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東京ステージ
No.005
80年代、バブルの周縁にあった東京を映画で再現
『横道世之介』美術監督 安宅紀史さん
吉田修一の小説を沖田修一監督が映画化。2013年2月に公開され、ロングランヒットとなった映画『横道世之介』のBlu-ray&DVDが8月7日にリリースされました。長崎から上京した青年、横道世之介(高良健吾)と、お嬢様育ちのガールフレンド、与謝野祥子(吉高由里子)や友人たちとの青春時代を描いた本作の美術監督、安宅紀史さんに、舞台となった「80年代の東京」をどのようにつくりあげたのかお話しいただきました。
『横道世之介』Blu-ray & DVD 8月7日発売 (本編160分+特典4分)※Blu-rayスペシャル版は2014年2月28日まで期間限定生産 (本編BD164分+特典DVD63分)バンダイビジュアル
http://www.bandaivisual.co.jp/yonosuke/
(c) 2013『横道世之介』製作実行員会

 ファンタジーにもリアルにもなりすぎない「80年代、東京」

1987年の新宿駅東口を再現。看板、横断歩道、電車の車両などをCGで合成
1987年の新宿駅東口を再現。看板、横断歩道、電車の車両などをCGで合成

――美術監督とはどのような仕事か教えてください。

被写体となる映画空間をデザインし、装飾や持ち道具(役者が使う時計や靴などの小道具)など衣装以外の画面に映るすべてのものを考えて担当に手配し、つくりあげる仕事です。例えば、主人公の住んでいる部屋はどんな部屋で、どんなものが置いてあるかなどすべてディレクションしています。

――『横道世之介』の時代設定は、1987〜88年と16年後の2003年ですね。「80年代の東京」のシーンは、どのように製作されたのでしょうか?

その時代の風景や建築などを調べて、当時の描写として適切か時代考証を行い、オールロケで撮影されています。BSアンテナはまだあまり普及していないですし、信号機や横断歩道の線の引き方も変化しているので、時代的に間違ったものが映り込まないよう配慮が必要です。
同じ時代でも監督によって目指すイメージやトーンが違うので、沖田監督と話し合いながら、どういうテイストでつくればどういう時代感が出せるかを考えていきました。脚本を読んで普遍的な世界を感じたので、時代を象徴する記号的なものを出しすぎないようにしています。
また、これは僕の印象ですが、世之介というキャラクターが、周りの人々が思い起こすなかでつくられた「いるようでいない」人物像に感じられたので、ファンタジーにもリアルにもなり過ぎないようなバランスに気をつけましたね。

1987年の下北沢駅をイメージした架空の駅のスケッチとセット製作風景。右の写真、手前が沖田修一監督

1987年の下北沢駅をイメージした架空の駅のスケッチとセット製作風景。右の写真、手前が沖田修一監督

1987年の下北沢駅をイメージした架空の駅のスケッチとセット製作風景。右の写真、手前が沖田修一監督

――ダブルデートに祥子が高級車でやってくる駅前は、どのように製作されたのですか?

原作にある下北沢駅は当時とまったく違い、加工や人通りの多いなかでのセット撮影が難しそうでした。ある時代の東京を懐かしむことが趣旨ではないから、リサーチしたことを要所に入れつつ「東京の若者が集う街」が表現できればいいんじゃないかと、菊名駅周辺にオープンセットを組んだのです。

――看板のポスターなど、見たことがあるような気がします。

意識せずに見ていても時代が感じられるよう、実在のものを許可を得てデザインを多少変え、架空のものと混ぜています。80年代後半の広告はデジタルデザインが主流ではなく、手描きのレタリングから起こしているフォントも多いので、実作業ではデジタルでデザインしますが、できるだけ既成のフォントは使わずに雰囲気を出そうとしています。

