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アートのスペシャリスト
No.004
記憶に残る展覧会空間をつくる
東京スタデオ代表取締役社長 小澤洋一郎さん
貴重な作品を保護しながら鑑賞しやすい展示ケース、解説や作品名などが読みやすく美しい展示パネル。作品の安全と効果的な見せ方を考え、空間を演出する。展覧会の会場づくりを担う美術施工会社は、キュレーターやアーティストにとって心強いパートナーです。美術館や博物館、百貨店、文化ホールなどで開催される展覧会や展示会、イベントの企画、設計、制作、施工管理の仕事について、数々の現場を経験し、今年5月に代表取締役社長に就任した「東京スタデオ」(東京都駒込)の小澤洋一郎さんにお話をお聞きしました。
展示設営で打ち合わせをする小澤さん(左)

展覧会の企画から、設計、制作、施工管理までトータルにサポート

――今日は、小澤さんの案内で「大英博物館 古代エジプト展」(7月7日〜9月17日、森アーツセンターギャラリー)の施工現場にやってきました。全37mの『死者の書』、「グリーン・フィールド・パピルス」やミイラや棺、護符、装身具など約180点を展示する本展の会場づくりを、東京スタデオさんが手がけているのですね。

はい。什器や会場を設営する「木工造作」が終わり、今は、展覧会を主催する朝日新聞社、NHKやNHKプロモーションの企画担当者、大英博物館のキュレーターやコンサバター(作品の修復・保存家)とやり取りをしながら、日本通運(日通)の美術品輸送スタッフと作品展示を行っているところです。作品を運び、展示するのは日通さんの仕事で、私たちは展示後に状況をチェックする現場監督的立場にあります。

「大英博物館 古代エジプト展」設営風景。什器を設置し、《ホルアアウシェプの人形棺と女性のミイラ》を展示。展示台の下に調湿剤、ケース内に照明が組み込まれている

「大英博物館 古代エジプト展」設営風景。什器を設置し、《ホルアアウシェプの人形棺と女性のミイラ》を展示。展示台の下に調湿剤、ケース内に照明が組み込まれている

「大英博物館 古代エジプト展」設営風景。什器を設置し、《ホルアアウシェプの人形棺と女性のミイラ》を展示。展示台の下に調湿剤、ケース内に照明が組み込まれている

――仕事を分担されているのですね。本展に限らず、東京スタデオさんの主な仕事の流れを教えていただけますか?

展覧会の会場を施工するだけにとどまらず、展覧会づくりの多くの過程において、新聞社の文化事業部や美術館学芸員などをサポートします。まず、コンセプトづくりから始まり、展示品の選定や交渉、展示・演出プランを話し合いながら作成し、「空間イメージ」を提案します。次に、でき上がったイメージを具現化するための施工管理、映像や音響機材の設置、展示に必要な演示具の制作方法などを、コストパフォーマンスも考慮した効率的な工程や安全管理を念頭に置いて、関係者と打ち合わせをします。それらが決定したら、会場を構成する什器などさまざまなものを製作、あるいは業者に発注し、設営します。東京スタデオではそれら一連の業務を「企画」「デザイン」「制作」の3つの部署に分けて行っています。

――これまでにどんな展覧会がありましたか?

特別展「世界遺産 ナスカ展―地上絵の創造者たち」(2006年、国立科学博物館)。会場デザイン・施工、展示什器製作を手がけた。撮影=クドウオリジナル フォト 工藤明敏
特別展「世界遺産 ナスカ展―地上絵の創造者たち」(2006年、国立科学博物館)。会場デザイン・施工、展示什器製作を手がけた。撮影=クドウオリジナル フォト 工藤明敏

「バーンズ・コレクション展」(1994年、国立西洋美術館)など泰西名画の展覧会や、特別展「世界遺産 ナスカ展―地上絵の創造者たち」(2006年、国立科学博物館)など歴史博物館展、「横浜トリエンナーレ」(2001、2005、2008、2011)など現代美術展。年に270展くらいの委託を受けていますね。


現代美術では、アーティストのイメージを具現化することも

――小澤さんがこの仕事に就いた経緯をお教えください。

「東京スタデオ」は、1945年に父が創業した会社で、映画の美術制作やイベント会場の設営などを手がけていました。1962年に駒込に移るまで、西日暮里(現在はギャラリー「HIGURE17-15 cas」を運営)にありました。私は高校で建築を勉強した後、デザインの専門学校でグラフィックデザインを学び、「東京スタデオ」に入社しました。

