東京のアートシーンをアーティストとともに創り、発信する Tokyo Art Navigation
HOME トピックス 展覧会・イベント情報 美術館・劇場・活動スペース アーティストファイル アート作品ランキング コラム 支援制度・コンテスト情報
トップ > アートのスペシャリスト
 
アートのスペシャリスト
No.003
作品が社会にもたらす意味を考えながら展覧会をつくる
インディペンデント・キュレーター 飯田志保子さん
東京オペラシティ アートギャラリーで11年間キュレーターを務めた後、オーストラリアのクイーンズランド州立美術館で客員キュレーターとして2年間働き、キャリアを積んだ飯田志保子さん。帰国後は独立し、インディペンデント・キュレーターとして活動。現在は「あいちトリエンナーレ2013」のキュレーターの一人として、活躍されています。展覧会を企画・構成し、発信するキュレーターの仕事について、それぞれの経験から得たお話をお聞きしました。

展覧会制作や美術館の開館準備のプロセスにかかわる

――飯田さんがキュレーターを志すようになったきっかけをお教えください。

飯田さんがキュレーションした展覧会「ヴォルフガング・ティルマンス:Freischwimmer」(2004年、東京オペラシティ アートギャラリー)
飯田さんがキュレーションした展覧会「ヴォルフガング・ティルマンス:Freischwimmer」(2004年、東京オペラシティ アートギャラリー)

美術大学で美術史や美術批評など芸術理論を学びながら、アルバイトやボランティアで現代美術の展覧会制作に参加していました。1996年に開催された東京ビッグサイトでの展覧会「オン・キャンプ/オフ・ベース」では、ドイツの2人組のアーティスト、ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニの通訳兼アシスタントを務めました。そこで初めて、文化事業がさまざまな制度の中で行われていることを実感するとともに、アーティストだけでなく行政や企業など多様な分野の人びととの交渉を垣間見て、アートを通じて社会を変えていくことができるキュレーションやコーディネイトの仕事に携わりたいと思ったんです。それで、学部4年生の進級時に、現代美術のキュレーションについて実践的に学べるゼミに移籍しました。

――卒業後、美術館学芸員などの職員募集はありましたか?

不景気な時期でしたので新規採用の募集はなく、アルバイトで生計を立てながら、展覧会の仕事で声がかかればすぐに参加できるようにしていました。半年を過ぎた頃、東京オペラシティ アートギャラリーで1999年のオープンに向けてアシスタント・キュレーターの募集があり、採用の機会に恵まれました。

キュレーターに昇格する前から、若手平面作家のシリーズ展やコレクション展の企画、開館後の企画展準備補佐、美術館の開館準備の会議出席など、幅広く経験することができました。美術館の理念づくりやその伝え方といった、美術館を立ちあげるまでの過程を経験できたのは貴重でした。周囲の方々には、社会人として、また学芸員として、一人前になる過程を見守っていただき感謝しています。


作品を選び、構成を考え、見る人が話し合う場をつくる

――キュレーターとはどのような仕事なのでしょう?

端的に言えば、展覧会をつくる仕事ですね。アーティストや作品を選び、展覧会のテーマやストーリー、アーティストの考えなどが伝わるような展示を考え、鑑賞者との対話を図ること。その作品が今の時代や社会にどういう意味をもたらすのかを鑑賞者に問題提起し、ともに話し合う場をつくることがキュレーターの主な仕事だと考えています。

例えば、オーストラリア人のキュレーター、ベック・ディーンと共同で企画した展覧会「トレース・エレメンツ」では、情報化社会を生きる私たちの愛とアートのありかたを再考した、古橋悌二さんのインスタレーションや、ある地域に長期滞在してそこに住む人びとの記憶を引き出し、時空を超えたような写真を制作する志賀理江子さんの作品などを展示しました。私たちの生活に身近なものとなった写真メディアが、記憶、自我、精神、身体の知覚、個人または集団の歴史と社会に及ぼす影響について意見を交わしながら展覧会をつくりあげ、東京とシドニーで開催し、シンポジウムなどを行いました。

ただし、キュレーターの仕事内容には、美術館の運営形態によって違いがあります。たとえば東京オペラシティ アートギャラリーは私立美術館で、そのコレクションは主に複合文化施設・東京オペラシティの共同事業者でコレクターでもある寺田小太郎氏の寄贈によって形成されていますので、キュレーターが収集まで視野に入れて展覧会を企画することはありません。一方、公立館の場合は、まずコレクションをつくるための調査・研究があり、それをもとに展覧会をつくる、あるいは、展覧会の出品作を収集することが多いですね。

――展覧会制作のためには何が必要でしょうか。例えば、世界の動向に関心を持ち、さまざまな展覧会を見るなど、日頃の情報の蓄積が大切そうですね。

はい。作品を選ぶためのフィールドワークはもちろんですが、現在の社会情勢を知り、世の中を広く見る必要があると思います。ニュースで情報を得ることだけでなく、人と話したり食べたり歩いたりといった、日常生活においても問題意識を持つ姿勢が大切だと思いますね。例えば、レストランで食事をする時に、この食材はどこから来たのかと考えてみる。調べてみるとその国の歴史・政治・文化などさまざまなことがわかってきます。その過程で気づいたことが、展覧会のテーマにつながることもありますし、アーティストも同じ時代を生きていますから、時代の変化や生活の中に潜む問題を反映した作品が生まれてきます。そのような作品についてアーティストと協議しながら、展覧会のストーリーを深めていくのです。