 人物像を醸し出す学生たちのアパート

川上清志の学生寮の部屋。本棚に注目
川上清志の学生寮の部屋。本棚に注目

――アパートの部屋は、同じ学生でも人物によって違いますね。

川上清志(黒田大輔)の学生寮の部屋と、加藤雄介(綾野剛)の部屋を対比させ、その中庸を世之介の部屋と考えました。何を読んでいるか、キャラクターに沿った本も揃えています。清志は、寮の全共闘の先輩の影響でポストモダンの本を上っ面だけ読んでいるイメージで、日本の本だけ。片や、加藤の本棚には原書も入れています。加藤の部屋には、ホックニー、ベーコン、メイプルソープとゲイのアーティストの作品を飾りました。そのほか、装飾担当の山本直輝君が、清志の書きかけの小説を机周りに置いたり、失恋して酔っ払って書いたというロラン・バルトの『恋愛のディスクール』の一篇を壁に貼ったり(笑)。お菓子のパッケージも、当時のデータを入手してつくっています。引き出しの中にどんな物が入っているかなど、画面に写らないところも役者の芝居に影響するので大切です。

世之介の部屋。右は、祥子とのクリスマス・パーティーのシーン。壁には80年代を象徴するイラストレーター、鈴木英人のポスター

世之介の部屋。右は、祥子とのクリスマス・パーティーのシーン。壁には80年代を象徴するイラストレーター、鈴木英人のポスター

世之介の部屋。右は、祥子とのクリスマス・パーティーのシーン。壁には80年代を象徴するイラストレーター、鈴木英人のポスター

――世之介の場合は、上京したばかりの何もない部屋から始まり、少しずつものが置かれていきますね。

時間経過を表しています。ものにはあまり固執しないタイプのようなので、実家から送られてきたものや拾ってきたような椅子、友達から借りて読まずに置いている本など、あまり統一感のない部屋にして、「余白」をつくるようにしました。サンバサークルにも特に熱中しているわけでなく、カメラマンになるまでは、何者でもなく何者にもなりえるような自由さが、部屋でも表現できればと。

――ものの色や配置も考えられていますよね。

70年代以前ではグレーやブルーの中にアクセントで黒や赤が入ることが多いのですが、80年代は原色のようなものを使い始めて、今ほど配色が洗練されていない時代。イケてないけど一生懸命でアンバランスな感じが全体に出せればと思いました。欧米のポップアートをまねて失敗しているような(笑)。洗練に至る前の過渡期、途中の感じ。成長していく世之介のキャラクターとも通じるかなとも思いました。

世之介のサンバシーンと、もとになっている図面

世之介のサンバシーンと、もとになっている図面

世之介のサンバシーンと、もとになっている図面

 同じ時代でも、映画ごとに違う風景をつくりたい

――映画のなかの東京風景で思い出す作品はありますか?

クレイジーキャッツの映画に出てくる「銀座」のイメージですかね。実際に見た風景ではないのですが、バーやキャバレーのセットとか、つくりものめいた感じに惹かれます。美術を担当した映画では、黒沢清監督の『叫』。バブルが崩壊した後の、中心から外れた、僕自身が思う東京に近いです。

――映画のなかに時代時代の風景を残すときに、大切にしていることはありますか?

美術監督の木村威夫さんの生前に助手を務めたとき、木村さんのスケッチをもとに図面を起こしていて「初めて描いたような一生懸命さが出ていて、いいね」と言われたことがありました。それから、前にやった経験値をあてにせず、作品ごとにゼロから始めて違う風景をつくれるようにと思っています。

インタビュー・文/白坂ゆり

安宅紀史(あたか・のりふみ)

1971年、石川県出身。「月光の囁き」(99、塩田明彦監督)にて美術監督としてデビュー。主な作品に『ピストルオペラ』(01、鈴木清順監督。木村威夫美術監督の下、美術として)、『父と暮らせば』(04、黒木和雄監督)、『叫』(06、黒沢清監督)、『乱暴と待機』(10、冨永昌敬監督)、『ノルウェイの森』(10、トラン・アン・ユン監督)、『マイ・バック・ページ』(11、山下敦弘監督)『苦役列車』(12、山下敦弘監督)、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12、熊切和嘉監督)など。沖田修一監督作品は『南極料理人』(09)、『キツツキと雨』(12)に続いての参加。8月31日より『夏の終り』(熊切和嘉監督)が全国公開。
http://natsu-owari.com/

安宅紀史(あたか・のりふみ)

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