最初はデパートのバーゲン会場や物産展などの会場施工をしていたのですが、1975年、西武デパートに西武美術館がオープンし、展覧会の仕事に携わるようになったんです。ポケットにドライバーを1本忍ばせて、声がかかるのを待っていました。当時は電動ドライバーが出回り始めていたのですが、海外のキュレーターは作品が収められている木箱は慎重に開けてほしいと思っていることをわかっていたので、そばに行って手動でやってみせたんですね。そこから次の展示作業にも入ってくれと頼まれるようになり、少しずつ作品に近づけるようになったんです。

また、当時の日本は「もの派」の作家たちが活躍していた時代。木や鉄などを用いたインスタレーション制作を補助する際に、これは何だろうと思ってアーティストに話を聞いてみたんです。それから、アーティストのイメージをどうやって具現化するか一緒に考えながらつくる方が面白くなってきました。1993年に草間彌生さんが「第45回ヴェネツィア・ビエンナーレ」に参加した際、同行してミラールームのインスタレーションを制作展示した時から、東京スタデオに新たに現代美術部門を発足しました。アーティストから、構造的に展示を成立させるための素材や工法などの相談を受けるようにもなりました。制作や展示が物理的に困難だと思われる作品ほど、完成した時はうれしいですね。どんな展覧会でも最初に作品や会場を見られるのが、この仕事の特権かもしれません。

「横浜トリエンナーレ2000」より。左:運河パークに銀の球体を浮かべた草間彌生《ナルシス・シー》の制作風景。泥を付着させた巨大なドレスの上を水が流れる塩田千春《皮膚からの記憶》(パシフィコ横浜展示ホール)の作品設置も手がけた 撮影=安斎重男

「横浜トリエンナーレ2000」より。左:運河パークに銀の球体を浮かべた草間彌生《ナルシス・シー》の制作風景。泥を付着させた巨大なドレスの上を水が流れる塩田千春《皮膚からの記憶》(パシフィコ横浜展示ホール)の作品設置も手がけた 撮影=安斎重男

「横浜トリエンナーレ2000」より。左:運河パークに銀の球体を浮かべた草間彌生《ナルシス・シー》の制作風景。泥を付着させた巨大なドレスの上を水が流れる塩田千春《皮膚からの記憶》(パシフィコ横浜展示ホール)の作品設置も手がけた 撮影=安斎重男


ものづくりと共同作業が好きなこと、プラス思考が大切

――現場では、どんな技能が必要になりますか?

展示図面やグラフィックの作成、大工仕事、照明や電気工事など、さまざまな知識や技術を必要としますね。彫刻を立てる土台をつくる時、構造計算や風力計算は専門家に頼みますが、そうした建築的な知識や展示には消防法など法律の知識も必要です。アクリルや金属加工、塗装など、単価と質を考慮した素材選びと、どの工場や職人に仕事を発注するか、1人で完璧に見積もりができるようになるまで5年はかかるでしょうか。学芸員資格、自走式高所作業台車の運転免許なども取得してもらいます。何か資格や技術を持っていれば即戦力になりますが、現場で身につけていくこともできます。アルバイトから経験を積んでいくこともできますよ。

――この仕事を目指す人へのアドバイスをお願いします。

ものをつくることが好きで、手先が器用だともちろんいいですが、大切なのは共同作業が苦にならず、現場で声を出せることですね。現場によって状況は違いますし、急な変更にも臨機応変に対応できなくてはなりません。どんな時もピンチをチャンスに変えるプラス思考が肝心だと思います。


インタビュー・文/白坂ゆり

小澤洋一郎(おざわ・よういちろう)

株式会社 東京スタデオ代表取締役社長。1949年、東京生まれ。1967年、東京スタデオ入社。草間彌生、クリスト、リチャード・ディーコンらさまざまなアーティストとの作品制作、展示施工で協働する。「第45回ヴェネツィア・ビエンナーレ」(1993年)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000年、2003年)、「横浜トリエンナーレ」(2001年、2005年、2008年、2011年)、「会田誠 山口晃 アートで候。」展(2007年、上野の森美術館)ほか多数の展覧会にかかわる。

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