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トーキョー・アートビジョン
No.046 人の落とした財布を拾うような、そのお金で遊ぶように絵を見てもらいたい
アーティスト 佐藤允さん

大学在学中にニューヨークで個展を開催し、昨年はVOCA展や光州ビエンナーレに参加するなど、国内外で活動を展開する注目のアーティスト、佐藤允さん。シャーペンに紙というシンプルな手法で、画面いっぱいに細密描写されたイマジネーションの渦は、独自の世界を生み出し、私たちに強い衝撃を与えます。今回は、これまでに制作された作品と海外での発表、そして6月に予定されている個展などについてお聞きしました。


作品の変遷と海外での発表

佐藤允 《図鑑8》 2005 pencil and colored pencil on paper mounted on panel 59.3×42.0cm
佐藤允 《図鑑8》 2005 pencil and colored pencil on paper mounted on panel 59.3×42.0cm

昨年11月7日まで開催されていた「光州ビエンナーレ2010」には、〈図鑑〉というシリーズの作品と〈花の図〉とテスト用紙の裏の落書きなどを展示していました。頭の中が過去の作品を展示するということで一杯だったからなのか、参加することが決まってから実は今までビエンナーレというものを見たことがないことに気付くぐらい、全く実感がないまま韓国入りしたので、会場に着いて規模の大きさや内容にびっくりしました。

〈図鑑〉という連作は大学1年の時に脊髄の病気になって入院していたことがきっかけになって描いたものなので、その当時はこの絵にとても切羽詰まっている、病的なイメージを持っていたのですが、今回の光州ビエンナーレで久しぶりに並べてみると、またその当時と違った印象を受けました。

あと久しぶりに見て、絵の描いてあるパネルの側面が面白かったです。その当時、僕は水張りというテクニックをちゃんと知らなくて、耐久性のないザラ紙を木製パネルの側面までぐいぐい引っ張って無理矢理画びょうで止めた上から、さらにマスキングテープをぐるぐる巻きにしてパネルに紙を固定していたので、水張りみたいにビシッと紙を張れていないから画面の表面にパネルを紙で梱包したかのようなたわみができていたのが面白かった。

テクニックを知ることで、長くきれいに作品を保存する方法を選択することも大事だけど、勉強することとか、何かを知ることで可能性をなくしてしまうこともある。そう考えると、何も知らないまま、ザラ紙みたいに保存が長く利かないような素材や組み立て方法で自分勝手に手探りで作品をつくれたことはとてもよかった。画びょうとマスキングは、耐久性とかの問題を知っていたら使わなかったかもしれない。ただ組み立ての作業をしている感覚はよく覚えていて、何かサバイバルな、自力で火を起こすような感覚。手でものをつくっている感覚がした。

僕の描く絵って大体に何かしらの痕跡が残っていて、性格的に汚さずには絵が描けない。それは描く時に鉛筆で汚れた手が画面で触れてできた黒い跡だったり、コラージュの時にはみ出した糊の跡だったり、わざとはやらないけれど描いている時に何らかの痕跡が残る。それも絵の大事な陰影とか色彩や質感だと思っているから、死後も生々しく僕の匂いが伝わったら嬉しいな、とか妄想するのが好きです。

佐藤允 《His Sea》 2007 pencil and colored pencil on paper mounted on panel 72.5×51.5cm
佐藤允 《His Sea》 2007 pencil and colored pencil on paper mounted on panel 72.5×51.5cm

次の連作が〈his sea〉というシリーズです。これはイギリスのアートフェアに出品したものをニューヨークのギャラリーの方が見てくださって、個展をやろうという話になり、2007年、初めての個展を開催しました。コラージュをやり出したのもこの頃です。

実家が千葉なのですが、房総の海って結構荒くて黒いんです。悩むことがあって友人と台風の夜の海に行って車の中からハイビームで照らした海を眺めていると、大荒れで暗くなった海の向こうに死んでいる自分が見えたというか、波を境界線に自分が二等分されているような感じがしたんですね。

今まで意識しなかった部分の感覚が次々と頭に流れてきた。例えば、死体の自分や波の自分、女である自分、そこからHis She という言葉が浮かんでHis Seaというタイトルの連作を制作するきっかけになりました。発音が違うみたいでニューヨークの人には理解してもらえませんでしたが。

作品集『はつ恋』のタイトルにもなっている《初恋》という作品は、《初恋》《変態》《生命力》の3点で1作品のようなトリプティックに近い感覚でつくった卒業制作です。「巨人・大鵬・卵焼き」みたいなニュアンスで、《初恋》《変態》《生命力》が僕の京都での大学時代を表す言葉に思えて、4年間の集大成のような感覚で制作をしました。

1年間かけて作品を制作する機会はなかなかないので、時間がないと描けないようなものを寝食を忘れて取り組みました。卒業制作展が終わってすぐに広島市現代美術館のグループ展でも同じ作品を展示しました。大変だったけど、沢山の尊敬できる人に出会えたり、貴重な体験ができた4年間でした。

