ディープな渋谷を“モヤイ”のメッセージにのせて発信 |
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「モヤイ像」といえば、待ち合わせスポットとしておなじみの渋谷駅のシンボル。「MOYAIさんが行く」は、そのモヤイ像をアイコンに用いて、昭和女子大学の杉浦久子研究室(以下suginocoチーム)の学生たちが渋谷を舞台に行ったアートイベントです。東急電鉄と東京メトロの共催による渋谷の魅力を再発見するクリエイティブイベント「shibuya 1000」の関連企画として、今年3月にstep 1、step 2、step 3と段階的に開催され、大きな反響を呼びました。

「MOYAIさんが行く」step1の作品をまとめたブックレットの表紙。“MOYAIさん”が渋谷の街でたくさんの人たちと“モヤった”
STEP 1.「MOYAIさんが行く」〜渋谷をつなぐ―副都心線渋谷駅 |
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今年、第4回を迎えた「shibuya 1000」のテーマは、「渋谷の風景とともに人を映した写真展」。参加した13チームが渋谷駅周辺エリアを分担し、各々の企画のもと撮影に臨みました。杉浦教授率いるsuginocoチームは、道玄坂、神山町、東急本店通り、松濤エリアを担当。そのエリアにマニアックで個性的な商店が多いことに注目し、商店主を被写体に、ディープな魅力にあふれる渋谷の裏の顔を表現することにしました。

Suginocoチームが担当したエリアのマップ。新旧の個性豊かな店や施設とコラボレーションした
しかし、ただポートレートを撮るだけではつまらない。何か人々をつなぐ仕掛けづくりはできないものか。そこで思いついたのが、渋谷の街と人をいつも静かに見守っているモヤイ像でした。
渋谷のモヤイ像は、新島の東京都移管100年を記念して新島から寄贈されたもので、“モヤイ”の名は新島に古くから伝わる言葉“最合う(もやう)”に由来しています。“最合う”とは、力を合わせる、助け合うという意味。未曾有の災害に見舞われた日本で、とりわけ人と人との関わりが希薄だと言われる都心においては、示唆に富んだ深い言葉です。
「そのメッセージをたくさんの人に伝えたかった。人や風景にモヤイ像のキャラクターを絡めることで、参加してくれた人や見てくれた人が面白いという気持ちを共有して、みんなで“最合う”ことができたらいいなと思ったのです」(suginocoチーム 後藤友香さん)

生活機構研究科 環境デザイン研究専攻2年 後藤友香さん
笑いでつながり、みんなで“最合う” |
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早速、商店街や食堂、本屋、名曲喫茶などここぞと思う店を絞り込み、交渉を開始。建築を専門とする学生らしく発泡樹脂製の断熱材でつくった“MOYAIさん”のミニチュアや、イメージが伝わるよう試し撮りした写真見本、企画書などを手に一店ずつ訪ね、店主を説得して回りました。

MOYAIさんの試作品と完成形(右)。オリジナルのモヤイ像をベースにsuginocoチームのテイストを加味した、味のある表情に注目
「最初は相手にされないんじゃないかとドキドキしていたんです(笑)。でもこちらの不安とは裏腹に、ほとんどの方が興味をもって賛同してくださったので、交渉はとてもスムーズに進みました。そういう懐の深さや面白いと思ってくれる感性も、渋谷の街や人がもつ魅力なのかもしれません」(suginocoチーム 山田安紀さん)

生活機構研究科 環境デザイン研究専攻2年 山田安紀さん
並行してMOYAIさんの造形を絞り込む作業も進められました。動きと表情をもたせるため、腕は角度を変えられるよう着脱式にし、撮影のシチュエーションに合わせて眼鏡、マフラー、帽子、箒、エプロンなどの小物も制作。さまざまな店にひょっこり現れてみんなのお手伝いをする「ちょっとお節介でインテリなMOYAIさん」は、54のスポットで88人と“最合い”、ほのぼのとした笑いを振りまきながらバラバラに点在していた場所と人をつないで行きました。完成した114枚のパネル写真は副都心線渋谷駅の地下コンコースに展示され、そこでもまた来往する人たちの和やかな笑みを誘っていました。
渋谷の街中に出没するMOYAIさん。写真・Kazushige Suzuki(bnf.)
副都心線渋谷駅のパネル写真展示風景。渋谷の隠れた側面とそこになじんだMOYAIさんの姿が行き交う人の目を楽しませた
建築家としての視点から、次なるステップへ |
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「shibuya 1000」は好評のうちに閉幕。「MOYAIさんが行く」のプロジェクトもそこで終了するはずでした。しかし杉浦教授はある構想を持っていました。
「日頃私たちは、人と環境の関係をテーマに、建築設計やインスタレーションなど街の中に1/1のスケールで3次元の空間をつくる活動を行っているので、写真の展示だけで終わらせてしまうのは物足りない。このプロジェクトをさらに進めて現場に空間を立ち上げ、step 1ではフィクショナルなキャラクターだったMOYAIさんを、街にリアルに登場させることができたら、と考えました」

プロジェクトを率いた生活学部環境デザイン学科の杉浦久子教授
こうして「MOYAIさんが行く」のプロジェクトは次なるステップへと展開して行くことになるのです。その内容については次回詳しくご紹介しますので、どうぞお楽しみに。
インタビュー・文/杉瀬由希