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アートのスペシャリスト
No.008
額装の可能性を広げて、人の心を動かしたい
ジンプラ 代表取締役社長 小宅直樹さん
創業43年の歴史を持つ額縁・額装の老舗「ジンプラ」。世界中から最新デザインの額縁を直接輸入し、岐阜県大垣市にある自社工場で加工、組み立てを行っています。東京・恵比寿のショールームには約600種もの額縁サンプルが展示され、取材した日にもお客様が絶え間なく、専門のスタッフがそれぞれのオーダーに応対していました。代表取締役社長の小宅直樹さんに額装にまつわる仕事についてお聞きすると、額装の仕事に対するイメージが変わるような答えが小気味よく次々と返ってきました。

きっかけよりも、続けることのなかで喜びが生まれる

店頭風景。スタッフは顧客の要望を尊重しながらきめ細かく対応する
店頭風景。スタッフは顧客の要望を尊重しながらきめ細かく対応する

――額縁にかかわる仕事を選んだ経緯を教えてください。

ジンプラは1970年に父が創業した会社で、私と同い年です。実家が店の上にあったので、5、6歳の頃から額縁はおもちゃのような身近な存在でした。店は現在ショールームになっていますが、当時はここで額縁を制作していました。レバーを足で踏み込んで額を切るような人力の機械があったりして、木工屋のような雰囲気。中学生の頃から簡単な額の仕上げを手伝い、高校時代にはバイトで額装していました。大学では法学を学び、他の会社に勤めた後、25歳でジンプラに入社し、2006年に代表を継ぎました。美術を学んだことはありませんが、ほとんど迷うことなく、この仕事に進むものだと思っていましたね。

――スタッフの方々はどのような経緯で入ってくるケースが多いですか?

私の知る限り、最初から美術や額縁に明確な関心があるというよりも、一般的な求人媒体や人からの紹介でこの仕事に就いた方が多いと思います。実際にやってみてからやりがいを見出した人が、長く続けているように思いますね。美を表現することへの関心から作品の見方が培われていったり、お客様とのコミュニケーションを通じて喜びを感じたり、その人なりの価値観や楽しみがあるのだと思います。


完成までのプロセスを重視。意外な提案で顧客の心を動かす

――私は以前、展覧会で壁に無造作に貼られていたドローイングを購入し、ギャラリーを通じて額装していただいたことがあります。作品が映えて、ウキウキしながら壁に掛けました。

かつてはシンプルな、あるいはオーソドックスで無難な額装が好まれていたのですが、今は自分なりのこだわりや要望を持つ方が増えてきています。そのため、その人だけの1点ものの仕様を目指してカスタマイズしていく、ゴールまでのプロセスが重要なんですね。額の構造や仕様の打ち合わせでは、中に入れるマットや布など額以外の素材を含め、イメージしやすいようにサンプルをあてながら決めていきます。価格も含めてマニュアルでは対応しきれないですね。

――では、お店には額に入れたい絵を最初から持参した方がよさそうですね。

iPadも額装してしまう
iPadも額装してしまう

額装に必要なパーツのサイズを正確に把握され、額も決めていらっしゃる場合には、絵がなくても決められますが、実際には「初めての額装で何を選んだらいいのかわからない」というお客様もいれば、イメージはあっても具体的にどうすれば効果的なのかわからないお客様もいて、解決を求めて店にやってきます。そうした多様なニーズに応えるためには、一から額縁をつくりあげていく必要があるのです。作品のサイズもさまざまですし、立体を入れることもあるんですよ。立体の時は、額縁のなかにどのように空間をつくるかも考える必要があります。美術作品だけでなく、ヴィンテージのもののデニムやユニフォーム、ワイン、iPadなど、どんなものでも額装します。

――客層も幅広そうですね。

はい。額を必要とするあらゆる方がお見えになります。アーティスト、美術館やギャラリー、出版社や印刷会社、美術展を主催する新聞社または企画会社、店舗の設計・デザイン関係の方から、既成商品をカタログから選ぶような方法では探し切れず、「ここだったら希望がかなうかも」と駆け込んでくるような個人の方まで、マーケットは広いですね。

――アドバイスするうえで最も大切にしていることは何ですか?

