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東京ステージ
No.004
持ちつ持たれつの関係がある街
『パンとスープとネコ日和』 映画監督 松本佳奈さん
WOWOWドラマ・プロジェクト「連続ドラマW」で、群ようこ原作/小林聡美主演の『パンとスープとネコ日和』が7月21日よりスタートします。ロケ地である東急世田谷線松陰神社前駅の商店街での撮影エピソードなどを、下町育ちの監督、松本佳奈さんにお聞きしました。併せて、2011年に公開された映画『東京オアシス』の舞台の一つとなった「目黒シネマ」など、少なくなりつつある単館映画館についてもお話しいただきました。
WOWOW 連続ドラマW『パンとスープとネコ日和』。7月21日より毎週日曜夜10:00〜(全4話。初回は無料放送)
http://www.wowow.co.jp/dramaw/pantosoup/

 近くの人と密に関わってみると、新たなその人が見える

――群ようこさんの小説をドラマ化されますが、どんなストーリーになるか教えてください。

小林聡美さん演じる主人公のアキコが、ずっと二人暮らしだった母を突然亡くし、勤めていた出版社では理不尽な異動を言い渡され、考えた挙げ句、母が営んでいた小さな食堂を継いで自分のやりたい店を始める物語です。母が営んでいたのは、昼は定食、夜はお酒が呑める庶民的なお店でしたが、アキコは、パンとスープだけを出すシンプルな店にします。編集者時代は忙しくて近所の人たちと話すこともなかったのですが、母の店を愛し、アキコを子どもの頃から知っている近所の人たちと関わりを持つうちに、母の意外な一面を知る。母と自分はまったく違う人間だと思っていたけれど、似たところがあったのかもしれないなどと気づいていきます。

――原作では、母に対する反発心が鋭く描かれていましたが、ドラマでは人間関係が変わりそうですね。

原作のアキコは、商店街の人々とは一線を引いて、客観的に語っていて、それも辛辣で面白いのですが、ドラマでは、母の店の常連客だった花屋のヤマダさん(光石研)、駄菓子屋のスダさん(塩見三省)という新しいキャラクターを立てて、商店街の人たちと以前よりも密接に関わるなかで、周りの人々を見つめ直すような物語になります。「この人とは価値観が違う」からと敵対するのではなく、「この人はこんなふうに考えるんだな」と思う。例えば、もたいまさこさん演じる喫茶店のママは歯に衣着せぬ、強烈な人柄なのですが、それがやさしさからくるものだと気づく。脚本はチームで話し合いながら、キャストも同時に考えていくうちに、登場する人々それぞれのキャラクターが広がっていった感じですね。もちろん原作同様、ネコのたろちゃんも登場しますよ。

――撮影は、東京のどの辺りで行なったのですか?

ドラマの舞台は匿名なんですが、ロケ地は東急世田谷線の松陰神社前駅にある商店街の一角です。実際に営業している店をお借りして、地元の方にご協力いただいて1か月ほど撮影しました。ずっと昔からやっているような個人商店もあれば、新しいお店もあって、異なる世代が共存している街でした。散歩しているおじいちゃん、おばあちゃん、20〜30代の人も同じくらいいて、のんびりしていて、街に明るさがあるんですよね。通りすがりの親子連れの方に出演していただいたこともありました。

――ドラマの設定というだけではなく、実際に人情味と活気のある街なんですね。

はい。お客さんとの交流がちゃんとある個人商店が今も残る商店街がなかなか見つからなかったのですが、松陰神社は貴重な街だと思います。

左から喫茶店ハッピーのママ(もたいまさこ)、ヤマダ(光石研)、スダ(塩見三省)

左から喫茶店ハッピーのママ(もたいまさこ)、ヤマダ(光石研)、スダ(塩見三省)

左から喫茶店ハッピーのママ(もたいまさこ)、ヤマダ(光石研)、スダ(塩見三省)

左から喫茶店ハッピーのママ(もたいまさこ)、ヤマダ(光石研)、スダ(塩見三省)

 ぽけーっと、気持ちいいなという場所で、新しい気持ちに

「東京オアシス」 2011年 発売元:バップ 本編83分+特典映像47分 セル/レンタル
「東京オアシス」 2011年 発売元:バップ 本編83分+特典映像47分 セル/レンタル
http://www.vap.co.jp/tokyo-oasis-movie/

――2011年に公開された映画『東京オアシス』のロケ地のお話もしていただけますか?

