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アートのスペシャリスト
No.005
作品から発せられる光をつかまえるような気持ちで撮る
カメラマン 木奥惠三さん
美術分野で求められる写真には、作品撮影や展示風景の記録などがあります。これらは、アーティストの活動を広く世に知らせる広報素材として、また、活動の軌跡を残し、後に作品を検証する資料としても欠かせないものとなっています。数多くの展覧会を制作の段階から記録してきたカメラマンの木奥惠三さんに、美術撮影についてお話をうかがいました。

作品がつくられていく過程に参加する喜び

小谷元彦〈Hollow〉シリーズ(部分) 「小谷元彦展:幽体の知覚」(2010年、森美術館)展示風景
小谷元彦〈Hollow〉シリーズ(部分) 「小谷元彦展:幽体の知覚」(2010年、森美術館)展示風景

「曽根裕 Perfect Moment」(2011年、東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景Courtesy the artist and David Zwirner, New York
「曽根裕 Perfect Moment」(2011年、東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景Courtesy the artist and David Zwirner, New York

――カメラマンになった経緯を教えてください。

大学卒業後、カメラメーカーの開発部に勤め、開発中のカメラを使って撮影する仕事をしていました。しかし次第に、カメラのために写真を撮るよりも、写真そのものの仕事をしたいと思うようになり、3年で退職しました。

その後、広告写真を手がけるカメラマンのアシスタントを2年務めて、1997年に独立しました。広告よりドキュメンタリーの方が性に合っている気がして、何を撮ろうかと対象を探している頃に、美術関係の人と知り合うようになりました。たまたま近所にあった現代美術ギャラリー、スカイ・ザ・バスハウスのオープニングに出かけ、オーナーの白石正美さんやアーティストの中村政人さんなどと話すようになり、作品の写真撮影を依頼されるようになりました。

――そこから美術撮影の仕事が増えていったのでしょうか?

はい。会田誠さんや山口晃さん、彼らの作品を取り扱うミヅマアートギャラリーの元スタッフで、現在は独立している青山秀樹さんや藤城里香さんなど、同世代の作家やギャラリストとの出会いや、2003年のヴェネツィア・ビエンナーレ前後からの山本ゆう子さんや小谷元彦さんとの付き合いが、その後の仕事につながっていきます。また、2002年頃から雑誌『BRUTUS』でコレクターの家を訪ねる取材撮影をさせてもらったり、オープン前の森美術館の依頼で六本木ヒルズのパブリックアートの撮影を行なったり、依頼内容も広がりました。

――美術撮影を「これだ!」と思ったのはなぜですか?

上京してすぐに知り合ったロジャー・マクドナルド(現AIT/特定非営利活動法人Arts Initiative Tokyo主宰)が、彼の弟で画家のピーター・マクドナルドを含む4人のイギリス人の展覧会を初めて企画した時に、その記録撮影を依頼されました。これが自分にとっての最初の美術写真でした。その制作過程の撮影をした時に、アートの現場に自分の居場所がある気がしました。


アノニマスな立場で、制作過程から撮る

「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー―力が生まれるところ」(2012年、水戸芸術館)展示風景 Gerda Steiner & Jorg Lenzlinger
「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー―力が生まれるところ」(2012年、水戸芸術館)展示風景 Gerda Steiner & Jorg Lenzlinger

――美術の分野では、具体的には何を対象にどのような撮影がありますか?

作品写真、展示風景、制作風景などの撮影があります。それらが、チラシやポスター、参考図版などに使う広報用なのか、図録用なのか、学術的な記録用なのかで若干撮り方が変わってきます。

広報用や図録用には、最近は特に見る人を惹きつけるような写真が求められますね。時には象徴的な部分だけをクローズアップしたり、ピントをぼかしたり……。対照的に、学術的な記録写真では、例えば何十年か後に展覧会を再現する際や、その作家の系譜として展覧会を網羅的に比較検討する際に資料となるような、ニュートラルな視点のものが求められます。展覧会の撮影をする時は、なるべく客観的な視点で端から端まで撮るような気持ちで撮影しています。ある意味、使命感のようなものに突き動かされているところもあります。

――そのような思いを抱くようになったきっかけは何でしょうか?

2003年のヴェネツィア・ビエンナーレのアルセナーレ会場でタイの作家、リクリット・ティーラワニットが「ユートピア・ステーション」という展覧会を、批評家のハンス・ウルリッヒ・オブリスト、モリー・ネスビットと共同キュレーションしました。現場ではあまり誰もチェックして撮っていなかったようで、結果的に僕が撮ったスナップ的な写真が複数の媒体で使われることになりました。それでどんな時でも気を抜かず、しっかり撮らなきゃと思うようになりました。

――美術撮影で心がけていることはありますか?

