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アートの視点
No.003
東京都江戸東京博物館 「花開く 江戸の園芸」展(後篇)
ゲスト:アーティスト 加瀬才子さん
前回に引き続き、東京都江戸東京博物館で江戸絵画を学ぶ「トーキョー・アート・ナビゲーション大学」。特別展「花開く 江戸の園芸」展の出品作品を見ながら、江戸時代の園芸文化の担い手や、人気の花などをめぐって、学長の小山登美夫さん、生徒の加瀬才子さんの話は弾みます。さらに加瀬さんの作品のテーマである「生と死」にも話題は及び……。前篇とあわせてお楽しみください。
撮影:林道子作品図版提供:東京都江戸東京博物館

庶民に愛された朝顔

東京都江戸東京博物館で好評開催中の「花開く 江戸の園芸」展。その出品作品を学芸員の行吉正一さんによる解説で鑑賞していた小山学長と加瀬才子さんは、聞き慣れない言葉を耳にした。変化(へんか)朝顔だ。

小山 な、何なんですか、変化朝顔って?

加瀬 とても気になります!

行吉 いまと同様、朝顔は江戸時代にも多くの人々に親しまれていました。そして、突然変異で生まれた普通の朝顔ではない変化朝顔も好まれました。奇形を鑑賞する文化ができたんですね。こちらが、いろいろな変化朝顔を集めた「朝顔三十六花撰」です。花弁が切り乱れたように咲いていたり、花弁の外側が白い帯のようになっていたり、さまざまな朝顔が載っています。

「朝顔三十六花撰」 万花園主人撰・服部雪斎画 嘉永7年(1854) 雑花園文庫蔵
「朝顔三十六花撰」 万花園主人撰・服部雪斎画 嘉永7年(1854) 雑花園文庫蔵

江戸東京博物館学芸員の行吉正一さんに資料を見せていただく

江戸東京博物館学芸員の行吉正一さんに資料を見せていただく

江戸東京博物館学芸員の行吉正一さんに資料を見せていただく

加瀬 こんな朝顔の花、初めて見ました!

行吉 花だけに限りません。葉っぱにもご注目ください。品種改良して先端が丸かったり模様が斑だったり、普通とは違うんですよ。

小山 ほんとだっ! で、品種改良ってことは、やはり相当な数を作らないと変化朝顔は生まれてこないわけですか?

行吉 朝顔は夏に大量に栽培できますし、さほど手間もかかりませんから、珍しい品種の開発も進んだんでしょうね、きっと。

加瀬 変化朝顔を育てる専門家の方がいたわけですか?

行吉 いましたけど、主に手がけていたのは上流階級の武士をはじめ、お金や時間に余裕のある人たちですね。庶民は普通の朝顔を楽しんでいました。

小山 ヒットメーカーみたいな人もいたんでしょうね。目が効いて、今年はこんな形のこんな色の変化朝顔が売れるぞと、見事に当てちゃう人が。

行吉 ただ、突然変異ですから、種として強いものじゃなくて弱いものなんですよ、変化朝顔は。

小山 なるほど。じゃあ、とても貴重なものなんですね。種として残らない一代限りで。

行吉 ええ、その記録が「朝顔三十六花撰」です。

小山 当時は絵で残したけど、いまなら写真を撮る感覚ですね。

加瀬 あれ? こちらの絵は普通の朝顔ですけど、英語が書かれていますね。

行吉 日本の朝顔は色がとても鮮やかなので、明治になると海外でも人気だったんです。こちらは、外国向けの輸出カタログですね。朝顔だけじゃなく、花菖蒲の輸出カタログもありますよ。

「日本朝顔輸出カタログ」 新倉省三著者兼発行 明治21年(1888) 江戸東京博物館蔵
「日本朝顔輸出カタログ」 新倉省三著者兼発行 明治21年(1888) 江戸東京博物館蔵

「横浜植木花菖蒲輸出カタログ」 横浜植木株式会社 明治23年(1890)以降 江戸東京博物館蔵
「横浜植木花菖蒲輸出カタログ」 横浜植木株式会社 明治23年(1890)以降 江戸東京博物館蔵


