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現代美術アーティスト/EAT&ART TARO×画家/今井麗[後編]

異分野×アーティスト

No.006

誰にとっても身近な「食」を通じたアートの可能性とは?

対照的なふたりが互いの魅力を探ります。


現代美術アーティスト/EAT&ART TARO×画家/今井麗[後編]

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2019.09.04

誰にとっても身近な「食」をテーマに、それぞれ個性あふれるアプローチで魅力的なアートを生み出し続ける、EAT&ART TAROさんと今井麗(うらら)さん。互いの表現の源泉について語り合った前編に続き、後編はTAROさんの活動をメインに、「食」をはじめとする日常の豊かさや、これから目指すものについて聞きました。


――日常から新鮮な驚きや感動が生まれるという点では、今井さんのお父様、今井信吾氏による書籍『宿題の日記帳』(リトルモア、2017)のことも思い出しました。これは幼い「うららちゃん」と家族の日々を綴った絵日記をまとめた素敵な一冊です。もともとは、生まれつき難聴の今井さんが通った聾話学校で、親御さんへの「宿題」として描かれ/書かれたものだそうですね。芸術家ならではの表現力と同時に、誰もが感じとれる魅力があります。

今井  父も私も画家ですが、じつは夫もそうで(西村有氏)、彼の父も画家なんです。さらに親戚関係も美大出身の人ばかりで、この事実に気づいたときは「これってどうなのかな」と思うこともありました(笑)。ただ、私の描いた食べものの絵を父が見て「なかなか良い絵じゃないか」と言ってくれたのは嬉しかったですね。日常からの発見ということでいうと、いま私は3人の子育て中で、2人姉妹だった自分には想像を超えた毎日でもあります。当たり前だけどみんな性格が違うし、上の子に通じたやり方が他の子には通じない(苦笑)。でも、そうしたことに気づける日々も、大切な体験だと最近では思っています。

⽇常からの発⾒を⼤切にしている今井さん

TARO  僕はいま、生まれて間もない子どもがいるので、今井さんは子育ての先輩ですね。僕のところも、妻は映像アートのキュレーションの仕事をしているので、ちょっと似た感じかもしれません。ただ、同じ美術といってもお互いやっていることはだいぶ違いますし、それが双方にとって新鮮というのもあります。

今井   ああ、それはそうですね。夫は絵画でも風景などがメインのモチーフなので、私たちはかなり違うんです。だから作品をめぐる意見の違いでケンカになったり、変な妬みを抱いたりもないのかな(笑)。

TARO  誰もが違うのは当たり前、という話でいうと、僕のプロジェクトで「ALL AWAY CAFF」というのがありました。瀬戸内国際芸術祭2016での作品で、これは総勢で12もの言語を話す多国籍の店員たちが対応するカフェ。ただし、最も求められるであろう英語と日本語は通じません。いわば全員が「アウェイ感」を抱いてしまう。各国から訪れる来場者と、それを万全の準備でもてなすスタッフや地域の人々、という関係性をちょっとかき混ぜたくて生まれた作品です。注文する方もされる方も大変ですが(笑)、みんな身振り手振りで楽しそうにやりとりしてくれたのが印象深かったです。

EAT&ART TARO《ALL AWAY CAFE》2016
写真提供︓EAT&ART TARO
EAT&ART TARO《⼀⼈喫茶タロウ》(TOKYO TOSHIMA ART)2019
写真提供︓EAT&ART TARO

ブレない視点と、変わらぬチャレンジ精神

――東京についてのお二人の思い出や、好きな場所などありますか?

今井   私は神奈川に住んでいますが、上野の美術館エリアは、父が作品を定期的に出展してきたので小さいころからよく一緒に行きましたね。今は自分の作品展示で、ギャラリー(XYZ Collective)や書店(青山ブックセンターでの作品集『gathering』発行記念展)などにお世話になっています。

TARO  自分のプロジェクトでは今年5月、池袋駅地下通路で、客席が1つだけの「つくるひと 一人喫茶」を1日だけ開きました(豊島区「TOKYO TOSHIMA ART」の一環)。1日264万人が利用するターミナル駅の交差場所でこうしたお店を開くことで、来場者数だけでは測れないアートプロジェクトの価値や、そこを通り過ぎるだけの人々との関わりなども考えつつ取り組んだ作品です。東京ならではの面白い試みになったと思っています。

――最後に、近々のご予定などぜひ教えてください。

TARO  いま、瀬戸内国際芸術祭2019に「瀬戸内ガストロノミー」という作品で参加しています。これはレアンドロ・エルリッヒ作品《不在の存在》に併設されたレストランで、ランチを食べながら瀬戸内の魅力を知る料理ショーです。予約制で人数は限られますが、先ほどの「一人喫茶」同様、来客数の多さなどとは違う出来事の価値が芸術祭にもあると思ってやっています。また、いつか形にできたらと考えていることとして、摂食障害(拒食症や過食症など)と共に生きる方々とやりとりしてきたことをベースにしたプロジェクトがあります。深刻なテーマなのでもちろん簡単ではありませんが、現代の食をめぐって表現する上では、こうしたことも考えていきたいと思っています。

今井   私は来年(2020)1月11日から、東京オペラシティ アートギャラリーのシリーズ企画「project N」で個展を開く予定です。これまでギャラリーやカフェなどで作品を発表することが多かったのですが、初の公の場における個展になります。これを機に新しい試みもしたいと考えていて、いま制作に取り組んでいる最中です。身近な日常の中から絵を描く、ということは変わらないと思いますが、今後は発表の場を広げながら、より大きなサイズの絵や、自分なりに社会の出来事をサラッと反映させたような表現にも挑戦できたらなと思っています。

――お二人の、今後のさらなるご活躍に期待しています。今日はありがとうございました。

〈完〉

EAT&ART TARO《瀬⼾内ガストロノミー》(瀬⼾内国際芸術祭)2019
TAROさんが瀬⼾内の気候⾵⼟や⾷材にまつわる話をしながら料理を提供する
写真提供︓EAT&ART TARO

構成:内田伸一

Photo:千倉志野

EAT&ART TARO(イート・アンド・アート・タロウ)

1979年、神奈川県生まれ。現代美術アーティスト。調理師学校卒業後、飲食店勤務を経てギャラリーや美術館などでケータリングを始める。やがて自ら食をめぐるユニークなアートプロジェクトを展開。2019年は瀬戸内国際芸術祭2019において、ランチを食べながら瀬戸内のおいしさを知る料理ショー「瀬戸内ガストロノミー」を展開する。

http://eat-art.info

今井麗(いまい・うらら)

1982年、神奈川県生まれ。画家。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、多摩美術大学大学院美術研究科博士課程満期退学。シェル美術賞、本江邦夫審査員奨励賞受賞(いずれも2012年)。各地での個展、グループ展で作品を発表し、2018年には初の作品集『gathering』(Baci刊)を出版。植本一子『かなわない』(タバブックス、2016)や椰月美智子『明日の食卓』(KADOKAWA/角川書店、2016年)などの装画や、『暮しの手帖』2019年8-9月号の表紙絵、『虎屋』広告などでも知られる。

https://ulalaimai.jimdo.com/

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