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気鋭の批評家たちが、「アーティストファイル」に登録している注目作家の作品を取り上げ、批評するコラムです。作品と批評を結び、これからの芸術を考えるプラットフォームをつくっていきます。
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2012年UP
 《毛わら》 2011年
学校を卒業してしまうと、自分の作品を他人から批評してもらう機会は一気に減ってしまいます。コンペや公募展などに作品を出品しても、評が公表されるのは一部の受賞作品についてのみ。若手のアーティストやプロを目指す人たちにとって、第三者が作品をどう見るのかを知ることは、活動の大きな指針となります。また、専門家はどういったところに着目しているのかが制作のヒントになるでしょう。新コラム「アーティスト・ピックアップ」では、「アーティストファイル」に登録している若手アーティストなどの作品を取り上げ、月刊『美術手帖』の岩渕貞哉編集長に批評してもらいます。
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東京都歴史文化財団と『美術手帖』の連動企画「第1回 トーキョー・アート・ナビゲーション・コンペティション」で特別賞を受賞した西村有未さん。東京造形大学に在学中のフレッシュな才能に、コンペ審査員各氏の注目が集まりました。 |
 
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西村有未さんのコメント |
日本では現代アートはあまり一般層に受けいれられていません。だから、日本人に人気のある印象派と、私に影響を与えたモネの《積みわら》という作品をモチーフにして、自分なりの視点で提示しました。私はどんな不条理なことも笑い飛ばせるような、毒のあるユーモアやおかしむといったことを重要視していて、ちょっと毒がある、シニカルな要素を常にエッセンスとして加えています。
ここ近年、色彩をいろいろ使うようになりました。5年ほど前はモノクロ作品を多く描いていました。今回の作品における「緑」は湿気のイメージです。
私の作品はデジタルの画像にしてしまうとテクスチャーがわかりにくいので、実物のテクスチャーが見る人に伝わるのかという不安がありました。キャンパスの中にできる空間というものを追求しながら、いろいろな物質を使って、質感、凹凸などを表現しています。
作品においてのコンセプトは、「その時引っかかったTopics」です。私にとってモチーフは重要ですが、それよりも「キワ」と、タブローという表現ツールがコンセプトとしては強いです。 |
 
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受賞作《毛わら》に対する岩渕編集長の講評 |
 《ノンタイトルが嫌い》 2012年
今回の受賞作である《毛わら》は、モネの《積みわら》に由来しているという。とはいっても、印象派を代表するモネの積みわらに注ぐ光の効果という、この連作の技法的継承ではない。今でも美術鑑賞といえば、モネやゴッホといった印象派あたりまでで留まってしまい、現代美術までつながっていかない、日本における美術受容に対する屈折した感情が起点となっている。日本の美術大学でペインティングを学ぶ西村にとって、自らの表現が拠って立つ基盤への問題意識は、今後の作家活動を続けていくうえで避けて通ることのできないものだろう。
《毛わら》では、西村は落ち武者が剃った頭髪でモネの描いたわらを束ねている。いわば、作品の起点にあるちょっとした違和感を、ナンセンスをもってくることによってズラしている。ズラすことによって、テーマが前面化してくることはなく、画面を絵画として観ることができるような視線が担保されている。
今後は、作品のコンセプトと絵画としてのクオリティという二つの面をズラすことで破綻を避けるのではでなく、より高い次元で融合させることができるかが課題になるであろう。
 《ペロリと羊》 2012年
 《バナナ炎上》 2012年
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西村さんの他作品について |
西村さんのペインティングの特徴として真っ先に頭に思い浮かぶのは、緑の色面だろう。日本の油絵には、日本の湿気に溢れる空気を塗り込めるかのように茶色い絵画が多く描かれてきた。それはまた、醤油や味噌といった私たちの身体に染み付いた色でもあっただろう。
西村さんの奇妙な湿度感のある緑は、現代の日本におけるどのような身体感覚を体現したものなのだろうか、と考えさせられた。
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今月のポイント |
作家の持つ世界はただひとつの作品のみで理解しきることはできません。コンペの出品作である《毛わら》は、西村さんの持つ世界観やテーマなどがあふれ出る力作ですが、ほかの作品を合わせて見ることで、その人の作品世界をより深く知ることができます。それによって、《毛わら》の発するメッセージ性が明確になってくるのです。
西村さんご自身も、「コンペの時の審査員コメントは、自分にとって新鮮でした。こういう見方ってあるんだなとか、こういう風に見られてるんだとわかって面白かったです。自分の意図とは違う受け取り方をされたり、何も言わなくても意図を読み取られてしまったり、アートに深くかかわっている方々にこういう意見をいただけるのは貴重でありがたいと思いました」と語るように、岩渕編集長の評をふまえて、テーマ性や色面などの視点から、これらの作品に改めて触れてみてはいかがでしょうか。
■西村さんの作品が見られる「アーティストファイル」はこちら http://tokyoartnavi.jp/artistfile/detail.php?artist_no=20001140
■今年も開催「Tokyo Art Navigation コンペティション」(詳細は決まり次第告知) http://www.bijutsu.co.jp/bss/tan/
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アーティスト・ピックアップ |
「トーキョー・アート・ナビゲーション・コンペティション」で審査員を務める、『美術手帖』編集長の岩渕貞哉さんが、毎月「アーティストファイル」に登録している若手アーティストや注目の作家を取り上げ、作品を批評するコラムです。
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