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トーキョー・アートビジョン
No.023 全ての創作物はただそれが表現されている
漫画家 長尾謙一郎(ながおけんいちろう)氏

掲載画像全て(c)長尾謙一郎 『ギャラクシー銀座』(小学館)より
掲載画像全て(c)長尾謙一郎 『ギャラクシー銀座』(小学館)より
『おしゃれ手帖』など、ギャグ漫画で知られる長尾謙一郎さんの作品『ギャラクシー銀座』は、今年1月まで「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載されていた漫画です。主人公は、引きこもりのロッカー。時代の空気を象徴するような、暗い画面に叩きつけられる強烈なメッセージ。イメージの断片が突然再生されては、急に切り替わる映像のようなストーリー。カオスの中で各話がつながっていくといった展開に「何だ、この漫画は?」と思ってしまう方も少なくないはず。しかしその斬新な表現は、ファンだけでなくクリエーターからも注目されています。今回は、最終話を描き終えたばかりの長尾謙一郎さんをインタビュー。『ギャラクシー銀座』という1本の漫画の創作方法について、お話しいただきました。

漫画のテーマは、愛

 前作の『おしゃれ手帖』は当初、とことんバカバカしいものを探求したんですけど、後半に突然断層が現れて、人間の無意識の底にあるドロドロをドッと紙の上に出してしまった。よくわからないんだけど、体がそれをやらないと許してくれなくて、作家スタイルを豹変せざるをえないことになってしまったんです。だんだん漫画で表現しきれないドロドロが体に沈殿してきて、これでいいのかなと思いながらも描き続けていたある日、象徴的な夢を見ていて。ホテルの一室で電話をとったら「本当にこの電話でいいんですか?」と言われて目が覚めた。どういう意味かさっぱりわからなかったんだけど、後になってアクセスの相手を間違えていたのかなあと。下からネガティヴィティみたいなものを汲み上げて漫画にするという方法が、明らかに違うと気づいたんです。それで、次はもっと崇高なものにアプローチしようと描き始めたのが、『ギャラクシー銀座』です。

 最初の担当編集者も自分も、今までの漫画と違うことをやってやろうとするような、世の中の潮流を完全に逸脱することしか考えないタイプで。いろいろ打ち合わせをする中、その編集者が「愛とかそういうものが一番嫌い。私エコカーに乗ってます! みたいなの嫌だよね」って言っていたんです。まあ、わかるなあと思った。でも、それはみんな言ってるとハッとした。じゃ、逆に愛をやろうと。愛がテーマの漫画。大爆笑。編集者は「エッ?」と思っていたかもしれないけど、出したネームは反対の愛。キレイなもの、世に罷り通っている聖なるものだけが愛じゃない。例えば、息子に対する歪んだ母の狂気の愛、女の身勝手な愛とか…まあ、ひどい目に遭うという愛とかね。

竹ちゃん(主人公。真夜中にギグと称したイタズラ電話を繰り返す引きこもりのロッカー)
竹ちゃん(主人公。真夜中にギグと称したイタズラ電話を繰り返す引きこもりのロッカー)

自分が描いているという感覚がない

 これが自分の創作スタイルだって思っていたのは、『おしゃれ手帖』がそうだったんですが、何にもわからず、とにかく暗闇にグッと飛び込んでって、そこからインスピレーションで描いていくという方法。でも『ギャラクシー銀座』は、最初から結末が出ていた。紙ぺら5枚の原作があるんです。これは、瞬間的にできた。書き終えて、思わず感動して泣いちゃった(笑)。でもこの時点では、書き出した展開が本当にそうなのか、それで合っているのかわからない。紙ぺらの箇条書きから具体的なものは何も出てこない。パっと一瞬ビジョンが出てくることはありますが、よくわからない形でしか出てこなくて。断片断片で、それがどういう意味なのかさっぱりわからない。けど、あれこれ解釈してみると解ってくる。探偵みたいなもんです。

 編集者がよく言うのは、(※頭の上のスペースを指して、創作の核は)この辺にあるんですか? って。まあそんな感じです。もう自分がないんですよ、多分。自分がなくなってしまったの。100%自分でしかないけれど、自我ではない。だから、原作をそのまま漫画として表現できるわけはなくて。例えば「竹やぶに入ると、何かがあることに気がつく」って書いてあったとしても、ドラマにならない。それを自我の部分で演出しなきゃいけない。どうやって気づかせるか、その表現はロジックになってくるんですね。そのロジックの部分は最初からあったんですかって言われたら、ない。じゃあ最初から考えてなかったんですかって言われたら、そうですねという言い方もできるし、最初からわかっていたけど演出できなかった。それだけです。

マミー(竹ちゃんの母。合唱サークル「かすみ草クラブ」に所属)
マミー(竹ちゃんの母。合唱サークル「かすみ草クラブ」に所属)