ベック・ディーンとの共同企画「トレース・エレメンツ-日豪の写真メディアにおける精神と記憶」 (2008年、東京オペラシティ アートギャラリー)  左から志賀理江子、古橋悌二作品 Photo: Keizo Kioku Courtesy: Tokyo Opera City Art Gallery

ベック・ディーンとの共同企画「トレース・エレメンツ-日豪の写真メディアにおける精神と記憶」 (2008年、東京オペラシティ アートギャラリー)  左から志賀理江子、古橋悌二作品 Photo: Keizo Kioku Courtesy: Tokyo Opera City Art Gallery

ベック・ディーンとの共同企画「トレース・エレメンツ-日豪の写真メディアにおける精神と記憶」 (2008年、東京オペラシティ アートギャラリー)  左から志賀理江子、古橋悌二作品 Photo: Keizo Kioku Courtesy: Tokyo Opera City Art Gallery


現代美術が生活の中にあるオーストラリアでの経験

――2009年に東京オペラシティ アートギャラリーを退職してオーストラリアに行かれたいきさつをお教えください。

文化庁の「新進芸術家海外派遣制度」の助成を得て、ブリスベンにあるクイーンズランド州立美術館学芸部のアジア・パシフィック・アート課内の研究機関ACAPA(Australian Centre for Asia Pacific Art)に客員キュレーターとして在籍し、2年間学芸業務を勤めました。同館が主催する「アジア・パシフィック・トリエンナーレ・オブ・コンテンポラリー・アート」過去6回の文脈の変遷の調査研究が目的です。「アジア・パシフィック・トリエンナーレ」は、先住民や移民を含む多様な人びとが共生する多文化主義国家オーストラリアの文化的アイデンティティを創造する一助となるために、1993年から20年間、開催されてきました。2006年に開催された第5回「アジア・パシフィック・トリエンナーレ」では、出品作の約7割がコレクションされ、現代美術が地域住民にとって身近なものになっています。そのような現代美術の社会的役割や存在価値、その浸透過程が知りたかったんですね。

業務の中には、作品をコレクションするための収集提案書の作成もありました。購入額の妥当性の検証などのほかに、そのアーティストの仕事が、歴史上のあるいは現在評価の高い世界のアーティストと比べてどのような位置にあるか、相対評価を行うのです。それは新しい地図を作るような仕事で、その地図が更新されていくようなイメージですね。

――現在は「あいちトリエンナーレ2013」のキュレーターの一員として展覧会を準備されていますが、オーストラリアでの経験が役立っていますか?

「あいちトリエンナーレ」は、会場となる愛知芸術文化センターや名古屋市美術館といった美術館が主催するのではなく、愛知県が主催する行政主導の文化事業であることや、出品作がコレクションにならないなど、クイーンズランドとは状況は違いますが、経験は活きていますね。6月は、芸術監督の五十嵐太郎さんをはじめキュレーターチームでヨーロッパを回り、海外の主要な展覧会を視察したり、アーティストと打ち合わせをしたりしてきました。

――この仕事をしたい人へのアドバイスをお願いします。

アート関係の仕事は、組織に所属するか否かという二者択一ではない働き方が可能だと思います。アーティストは皆フリーランスですし、組織に属しているキュレーターでも精神的にはインディペンデントである方が多いと思います。私の場合は、一か所で実績を積んでから学びたいことがわかって動きましたが、自分に何が向いているのか見極めるまでいろいろ試してもいいと思いますし、やり方はひとつではないですね。そして、自分の能力を地域社会、日本、世界などのうち、どこへ還元していくか。前例のないことでも交渉してみるなど、生産的であろうすることが大切だと思います。

第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2009年12月5日〜2010年4月5日)右の写真はスボード・グプタ作品 Photo: Natasha Harth Courtesy: Queensland Art Gallery / Gallery of Modern Art, Brisbane

第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2009年12月5日〜2010年4月5日)右の写真はスボード・グプタ作品 Photo: Natasha Harth Courtesy: Queensland Art Gallery / Gallery of Modern Art, Brisbane

第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2009年12月5日〜2010年4月5日)右の写真はスボード・グプタ作品 Photo: Natasha Harth Courtesy: Queensland Art Gallery / Gallery of Modern Art, Brisbane


インタビュー・文/白坂ゆり

飯田志保子(いいだ・しほこ)

インディペンデント・キュレーター。1998年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。同年東京オペラシティ文化財団に所属し、同財団アートギャラリーの開館準備に従事。1999年の開館後2009年まで同館キュレーターを務める。2009年〜2011年、オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド州立美術館において客員キュレーターを務める。2011年〜2013年にかけてパース、ニューデリー、シンガポールで開催される国際交流基金主催の展覧会「Omnilogue」シリーズのうち、ニューデリーの「Journey to the West」展を共同キュレーション。現在「あいちトリエンナーレ2013」キュレーター。6月22日〜7月28日「Identify [」(nca|nichido contemporary art)開催。

創作活動サポート
メンバー登録
東京のアートシーンを共に創造するメンバーを募集しています!
アーティストの方はこちら
あなたの作品や活動をTokyoから世界に向けて発信してみませんか?
サポーターの方はこちら
創作活動をサポートするギャラリーや稽古場の登録、展覧会やイベントを投稿できます。
メールマガジン登録申し込み
デジタルミュージアム
美術館・博物館の収蔵作品2万点以上の
デジタルアーカイブ
東京・ミュージアム ぐるっとパス
詳しくはこちら