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東京ステージ
No.007
「途中の人」が渦巻く景色
『東京百景』 お笑い芸人 又吉直樹さん
お笑い界きっての読書家で、多数の執筆でも活躍中のピースの又吉直樹さんが、18歳から32歳になった最近まで、東京での思い出を折々の風景に委ねて綴った『東京百景』。敬愛する太宰治著『東京八景』にちなんで名づけられた本書には、三鷹下連雀二丁目のアパート、神田神保町古書店街、ルミネtheよしもとなど、さまざまな場所が登場します。観光名所とも異なる又吉さんの東京風景についてお聞きしました。
『東京百景』(ヨシモトブックス)

 三鷹の太宰治、古い木造アパートの音の記憶

『東京百景』扉より。三鷹にて撮影
『東京百景』扉より。三鷹にて。撮影/田代一倫

――大阪から上京して最初に住んだのが三鷹。又吉さんが住んでいたアパートが、太宰治の住居跡に建ったものだったそうですね。

その日の夜行バスで大阪に帰らなければいけないという日に、渋谷の不動産屋で紹介してもらったので偶然で、後から知ったんです。太宰が行った店も残っていて、三鷹を通して、太宰って昔の人やないんやなと思いました。

――街の印象はどうでしたか?

通りに全部名前が付いているのが印象的で。学生時代から本を読むのが好きだったので、毎日5軒くらいすべての古本屋を回っていました。お金がないですから店内で本を眺めて、3冊200円みたいな店頭の棚で近代文学の作家の名前を見つけたら必ず買っていましたね。同じ本でも少しでも安い店でとか、下巻だけ買っておいて上巻が安く入るのを待つとかしていました。

――経済的な理由だけでなく、好きで古いアパートを選んでいる節もありますね?

自分が育った環境に近いと居心地がいいですから。今はマンションに住んでいますけど、作業場としてアパートも借りています。実家が、隣のテレビの音や、階段を上る音で誰が帰ってきたかわかるような壁の薄い文化住宅で。ブレーカーが落ちてしまうからエアコンは家で1台。ボットン便所で季節を感じた(笑)人間だから、マンションの密閉空間で音が聞こえない、夏なのにそこまで暑くないとかに違和感があって。古いアパートは、自分が一番フラットな状態でものを考えるのに必要だからで、回顧主義ではないんですよ。

――高円寺のアパートで、2階に住む中国人の女性が、恋人らしき男性に「誰モ私ノコトワカッテクレナイ!」と怒りをぶつける声を聞いたエピソードが効いていますね。毎朝6時に出勤する音を聞いている又吉さんは「俺は解ってるで、頑張り屋さんやもんな」と思う。でも彼女がアパートを出ていくときに、又吉さんの傘を持って行ってしまう……。

それが現実ですよね(笑)。でも怒りはなくて、大事な男を雨に濡らさんためなら平気で人のものを盗むなんてむしろ美しいとすら思うんです。そのまっすぐな感情が。

 華やかな人の100倍くらい、その途中の人がいる

――井の頭公園に寝ている半裸の老人、怪しい外国人宣教師など、いろいろな人のいる風景を見ていますね。

やることがなくて井の頭公園でぼーっとしている人間にしか目に留まらないだけで、どこにでもそんな人はいるんですよね。ヘンな人らのなかにヘンな奴としておっただけで、僕の見方が変わっているということでもないんですよ。

――それが普段の東京ですね。

テレビからは主に成功者やちゃんと仕事されている人の情報が入ってきますが、実際にはその100倍くらい、華々しい場所を目指す「途中の人」がいる。今も途中だし、ずっと途中でしかないけれど。

――養成所や劇場のある赤坂や新宿には、どんな思いがありますか?

あまりいい思い出はないですね。上京して知り合いもおらん、バイトの面接をしても受からん、受け入れられていない怖さと、治安の悪さや暴力的な怖さがあって、赤坂でいったら山王日枝神社しか安らげる場所はなかったですね。今は劇場が比較的居やすい場所になりましたけど。

――そんな不安な時期も、芸人仲間と通行人の魂を吸う遊びを思いつくなど、想像力で乗り切っているように見えます。そうした発想の転換力が、化物や妖怪のキャラクター、常識からちょっとずれたコントを生んでいるのでしょうか?

ヒマやったから、お金のかからない遊びを考えていただけで。妖怪などのキャラクターは、日の当たらない場所で生活してきたことがもとになっています。それが僕自身というわけではないですけどね。

又吉さんが撮影した章扉の写真より
又吉さんが撮影した章扉の写真より

又吉さんが撮影した章扉の写真より

 太宰に学べ。悲しいことは同時に面白い

『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)
『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)

――又吉さんが自由律俳句と出会った『尾崎放哉全句集』をはじめ、太宰の『人間失格』『ヴィヨンの妻』など47冊の本を紹介した『第2図書係補佐』では、批評でも解説でもなく、自分のエピソードから入っていますね。

ライブ会場に置くフリーペーパーに書いていたもので、あまり本を読まない若い人にもまずはその小説本を手に取ってもらえるよう、僕とお客さんが共有できる言葉を使っています。こういう腹立つこと、面白いことありますよね、その感覚がわかっていただけるなら、この小説はその結晶ですという流れをつくるようにして書いています。僕自身は小説好きだから、難解な解説もむしろ理解できるよう努力したいと思っていますが。

――太宰治は暗いと思われがちですが、自意識をユーモアに変えているという読み方をされていますね。

悲しいことや寂しいことや孤独というものは、それと同時に面白いことでもあると思っているんです。僕が中学生のとき、好きな娘とやっと二人で遊べて、告白しようと思ったときに「今日私と遊んだこと、絶対誰にも言わんといてな」と言われて(笑)。当時の僕には悲しくて残酷な話だけど、今は笑ってもらえた方が楽で、「ひどい人ですね」と同情されたらやりきれない。太宰には「切ないな」とか「キッツいなー」とか思いながらも思わず笑ってしまう箇所がいっぱいある一方で、めちゃめちゃ刺さることもあり、両面あるから共感できるんですよね。

 思春期のヒリヒリ感が甦る街、原宿

――神保町にもよく行かれていますよね?

近代文学専門の八木書店、小宮山書店、けやき書店には必ず。喋りや映像でもいいものではなく、文章でしか表現できない「書く」必然性のある作家が好きです。

――これから東京に来る人におすすめの街はどこですか?

若者ならやはり原宿。みんなが本気出していて、言い訳がないから。ほんまもんの自意識がえげつないことになって「自分が最強におしゃれだ」と誰もが思っている。大人には「イタイ」と見えるかもしれないし、僕自身も下北沢や高円寺くらい力が抜けている方が楽ですけど、それは成長じゃないですから。「思春期の頃、はしかのように太宰を読んだよ」と言われる方も、純粋に恋や愛について思った当時の気持ちを忘れて、人間に絶望していくうちに痛みを感じなくなったということやないかと。同様に、悟りなんて僕には恥ずかしい行為で、中高生くらいのヒリヒリ感を持っていたい。見た目は誰よりも老け込んでもうてるのが悲しいんですけど(笑)。

インタビュー・文/白坂ゆり

又吉直樹(またよし・なおき)

1980年、大阪生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。お笑いコンビ「ピース」として活躍中。「キング オブ コント2010」準優勝。舞台の脚本も手がける。著書に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(以上、せきしろとの共著による自由律俳句集、幻冬舎)、『鈴虫炒飯』(新・四字熟語集、字=書道家・田中象雨、幻冬舎)、『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)がある。

又吉直樹(またよし・なおき)

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