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アートのスペシャリスト
No.012
世界を再認識する時間や機会をつくる
プランニング・ディレクター/働き方研究家 西村佳哲さん
アートにまつわるさまざまな仕事を紹介してきたこの連載。登場いただいたみなさんに共通していたのは「仕事はつくるもの」という言葉でした。では、どのように仕事をつくり出せばいいのか。最終回となる今回は、デザインやモノづくり、ワークショップといった「場」づくりを手がけるプランニング・ディレクターであり、「働き方研究家」という肩書で、多くのクリエイターにインタビューをしてきた西村佳哲さんにお話しをお聞きしました。
撮影=後藤武浩(ゆかい)

「つくる」「書く」「教える」の3種の仕事

――西村さんはご自分の仕事を「つくる」「書く」「教える」の3つに分類していらっしゃいますが、まず「つくる」仕事について教えてください。

美術大学のデザイン科を卒業後、建設会社の設計部に務め、30歳で退職してフリーランスになりました。1995年に、世界中で起きている複数の動きをライブで可視化しようと、仲間たちと「センソリウム」というホームページをつくり、97年にメディアアートのフェスティバル「アルスエレクトロニカ」で金賞を受賞しました。その後、妻と「リビングワールド」というデザイン会社を設立し、クライアントから相談を受けて取り組む仕事と、自分たちで商品をつくり、販売までする仕事を並行しています。オリジナルのプロダクトを制作することが多く、世界と共感的に生きる、あるいは生き生きとした時間をつくるためのデザインを発信しています。

――「働き方研究家」と名乗り、働き方について書くことになったのはなぜですか?

建設会社でオフィスをデザインしたときから「みんな、どんなふうに働いているんだろう」という興味があり、退社後にデザイン誌『AXIS』で働き方についてインタビューする連載を始めたんです。仕事場や制作プロセスのことよりも「どんなときにミーティングしているのか?」「ご飯はどうしてるの?」といった日常の働き方について聞くうち、行動選択の理由に、その人が何を大切にして生きているのかが表れると気づいたんですね。そこで、働くことは生きることだと思うに至り、「働き方研究家」を名乗るようになりました。

――多摩美術大学のデザイン科などで教えていらっしゃいますね。

自分の趣味や価値観のもとに学生を評価してしまうと、自分と同じような人しか生み出せなくなってしまうので、そうならない教え方を模索しました。例えば、椅子を制作する場合、「『座る』をデザインする」といった課題を出す。すると、通常の椅子を考える人もいれば、ピクニックシートや腰掛のついた浴槽などを考える人もいて、めいめいの「座る」を提示してくるんです。あらかじめある答えに近づいていくというより、学生一人ひとりのなかに答えがある。それが姿を現すようにサポートしていくことが「教える」ことだと気づきました。そこで、みんなを同じ結論に誘導することなく、集まった人たちが自分たちで解を見つけるよう進行するにはどうしたらいいのかを知るため、さまざまなワークショップを見学したり、自分でも行ったりしました。コンピュータでデザインするだけなら学校に来る必要はないですが、およそ同じ方向を目指している人たちが集まって、自分以外の他人を知るということが大切なんです。

リビングワールドのプロダクト《風灯》。日中は太陽光を受けて蓄電し、夜は風の動きで点灯する

リビングワールドのプロダクト《風灯》。日中は太陽光を受けて蓄電し、夜は風の動きで点灯する

リビングワールドのプロダクト《風灯》。日中は太陽光を受けて蓄電し、夜は風の動きで点灯する


みんなは素通りしても、自分だけは理由もなく惹かれてしまうもの、こと、人

――どんな仕事をつくればいいのかわからない人も多いと思いますが、考えるヒントはありますか?

最新刊『なんのための仕事?』(河出書房新社)
最新刊『なんのための仕事?』(河出書房新社)

たまらなさや喜びなど、自分が反応してしまうことは何か、考えていることよりも感じていることを意識してみるといいと思います。他の人のように自分は素通りできず、もうちょっとこうすればいいのにと感じるような、違和感でもいい。自分に嘘をつかない、うやむやにしないということは、ものづくりをしている人たちの基本的な力、技能だと思います。もうひとつ、心惹かれる大人とただ一緒に過ごし、その人のあり方を見るのもいいと思いますよ。

――自分の個性を見つけ出す方法はありますか?

