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トーキョー・アートビジョン
No.021 造形の喜びを見つけ出し、形にする
語り手:アーティスト 西尾康之(にしおやすゆき)氏

《素粒の鎧》1997年 「ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション」出展作品。
《素粒の鎧》1997年 「ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション」出展作品。
独自の制作手法「陰刻鋳造」でさまざまな立体作品をつくり上げている、西尾康之さん。個性豊かな作品には、見る者を圧倒する力があります。今年2008年10月には、初の作品集『西尾康之 健康優良児』が刊行。札幌芸術の森美術館で現在開催中の展覧会「ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション」(2009年5月、上野の森美術館に巡回予定)では、その作品を鑑賞することができます。また、2009年1月から個展もスタート。いままさに個展用の作品をつくられているという西尾さんに、創作と表現についてお話しを伺いました。

偶然から生まれた陰刻鋳造と、モチーフの変遷
《ガス》2003年
《ガス》2003年

 これまで立体、平面といろいろな手法で作品を制作していますが、大学では彫刻科に在籍していました。いまは改革されているのでしょうが、当時は、いわゆる人体塑像が基本で、授業の大半が投じられます。でも、これがとても窮屈で。先陣が構築した美学を取得してゆく、鍛錬というか、彫刻道というか、悪くいえばプラモデルをつくっているような、造形快楽はあるんだけど、芸術家というにはポテンシャルの低い作業。本来、なるべく独自の方法でやった方が表現取得が楽なんですけどね。僕の場合、指で押してくぼみをつくった「型」に石膏やコンクリートを流し込み、「型」を抜き取るような手法を取っています。陰刻鋳造と呼んでいますが、これは在学中のストレスの中、偶然に発見したものでした。

 大学時代、つくりたいと思うものは大量にあって、アイディアを書き出すだけでエスキース帳が1日に1冊なくなるほどでした。しかし、それらを作品にする方法論が無い。そんな折、校外で借りていたアトリエでタバコを吸っていたんです。ところがその日は、灰皿が手元になかった。そこで、灰皿代わりになるものをつくってしまおうと、近くにあった粘土に指で跡をつけ、灰皿の型をつくり友人に石膏を流してもらいました。硬化後、粘土をはずすと灰皿ができあがっていたんですが、「これだ!」と。指跡だけで構成された変な物体を前に驚喜して、その美術的ファクターをノートに書き連ねていきました。そしてたちまちノート一冊書き終えて、生涯の造形テーマの全てを解決した気になるのでした。

 当時、椹木野衣さんが『シミュレーショニズム』という本を出していました。僕がやろうとしていたのは、まさしくその本にあるようなことで、陰刻鋳造という手法を使えば、世の中のもの全てをこの手法でつくり変えることができ、それら全てが僕の作品になると思っていました。大仏、寺院、蒸気機関車、周囲にあるカッコイイと思うもの全部、僕の指でつくり変えてやろう、と形にしていきました。だけど、なかなか人体像がつくれない。最後の砦というか、人体というのは僕が反抗していたアカデミズムの牙城ですね。「正しい彫刻」に切り込む勇気がなかなか無かった。そして外堀を十分に埋めて、勇気を出して取り組んでみると逆に虜となって、それから多くの人体をつくることになりました。

《ミンスク》2004年 旧ソビエトの軍艦を模した本作は、5メートルを超える。
《ミンスク》2004年 旧ソビエトの軍艦を模した本作は、5メートルを超える。
「トランスフォーム-変態-」展示風景 2004年 変身願望の塊という等身大サイズの昆虫。
「トランスフォーム-変態-」展示風景 2004年 変身願望の塊という等身大サイズの昆虫。

個展のテーマは、時間の克服

 1月から山本現代で個展をするのですが、今回のテーマは、「時間の克服」です。命が抜けた肉体は、腐敗の手続きを突き進んでいきます。いかに美しい生き物であっても瞬く間に分解されてしまいます。その時間を止める願望のため、作家の持つすべての造形ノウハウを注ぎ込みました。

 美しい生き物の屍体として、“魚のエラを取得した架空の人体”がモチーフとなっていますが、人魚を僕の手の中から生み出すことは、重要な欲望のひとつでした。僕は幼少時、海でおぼれました。息のできない水中で最後に頭をよぎった生存可能性の希望は、魚のエラを付けること。その時点でそんなものは僕の体に付いていないわけで、秒単位の危機の中、進化を繰り返して何万年かかるやら。瞬時に絶望となるわけですが、生還してからもその時間の彼方にあるすっとんきょうな希望が頭に焼き付いてしまいました。

 新作の人魚たちは、希望解決の進化の途上にあって死んでいて、時間的絶望に屈しています。しかし、腐敗という激しい化学変化を起こしつつも、その時間は停止しているように見える。それが造形物というフェイクである故ですが、なるべくそう見えるよう僕の造形力を駆使していく。時間停止と見えるようになればなるほど、理不尽な摂理に対しての反撃となるような気持ちがあるのです。個展で発表する作品は春にインドネシアの展覧会に出品したものと、その連作で、日本で初めて発表します。一見不気味な作品ですが、じっくりとご覧いただければ幸いです。


information
作品集『西尾康之 健康優良児』(Akio Nagasawa Publishing)
作品集『西尾康之 健康優良児』(Akio Nagasawa Publishing)
西尾康之個展「DROWN」

会期: 2009年1月10日(土)〜2月7日(土)
開廊: 11:00〜19:00(火・水・木・土)
  11:00〜20:00(金)
休廊: 日・月・祝日
会場: 山本現代(東京都港区白金3-1-15-3F)

インタビュー・文/藤田千彩
画像/
全て陰刻鋳造によってつくられた作品。
photo: 木奥恵三 (c)西尾康之 Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

次回は…
引き続き西尾康之さんに、“人生の岐路にターンしない生き方”についてお話しいただきます。[1月15日(木)アップ予定]

 
西尾康之 写真
 
西尾康之
(にしおやすゆき)

1967年、東京生まれ。1991年、武蔵野美術大学彫刻科卒業。1999年、キリンコンテンポラリー・アワード奨励賞。2000年、岡本太郎美術大賞入選。2002年、GEISAI#1金賞受賞。粘土を指で押しつけたくぼみに石膏などを流し込み、型を抜き取る独自の手法、陰刻鋳造によってさまざまな立体作品を制作。2005年に開催された「GUNDAM」展では、6メートルの大作《Crash セイラ・マス》を発表。〈ジャイアンティス〉シリーズ、〈幽霊〉シリーズなどの絵画作品も手がけている。主なグループ展に、2004年「六本木クロッシング2004」(森美術館)、2006年「ライフ」(水戸芸術館現代美術ギャラリー)、2008年「来た!!ジャパニーズ・アーティスト・ミーツ・インドネシア」(ジョグジャカルタ)などがある。2009年1月からの個展は、3年ぶりの開催となる。

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