週刊連載、毎週するのは間違い探し

 連載中、編集者と毎週やり取りするのは、ちょっとした演出の違いを探し出すこと。漫画の展開だけは伝えているので、それが合っているか間違っているかを確認するだけ。まずラフを見て、編集がこんなことを言うんです。「顔のアップが3つ並びますね」。こっちからすると、アップが続くとどうだというセオリーはここでは関係ない。「そうじゃないんです、何か違うんです」。それで、いろいろしゃべり出す。そうすると、さっきの件に行き着く。アップの並びが間違っているんじゃなくて、そこに入るべきコマが違ったねと。あとはひたすら無駄話で、2人で白目むいてインスピレーションを待ってるという感じかな。いまさらながら変だよね。でももう気にせず変でいいと思ってる。はっきり言って、ただアンテナになった感覚はある。それとは少し矛盾するけど、作家のエゴみたいなものはとことん全快で吹かせました。

 キャラクターは、最初はフォルムから始まって、一番ないなって人を描きたいと思う。どこかにいそうだけど、この人はいないでしょっていう人。途中から、どれも自分になってくるってわかっているんですけどね。誰からできていくとか、あるキャラクターに重要な意味を持たせるということもない。逆に、1回しか出てこないなと思ってパッと描いたら何度も出てきて、後からなるほどそういうことかと思ったりします。キャラクターの名前は、いつも散歩で通るところにある家の表札からとってくるとか、そんなもんです。登場人物は、画家でいう絵の具みたいなもの。どこにでも売っているもので描くだけ。ストーリー全体で表現したいことが表現できたらいいわけです。

ココ北古賀(竹ちゃんの父。国民的シャンソン歌手でヒット曲は「チンモルケ」)
ココ北古賀(竹ちゃんの父。国民的シャンソン歌手でヒット曲は「チンモルケ」)

漫画は、どの絵の具を使うかという実験

 『ギャラクシー銀座』をやっていてわかったのが、仏教のような、もう少し深く入った密教みたいなことをやっていたのかなって…思いました。自分をつき動かす何かはあった。よく「誤解を生むような題材を取り上げていますね」とも言われますが、それは、何に対しても、ほとんどの人が本当に自分の心で何がいいか悪いかを判断してないと思ったから。そこにゆさぶりをかけたかったんです。道徳とか教育とか、全部ウソだと思ってます。必要なのは、因習打破、逸脱。ビートルズ的に言えば、「Hello, Goodbye」。おまえがハローなら、おれはグッバイ。この漫画のキャッチフレーズは、HOW TO 悟り。悟りがモチーフって、最初はゲラゲラ笑っていたんですけどね。いざ描いてみると、全ての創作物はただそれが表現されていただけなのかなといまは思います。

 次の漫画では、キレイなことをやりたいですね。あんまりキレイって軽くて好きじゃないんだけど。朝とか昼の明るい感じ、絵の具も本当に美しいブルーや赤を使って、心地よいものをサラッと表現できないかなと思っています。『ギャラクシー銀座』では、暗い色の絵の具全般を使ったので。もちろん、絵の具はチョイスでしかないです。もう暗い絵の具が残ってないということとは違って、どれを使うかという実験です。こんな色を使ったらどうなる。フォービズムのようなものかな。心がけていることは、センセーショナルなもの。まあ、これからも心を表現していくだけです。しかし、なんかこのインタビュー真面目すぎない? 最後にヒョウの鳴きマネでもしよか? あ、いらない…。なるほど。

次回は…
引き続き長尾謙一郎さんに、漫画家になるまで、創作のベース、ギャグとはなど、頭の中にある漫画の源泉について教えていただきます。[3月12日(木)アップ予定]

 
長尾謙一郎(ながおけんいちろう) 写真
 
長尾謙一郎
(ながおけんいちろう)

1972年、愛知県生まれ。大阪芸術大学卒業。漫画家。大学在学中の1993年に『アンダースローは終着駅だ』でデビュー。主な著書に『ビバ!思春期…』(全1巻/講談社)、『バカ田バカ助の挑戦』(全1巻/白夜書房)、『おしゃれ手帖』(全10巻/小学館)、平成20年度(第12回)文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品『ギャラクシー銀座』(全4巻/小学館)等がある。2007年には、映画『ユメ十夜』の「第八夜」(監督/山下敦弘)の脚本を執筆。現在「QuickJapan」で『バンさんと彦一』、「Zipper」で『超大内Z順子の世界LaおしゃれTheおしゃれ通信』を連載中。

http://ameblo.jp/theken16/

『ギャラクシー銀座』1〜3巻(デザイン/宇野亜喜良)。4巻は、2月27日(金)に発売予定。







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