脚本を3人で、監督は海の話を中村佳代さん、映画館と動物園の話を私が監督しました。動物園は都内では撮影許可をいただけなくて、千葉市動物公園なんです。映画館は目黒シネマですね。

――シネコンが増え、昔馴染みの単館映画館が次々と閉館していますが、目黒シネマも数少ない単館の名画座ですね。ここを選んだ理由は?

原田知世さん演じるキクチが、「自分は、人について何もわかってなかったんじゃないか」と脚本家を辞めて、どんな映画館で働くか考えたときに、こじんまりしたところだろうなと思いまして。目黒シネマは静かでいてほっとするような雰囲気もあっていいですね。二番館(名画座)って、お客さんがふらっと一人で見に来て、終わるとすっと帰っていったりするんですけど、ドライな感じがしない不思議な空間ですよね。

――もたいまさこさん演じるお客さんの姿に、映画と人とのつきあい方、誰のための映画かを思わされました。小林聡美さん演じる主人公のトウコが歩いているシーンも印象的です。

「東京オアシス」でも、脚本をチームで話し合いながらつくっているのですが、散歩好きな人が集まっているんじゃないかな。大きな樹のある道は、プロデューサーの好きな道ですね。ぽけーっと、気持ちいいなという場所で、わだかまっていた気持ちが抜けて、もっといいことが思いついたりしますよね。毎日通っている道は、近道かどうかに関係なく、自分の好きな道を選んで歩いている気がする。そういう体験がもとになっています。

――丸の内を歩いていくラストシーンでは、空も記憶に残りますね。

最後に街の中を歩いていくシーンを入れたくて。いろいろ見ましたが、あの場所は、大きなビルが建ち並びつつも、どーんと大通りが抜けていて、向こうを電車が走っていて、清々しい道だったんですよね。仕事から逃げていた主人公のトウコが新しいところに向けて歩いて行くような。街のすきまから見る空なんですけど、広い感じもして。はっきりした気持ちを描いているわけではなくて、大きな街の中を歩いていく小さな後ろ姿に、見た人がそれぞれに何かを感じてくれればいいなと思っています。

映画館でのキクチ(原田知世)とトウコ(小林聡美)
映画館でのキクチ(原田知世)とトウコ(小林聡美)

トウコが通り抜ける、大きな木のある道
トウコが通り抜ける、大きな木のある道

 ふらっと立ち寄れる場所。同じ空間で同じものを見る

――松本監督のお好きな映画館はどこですか?

時間ができたときによく行くのは、飯田橋のギンレイホールですね。見ようと思っていたものがかかっていなくても、今日映画を見るぞみたいな感じじゃなく、ふらっと入れるのがいいなと思います。私は一人で行くことが多くて、おじいさんが一人で見に来ているような映画館の方が落ち着きます。神保町の岩波ホールも好きで、普段は同じ空間に居合わせないような人たちと、同じ空間で同じものを見ている状況が面白いです。

――居合わせた見知らぬ人たちが、その時間、スクリーンの向こう側の世界に出かけている感じがいいですね。

今はパソコンで映画を見ることも多いですし、2時間を一つのものに注ぐような体験自体が少なくなっている気がしますね。映像をいろんな場所で見られるけれど、映画に集中して見るということは減ってきているんじゃないかと。そういう意味でも映画館で映画を見ることは貴重だなと思います。

――松本監督は東京のご出身ですか?

板橋区の下町で育ち、実家が銭湯だったんですけど今はもうやめてしまって。向かいが魚屋、こっちが八百屋で、こっちが花屋と床屋みたいな下町の一角で育ちました。昔は駅から少し遠くてもお店が並んでいたものですが、もう今は床屋しか残ってないですね。子どもの頃から、人と人とが持ちつ持たれつ暮らしている情景を見て育ちました。自分があまり知らないおっちゃんが、夜中に「おう!」なんて家に入ってくることがあっても、「ああ、おじいちゃんの友達か」なんて安心して(笑)。そういうのも楽しかった。今も、形は違っても、人と人との付き合い方は変わらないでいたいと思いますね。

インタビュー・文/白坂ゆり

松本佳奈(まつもと・かな)

2010年、映画『マザーウォーター』で監督としてデビュー。『マザーウォーター』は『かもめ食堂』『めがね』『プール』に続く、人と場所の関係性をテーマに製作されてきた映画プロジェクト第4弾で、京都が舞台。監督の実家での経験も活かされた銭湯のシーンも登場する。2011年、『東京オアシス』で中村佳代とともに監督、脚本を手がける。パラダイス・カフェ所属。
http://paradisecafe.co.jp/

松本佳奈

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