、『トイレット』はミシンを使う男の子の姿が素敵だなと思って。主演は想定し、ラストをどうするかも決めているのですが、1時間半とか2時間とかの間にそこまでどうもっていくか、勢いに任せて書きます。その後、映画づくりにはたくさんの人がかかわるので、何度も手を入れながら形にしていくんです。

 役者さんやスタッフは、私自身が小心者なので(笑)、いい人を選ぶようにしています。俳優さんは、その人そのものがいい人じゃないと出てこないものがあると思いますし、華やかな環境の中でも普通の感覚を持ち続けているような方とか。映画はたくさんの人の力が交差してできるので、必ずスタッフ全員の名前を覚える、そのくらいのことは心がけています。同じプロデューサーやスタッフ、役者さんが続いたらそろそろ卒業しようとか、題材や手法とかでも何か違う新しいものにチャレンジするようにしています。


世界に出て、日本のオリジナル映画をつくる

 春からは、文化庁の海外研修制度でニューヨークに行く予定です。日本で10年映画を撮る間に、資金を出してくれる方ができ、つくりたいものをつくれるようになったことを幸せに思いながらも、ものをつくりだす人は過酷な状況にいないといけないんじゃないかと思って。ニューヨークには意地悪な人がいっぱいいますし(笑)、チキショーという気持ちがまた芽生えるといいなと。

 日本で主流な商業映画を製作している人たちの中には、国内にとどまっていて、海外の映画祭に出品しようという気持ちがあまりない人たちが多い気がするのですが、これから映画をつくる人たちはチャレンジしていくといいんじゃないかと思います。今は、オリジナル脚本で撮らせてくれるプロデューサーも少なくて、マンガや小説原作の映画化で、主演も決まっているようなケースも多い。それもいいでしょうけれど、世界で闘いながら、私はやはり日本のオリジナル作品をつくっていきたいです。

 時々「昔、映画つくりたかったんですよね」という人にも会いますが、「つくる」という意思の強さが分かれ目だと思います。続けることこそ大変ですが、やっぱり映画をつくりたいという気持ちになるんですね。それは、あそこはこうすればよかったなという反省の連続から、次はこうしようというアイデアがどんどん出てくるから。撮影現場より、家で一人で脚本を書いている方が性分的には好きなんですが、役者さんやスタッフの力で、自分のイメージを脱した面白さにぶつかったりすると、映画をつくっていて本当によかったなと思います。


インタビュー・文/白坂ゆり

荻上直子(おぎがみなおこ)

荻上直子(おぎがみなおこ)

映画監督。1972 年千葉県生まれ。千葉大学工学部画像工芸科を卒業後、1994年に渡米。南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年に帰国。2001年、自主製作映画『星ノくん・夢ノくん』が2001年度「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」で音楽賞を受賞。2003年、スカラシップ作品の権利を得て発表した初の長編劇場デビュー作『バーバー吉野』が、ベルリン国際映画祭で児童映画部門特別賞を受賞。『恋は五・七・五』(2004年)、フィンランドのヘルシンキを舞台にした『かもめ食堂』(2006年)を経て、『めがね』(2007年)で第27回藤本賞特別賞受賞。 2011年、『トイレット』で第61回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2010年には小説集『モリオ』(光文社)を刊行。新作映画『レンタネコ』(配給/スールキートス)は、2012年5月公開予定。
http://rentaneko.com/

  • 『かもめ食堂』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元・販売元/バップ
  • 『めがね』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元・販売元/バップ
  • 『トイレット』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元/ショウゲート 販売元/ポニーキャニオン
左/『かもめ食堂』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元・販売元/バップ
中/『めがね』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元・販売元/バップ
右/『トイレット』 ブルーレイ¥6,090(税込) 発売元/ショウゲート 販売元/ポニーキャニオン
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