個性はつくるものではなく、ある状況にどう対応するかで出てくるものだと思います。考えて見つけるのではなく、やらざるを得ない状況をつくるといいですね。


集まっている人たちが何かをつくり始めることを可能にする

――最近は、どんなプロジェクトに携わっていますか?

東日本大震災の後、その年の秋に陸前高田の醤油醸造蔵や建設会社の若社長を中心に会社の再建と並行して設立した“地域の仕事づくり”の会社「なつかしい未来創造」があり、僕はその冬から事業プランニングのサポートなどに携わっています。街から働き盛りの人たちが出ていってしまうので、仕事や住環境をどうにかしなきゃと。そこで、まずは彼らの仲間になってしまおうと考えて、外注ではなく、その会社の契約社員にしてもらい、東京から時々出かけています。みんなが話し合えるようにミーティングの進行役を引き受けたり、市外から関わってくれる人の根城となる施設づくりの製作体制を組み立てています。高田の彼らといい形で協働できそうな建築家や、ランドスケープデザイナー、現場監督をスタッフィングして、情報を共有したり、現場を見に行ったり、話し合ったりしながらみんなが腕をふるえる状況をつくっていく。2月に3日間の集中的なワークショップを開いて、クライアントも交えて設計のキックオフをしました。

――おおまかな方向を描き、それに合った人を集めて、みんなが力を発揮できるような場をつくっているんですね。それぞれの都合や事情が絡むと難しいのではないかと思いますが、まとめる秘訣はありますか?

優れた強力なヴィジョンを示して引っ張るよりも、葛藤状況をその場で共有してしまってお互いの違いを認めたほうがいいですね。困難さや危機的状況を共有したときに人は一枚岩となりますから、相対化できれば、「ダメじゃん、俺たちてんでバラバラで」とこだわりを捨て、自然と自己組織化されるものです。

――西村さんは「つくること」をどのようにお考えですか?

何か面白いことやものを新しくつくるというより、すでにある何かに気づいたり、あらためて見えたりすることを大切にすることで充分楽しめると僕は思っています。例えば、1999年から仲間たちと行っている《サウンド・バム》という旅のプロジェクトで、夜明け前の森にレコーダーをセットし、さまざまな音を集めていると、生き物がそれぞれのペースで起きて活動し始めるのを感じることができます。山鳩が鳴き始めてから、地平線からあたたかい空気が流れてきて虫が動きだし、魚のはねる音が聞こえて、猿がひとしきり朝礼みたいなことをして、鳥がチチッと鳴き始めるまでに2時間くらいかかる。今こうして話している間にも、心臓は動いていて、約1分かけて血の全量が体内を循環しています。僕にとってデザインは生命讃歌の手段で、世界を再認識する時間や機会をつくることに萌えるんです。

《サウンド・バム》。幅40mの壁を世界地図に見立てたサウンド・インスタレーション、録音された音が、スタジアムでウェーブが起こるように回っていく(2004年、金沢21世紀美術館)

《サウンド・バム》。幅40mの壁を世界地図に見立てたサウンド・インスタレーション、録音された音が、スタジアムでウェーブが起こるように回っていく(2004年、金沢21世紀美術館)

《サウンド・バム》。幅40mの壁を世界地図に見立てたサウンド・インスタレーション、録音された音が、スタジアムでウェーブが起こるように回っていく(2004年、金沢21世紀美術館)


インタビュー・文/白坂ゆり

西村佳哲(にしむら・よしあき)

1964年、東京生まれ。武蔵野美術大学卒業後、建築設計・計画の仕事を経て、「つくる」「書く」「教える」の大きく3種類の仕事に携わる。リビングワールド代表。多摩美術大学などの教育機関でデザイン・プランニングの講義やワークショップを担当。働き方研究家として、著書に『自分の仕事をつくる』(晶文社/ちくま文庫)、『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)、『いま、地方で生きるということ』(ミシマ社)、『なんのための仕事?』(河出書房新社)などがある。
リビングワールド公式HPhttp://www.livingworld.net/

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