佐藤允 《初恋》 2008 pencil and ink on paper mounted on panel 84.0×59.5cm 撮影/市川靖史
佐藤允 《初恋》 2008 pencil and ink on paper mounted on panel 84.0×59.5cm 撮影/市川靖史


6月開催予定の個展に向けて

日本で個展をしたことがないんです。だから、2011年6月に銀座のギャラリー小柳で開催予定の個展がはじめて皆さんにまとまった点数の作品を見てもらうことになるんですが、2010年はそればっかりに頭がいってしまって不安で、びくびく悩みまくってしまいました。

いったいギャラリーで何をやったらいいのかよくわからなくなってしまって。オーナーの小柳敦子さんに作品を見てもらったところ、やりたいことをやり尽くすのであれば個展の出品は1点でもいいとおっしゃってくれた。その瞬間、前に進めるようになりました。ニューヨークでの個展の際も内覧会のギリギリまで制作も展示も終わっていない状態の会場で巻き尺と水平器を持って直接展示を手伝ってくださったり、常に理解と応援をしてくださっていてありがたく思います。

個展では、ギャラリー全体が体の中であるような、そこをみんなに歩いてもらえるような展示をイメージしています。テスト用紙の裏に描いたものだったり、コラージュしたものだったり、僕のいろんな面を散策してもらうような感じですね。とても魅力的で難しい形のギャラリーなのでゆったりと慎重に等身大の展示ができたら思います。よくぞこんなものが存在しているなと、まずは自分自身がそう思えるものを描きたいです。今まで6年間作品を発表してきたけれど、何か未だに何もはじめられてないような気がしていて、今回の個展でやっとスタートラインに立てるような気がします。そういうものがあるのかどうかはよくわからないけれど、そんな気持ちです。見栄を張らずにまっすぐ慎重に頑張りたいです。

あとは何でこんなことを考えたか謎なんですけど、アートで人は救えるのか。これが最近気になっていて。救うにもいろんな観念があるし、人それぞれ救いは違うとも思いますが、多分僕は救えないと思ったんですね。それでも、例えばはじめて僕が田名網敬一先生の絵を何時間もジッと見て感じていたのは救いだったのかなと思ったり。その絵を見ることで受けた衝撃は興奮や苦痛を伴うけど、同時に癒されているという感覚もあって。自分でもそれが何だかよくわからないけれど、言葉にならない救い、戦争や悪い問題に何かを問いかけるとかそういったものじゃない、共感や安心に近い救いに興味がある。

できたら今まず僕を救いたい。色々な不安に抵抗したい。誰かが、「どんな人間でも、幸福や不幸で受ける感覚はどんなに違った地域や状況でも年齢性別関係なく大体同じだ」って話してくれたことがあって、疑いながらでも何か安心していて。もしもそうだとしたなら僕が個人的に描いた絵にも鑑賞者個人個人が何かしら共感してくれるんじゃないかと思ったんです。

以前、束芋さんが作品と鑑賞者は50パーセント50パーセントの関係だっておっしゃっていたんですね。50パーセントは自分が用意して、あとの50パーセントは鑑賞者がつくり上げていくというふうに。僕の場合はもっと無責任で、100%鑑賞者のものでいいと思う。僕のことを知ってもらう展示会だけではなく、作品のどこかに引っかかってもらって、それを自分のものにしてくれたら最高に嬉しい。これはニューヨークで個展をした時に感じたことで、3時間くらいあるオープニングパーティーで、はじめから終わりまでずっと作品を見ている人がいたんですよ。友人同士で意見交換をしながら、勝手に解釈。僕に一切答えを求めてこないという。これがベストだなと思ったんです。僕も死ぬし、死んだ後も僕抜きでも色々考えてもらえたら嬉しい。人の落とした財布を拾うような、そのお金で遊ぶように絵を見てもらえたらいい。何かうまく言えないけどそんな感じなんです。

個展開催までずっと走っているのに進んでいない感じがありますが、やっとみんなに見せたいなと思えるようになりました。これが作品を直接見てくださるきっかけになったら嬉しいですね。画集を見て知ってくださった方々にも是非生で見ていただきたいです。

Courtesy of Gallery Koyanagi
 
佐藤允(さとうあたる) 写真
 
佐藤允
(さとうあたる)

1986年、千葉県生まれ。2009年、京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科先端アートコース卒業。2006年、ギャラリー小柳のビューイングスペースにて作品を特別展示。2007年、初個展「ATARU SATO: His Sea」(Mehr Gallery/NY)を開催。主なグループ展に、2009年「どろどろ、どろん 異界をめぐるアジアの現代美術」(広島市現代美術館)。2010年「VOCA展2010―新しい平面の作家たち」(上野の森美術館)。2010年「第8回光州ビエンナーレ」(韓国)など。2011年6月に日本初となる個展をギャラリー小柳にて開催予定。作品集に『はつ恋』(アートビートパブリッシャーズ/2009年)がある。現在、京都在住。
http://www.art-
it.asia/u/ab_satoa/

 
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