JR東所沢駅から徒歩10分、東所沢公園を抜けた先に見える巨大な石の建造物が、角川武蔵野ミュージアムです。外壁を覆うのは花崗岩で、関東平野は火山灰が堆積してできた関東ローム層で覆われていることから、地殻が地表に噴き出す様子をイメージして造られました。デザイン監修は、日本を代表する建築家の隈研吾さん。隈さんは、先日東京オリンピック・パラリンピックが開催された新国立競技場と角川武蔵野ミュージアムの建設プロジェクトを、2018〜19年の間、同時に進めていました。
ビルの壁面で翼を広げるのは、「《コロナ時代のアマビエ》プロジェクト」の第2弾として制作された鴻池朋子さんの《武蔵野皮トンビ》です。
「《コロナ時代のアマビエ》プロジェクト」は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、アーティストたちが人々の想像を超えた「現代のアマビエ」像をつくることで、未来に向けたメッセージを発信するプロジェクトです。アート部門のディレクターを務める神野真吾さんのキュレーションにより、2020年11月6日より6人のアーティストがリレー形式で作品を発表し、その一部は建物入口のある2階ロビーに展示されています(展示終了時期未定)。広い空間に呼応するアーティストの力作からは、不安を乗り越え未来を創造するエネルギーが感じられます。
1階には、約1,000平方メートルの広さを持つ「グランドギャラリー」と、2021年7月にリニューアルした「マンガ・ラノベ図書館」があります。
グランドギャラリーでは、サイエンス、アート、博物に限らず、大空間を生かした圧巻の展示が楽しめます。現在開催中の「浮世絵劇場 from Paris」(2021年10月30日〜2022年4月10日)も、巨大な壁面と床に映像が投影され、浮世絵の世界に包まれる体験型コンテンツです。
「マンガ・ラノベ図書館」には、自社のライトノベル、コミック、児童書に加え、リニューアル時に18社から寄贈された他社のライトノベルを含む、約3万5000冊が収蔵されています。「特に1階の『マンガ・ラノベ図書館』は、大人から子供まで、本を読んでゆっくり過ごされる方が多いんです」と広報の齋藤真由美さん。絵本・デジタル絵本のコーナーでは、読み聞かせをする親子の姿もよく見られると言います。
3階は、日本が世界に誇るアニメ文化を紹介する「EJアニメミュージアム」です。アニメの原画や絵コンテなどの資料展示はもちろん、2021年7月17日〜9月26日に開催された企画展「異世界みゅーじあむ」では等身大の立像や映像演出などで名シーンを再現して、異世界を舞台にしたKADOKAWA作品、4タイトルの魅力を伝えました。
現在開催中の企画展「マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ」(~2022年1月2日まで)も、マーベル・ヒーローたちのスタチューやアイテムを多数展示し、映画の世界に入り込んだような体験できるイベントになっています。
そして4階の「エディットタウン」にあるのが、「エディット アンド アートギャラリー」です。現代アートを中心とした展示から想像を巡らせて、自らの知を再構築する場所となっています。「俵万智展 #たったひとつのいいね 『サラダ記念日』から『未来のサイズ』まで」(2021年7月21日〜1月10日)では、サラダ記念日の短歌のフレーズを借りて来場者が短歌を詠むコーナーがあり、大勢の来場者が参加していました。
3つの展示空間だけでなく、ロビーや建物の壁面にも、それぞれの特色を活かした幅広いジャンルのアートが展開されています。
エディット アンド アートギャラリーの横には、両側を本に囲まれた道が奥へと続いています。この「ブックストリート」には、館長・松岡正剛さん監修で選書された書籍が約2万5000冊収められ、来場者は手にとって自由に読むことができます。本棚には、「記憶の森へ」「むつかしい本たち」といった世界を読み解くための「9つの文脈」ごとに、全集や図鑑、写真集やマンガなどがボーダレスに並びます。
本棚の道を脇に逸れると、作家、博物学・妖怪研究家の荒俣宏さんが監修した「荒俣ワンダー秘宝館」があります。動物の剥製や骨格標本からUFOのかけらまで、好奇心を掻き立てる品々が陳列され、棚には荒俣さん直筆のポップも多く並びます。
最奥にあるのは、2020年のNHK紅白歌合戦でYOASOBIが歌唱したロケ地としても話題になった「本棚劇場」です。約8メートルの壁面には、KADOKAWAの刊行物をはじめ、角川書店の創立者・角川源義(げんよし)の蔵書、創立時より関わりのある作家や研究者の蔵書が収められ、KADOKAWAの歴史が詰まった一角となっています。
齋藤さんによると、4階は「図書館・博物館・美術館が混ざり合った空間」になっているとのこと。角川武蔵野ミュージアムを象徴する、知的好奇心がくすぐられるエリアです。
そして5階は、武蔵野を民俗学の視点から探る「武蔵野ギャラリー」と、民俗学者の赤坂憲雄さんの監修により武蔵野に関する250冊の書籍が配架された「武蔵野回廊」です。
角川源義は民俗学者・柳田国男の教えを受け、武蔵野でフィールドワークを行なっていました。武蔵野ギャラリーの中央に置かれた武蔵野の地形図や1950年代に源義が撮影した写真などから、武蔵野の過去・現在・未来に想いを馳せることができます。
たくさんの人の知的好奇心と想いが詰まった角川武蔵野ミュージアムは、誰もが好奇心の翼を広げて自由に飛び回れる知のワンダーランドです。