カメラマンの個性が作品より前に出てしまわないよう、アノニマス(匿名的)な写真を心がけています。例えば工芸作品の写真には、撮影の「型」とも言うべきスタイルが何となくあります。そのおかげで作品そのものをニュートラルに捉えることができたり、時代が異なるものを並列に比較検討したりすることができる。あるいは、写真家のヴォルフガング・ティルマンスの写真集『Lighter』は、各国のカメラマンによって撮影された彼の展覧会の展示風景を並列的に収録した本なんですが、やはり撮影者の気配はどこにもなくて、ただただ展示空間だけが浮き彫りにされています。

エルネスト・ネト《私たちのいる神殿のはじめの場所、小さな女神から、世界そして生命が芽吹く》2006年 「ガーデンズ展」(2006年、豊田市美術館)展示風景
エルネスト・ネト《私たちのいる神殿のはじめの場所、小さな女神から、世界そして生命が芽吹く》2006年 「ガーデンズ展」(2006年、豊田市美術館)展示風景

――美術撮影をしていてよかったと思うことはありますか?

作家とかかわりながら、仕事ができることですね。制作風景から撮っていると作品のコンセプトの奥深くまで感じることができます。今春、水戸芸術館で行われた「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー―力が生まれるところ」では、素材集めから撮っていたのですが、彼らは現場にあるものやその土地で入手できるものを使って制作し、展覧会が終われば、それをまた別の展覧会でも使っていきます。金沢で展示した一部を水戸へ、水戸で展示した一部を新潟へと循環させていく。それは彼らのライフスタイルにもつながっているし「生と死」「輪廻転生」といったことも感じさせますが、言葉で説明されなくても深く伝わってきます。制作の記録は写真集や図録に載るわけではないのですが、その場にいると撮影せずにはいられないのです。

――そこまで深くかかわると、作品の撮り方も変わりそうですね。

デザインや広告の仕事では、ライティングでものをよりよく見えるようにして撮りますが、美術では作品から発せられる光を長時間露光でつかまえるような気持ちで撮っています。もちろん美術作品でもライティングはするんですけどね(笑)。

「トーマス・デマンド展」(2012年、東京都現代美術館)展示風景
「トーマス・デマンド展」(2012年、東京都現代美術館)展示風景

イェッペ・ハイン《光のパビリオン》2009年 「イェッペ・ハイン 360°」(2011年、金沢21世紀美術館)展示風景 Courtesy Johann ö, Berlin, 303 Gallery, New York and SCAI The Bathhouse, Tokyo
イェッペ・ハイン《光のパビリオン》2009年 「イェッペ・ハイン 360°」(2011年、金沢21世紀美術館)展示風景 Courtesy Johann König, Berlin, 303 Gallery, New York and SCAI The Bathhouse, Tokyo

――今後の美術撮影は、どうなると考えていますか?

僕が4×5インチのポジフィルムで撮影していたころは、展示風景で1日最高30カットくらいしか撮影できませんでした。今だったら、デジタルで2時間もあれば十分100カットくらい撮れます。撮影解像度もデータの容量も増え、それに伴いハードディスクも大きくなり、PCの処理速度も上がって、これからは量の時代になるのではないでしょうか。広報的、学術的を問わず、主観的、客観的を問わず、全体、ディティールを問わず、膨大な量を撮影し、あらゆる条件に特化した写真集や学術的な記録などさまざまな用途に対応可能というのがスタンダードになるんではないでしょうか。

――カメラマンになって、美術撮影を専門としたい方にアドバイスをお願いします。

現代美術ではさまざまな素材が使われるので、商品(物)の撮り方を学んでおくことは有効だと思います。また、身近で美術に真摯に取り組んでいる作家を追いかけて、制作過程や作品を撮ったり、アートに対する姿勢から学んだりするのもいいのではないでしょうか。


インタビュー・文/白坂ゆり

木奥惠三(きおく・けいぞう)

1968年、奈良市生まれ、中学生以降は京都市で育つ。1991年、同志社大学工学部卒業。1991〜94年、ミノルタ株式会社カメラ開発部勤務。1994〜95年、日本写真映像専門学校を経て、福田匡伸氏に師事。1997年独立、東京へ。最近撮影した展覧会に「吉川霊華展 近代にうまれた線の探究者」(東京国立近代美術館)、「アラブ・エクスプレス展 アラブ美術の今を知る」(森美術館)「カルペ・ディエム 花として今日を生きる」(豊田市美術館)などがある。

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