園芸と「生と死」

そして、行吉さんの丁寧な解説に満足した小山学長と加瀬さんは、鑑賞を終えた後も、話に花を咲かせた。

小山 植木屋という専門職が生まれて、植木鉢が売れて、といったことが起きたのも商業のまちだった江戸ならでは。ゆとりがあったからですね。江戸時代に園芸が盛んだったのは、平和な時代の賜物だと感じます。

加瀬 かなり前に見た小倉遊亀さんのドキュメンタリーで、植物は誰かに誉められたいわけでもなく、ただ一生懸命生きているから美しい、といったようなことをおっしゃってました。本当にそうですよね。人間はどうしても他人の目を気にしてしまいます。その点、植物はけなげ。そして、生と死の両方を備えています。今日、江戸時代の園芸文化に触れて、人間とのつながりを強く感じました。

小山 そういえば、生と死は、加瀬さんの作品のテーマだとか。

加瀬 そうなんです。私は生と死に興味があり、作品に自分の肉体を使うことも多くあります。たとえば、粘土でできたベッドに寝たり。ベッドは生と死が生まれる場所であり、夢と現実が錯綜する場所でもあります。また、粘土に記録された、自分が自覚していない時間、そして(肉体の)不在の存在を見て取りたかったんです。

それから加瀬さんは、自作について小山学長に語り始めた。断食を扱った作品や、カラシを発芽させる試み、毎年自らの髪を剃って生涯かけて完成させる営みなど、どの作品も生と死に向き合っている。一方、小山学長はひとつひとつの作品について質問する等、興味の深さがうかがえた。

小山 スケールが大きくて、自分の亡くなった後に作品が完成するという視点も面白い。今度ぜひ、作品を実際に見てみたいな。

加瀬才子 「Bed」 2008年 粘土
加瀬才子 「Bed」 2008年 粘土

加瀬才子 「Untitled」 2010年土、黄麻布、カラシ種
加瀬才子 「Untitled」 2010年土、黄麻布、カラシ種


構成/新川貴詩

行ってみよう! 江戸東京博物館

国技館など相撲の町として知られる両国に、東京都江戸東京博物館が開館したのは1993年のこと。菊竹清訓氏の設計による地上62メートルにもなる巨大な建物は高床式の独特の構造。常設展示室には、日本橋や中村座の大型模型など見どころ満載。今回、出品作品の一部を掲載した江戸東京博物館 開館20周年記念特別展「花開く 江戸の園芸」は、2013年7月30日(火)〜9月1日(日)開催。平和な時代に花開いた園芸文化が紹介される。
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp

小山登美夫(こやま・とみお)

1963年、東京都生まれ。東京芸術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアートを経て、96年に独立し、小山登美夫ギャラリーを開始。奈良美智や村上隆らの展覧会を開催、現在は菅木志雄、杉戸洋、蜷川実花ら日本人アーティストとともに、海外のアートフェアへも積極的に参加。陶芸のアーティストも紹介する他、今年秋には書の巨人、井上有一の展覧会も開催する予定。現在は東京とシンガポールでギャラリーを展開中。
http://www.tomiokoyamagallery.com

小山登美夫(こやま・とみお)

加瀬才子(かせさいこ)

日本で経済学を学んで金融関係に就職後、シカゴ美術館付属美術大学大学院(SAIC)から全額奨学金を支給され、2011年修士号(MFA)取得。MacDowell Colony Fellowship(2013)、ベップアートアワードグランプリ賞(2012)、 Vermont Studio Center Fellowship(2012)、John W. Kurtich Foundation Scholarship (2011)、その他受賞。近年の展覧会にLife-time Project(2012年10月大分)、Rapid Pulse(2012年6月米国シカゴ)、Territorial Testimonial(2012年5月米国ニューヨーク)、The Next Generation(2012年3月米国エバンストン)などがある。
http://saikokase.com

加瀬才子(かせさいこ)

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