個人で1点ものの場合には、オーソドックスなものよりも個性の際立ったチャレンジングな額装を勧めます。同じデザインで数が必要な場合ももちろんありますが、アートなので、「え、これもあり?」という意外な発見や心の動きが大切だと思うんですね。いい額装をすれば人に見せたい気持ちもさらに湧くでしょうし、写真を撮ってフェイスブックに載せることもあるでしょう。お勧めする時は、一瞬の勝負でだいたい決まりますね。

モールディングの数々。スライドパネルを動かして見ることができる
モールディングの数々。スライドパネルを動かして見ることができる

大使館や外国人のお客様も大勢いらっしゃいますが、彼らは冒険的なサンプルを試すので、私自身がそれに鍛えられた部分もあります。「それを持ってくるとは、やるねぇ」と思わされ、思わせる、緊張感を持った居合抜きのような掛け合いも楽しいものです。ですから、誰も使えないだろうと思われる額も、イタリアやスペインなどからあえて買い付けてきます。ヨーロッパのバイヤーたちは、見本市が終わると、まっさきに私の元に持ってきてくれます。質感がとても好きなので、思わず匂いを嗅いだりもしますし、身体感覚で選び、いいとか悪いとか率直に言い合うので、数年の間に変わり種たちが何百種と揃いました。

――多種多様なモールディング(額縁の棹)がありますね。

「銀鏡反応」という化学変化で額の表面に純銀を析出させたもの、布やレザーのような質感をもったもの、陶器のような「滑り」のあるもの、細密な彫刻に下地を施し箔で仕上げたものなど、他店にはないようなものばかりです。高度な加工を施した形、「一口に赤といってもこの赤は他にない」など、眺めるだけでも楽しいと思いますよ。


額縁の可能性を広げるヒントは異業種にある

――どこに掛けるか、空間との相性も考慮に入れますか?

掛ける環境に縛られるよりも、その作品にふさわしくぴったりとはまれば、どこにでも展示可能だと思います。作品を将来入れ替えるかもしれませんし……。今や額縁は作品を入れるだけでなく、その用途も多様性を増しているんですよ。ある宝飾店では、小さな額を指輪の台座として使っていますし、チャペルの壁をモールディングで埋め尽くして装飾した例もあります。デザイナーズマンションのエントランスで窓越しに見える敷地内の景色を借景としてフレーミングするなど、空間全体での使われ方も広がっているんです。額縁を使って表現する、装飾すると考えると可能性がたくさんあるんです。アートの遺伝子をもった額縁を生活に取り入れることによってライフスタイルを豊かにする。額装それ自体だけでなく、美のある生活文化を提案する意識で仕事をしています。

――この仕事に就きたい人にアドバイスをお願いします。

実際に活動している、フロントランナーのような人たちと接する機会をつくること。僕の場合は、デザインにおいても用途においても想像を超える多様性を示してくれたのは、商業施設関係のデザイナーなど異業種の方や、鋭い感覚を持った個人の方々でした。相談を求めながら持ち込まれた新しいアイデアに触発されたり啓蒙されたり、一緒に考えながら、額縁の埋もれていた可能性を社会に送り出してきました。アーティストやギャラリーだけとお付き合いしていたら、平面の要素でしか額縁をとらえなかったかもしれないですね。地元の恵比寿はもちろん、出張先の地方のデパートや美容院、レストランでジンプラの額縁を見かけるとうれしいものですよ。

額縁屋が本来なら自分たちで考えて提案すべきだったのですが、お客様の発想やお力をいただいて額装の第二局面を迎えたと思います。お客様が額装について考える過程や時間は、仕上がりに対する期待感も含めて作品に対する思い入れの塊のようなもの。アーティストの制作と似た要素もあるのではないでしょうか。額縁を通じて広い世界に接することもできると思います。


インタビュー・文/白坂ゆり

小宅直樹(おやけ・なおき)

1991年、慶應義塾大学法学部卒業。1993年、株式会社ジンプラ入社。2006年、代表取締役に就任。
http://www.jinpra.co.jp/

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