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個展会場で作品を壊されたら[後編]

アート110番!法律の悩み、お答えします

No.002

悩めるアーティストのための駆け込み寺「アート110番!」。毎回さまざまな相談者に、複数の法律家が答えます。法律は創作活動をしばるものではありません。正しい知識があなたをサポートしてくれます。

今回の相談は「個展会場で作品を壊されたら」。鑑賞者が作品を破損してしまった場合、補償はどのように考えればよいのでしょうか。後編では会場となるギャラリーとあらかじめどのような約束事ができるかを掘り下げていきます。


イラスト:赤池佳江子

協力・監修:Arts and Law

構成:竹見洋一郎


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2023.05.01

マル山(弁護士)

湯飲みなどの工芸や服飾など、鑑賞者が作品に触ることが前提の場合はまた別だと思いますが、基本的にギャラリーなり美術館のシステム運用の責任だと私は思います。これは「善管注意義務」の話になるのではないでしょうか。

カク田(弁護士)

そうですね。会場に対しては善管注意義務です。

ぜんかんちゅうい……。なんのことですか。

タマ子(ガラス作家)

マル山

「善良なる管理者としての注意義務」の略です。分かりやすくいうと、仕事なのだからちゃんとやってくださいよ、という意味ですね。

今回の法律キーワード

【善管注意義務】

「善良な管理者の注意義務」の略で、職業又は地位にある人として通常要求される程度の注意義務を払うことを意味する。

略語になるくらい法律の世界では一般的な言葉なのですね。アーティストの立場としては心強いのですけど、ただ、ふとギャラリーの事情も考えてしまいます。たいていのギャラリーはすべての部屋に看視の人を立たせるようなスタッフの余力はなくて、受付に1人いるくらいの運用体制だと思うので。

タマ子

カク田

たしかにオーナーが1人でやっている規模のギャラリーで、善管注意義務の高さがどのぐらいなのかは簡単には言いにくいですね。ですから裁判を実際にするとしたら、ギャラリー側と破損した人と、両方を相手にして責任を問うていく、ということになるでしょう。

マル山

2者の経済的な事情も考慮されますね。

カク田

とはいえ展示する会場側に作品を預けるからには信頼があるので、何の義務もないのも不自然です。もちろん、事故があっても一切責任を負えませんという約束が事前にあったのなら別ですが。

展覧会をするときには、しばしば口約束というか、会期はいつで、売上の取り分の割り振りはこう、くらいのことは、メールでやりとりはしていますけれど、正式な契約書は交わしていません。わたしの作品を扱ってもらっているほかのギャラリーでも同じです。

タマ子

カク田

まず申し上げたいのは、契約書をつくることがベストです。

でも、こっちからは言いづらいです。「何かあった時にどれだけの責任を取ってくれますか」と聞くのって、感じ悪くないですか。

タマ子

カク田

そこをなんとかがんばりましょう。クリエイティブな業界ではいい加減な契約が多くて、つくり手が困るケースが実に多いのです。

マル山

形はどうあれ、なんらかの約束を取り付けてみましょう。契約書のハードルが高ければ、メールで確認することも考えられます。ポイントは、向こうの了承を得ることですね。言いっ放しではなく、相手の了承までが必要です。

カク田

程度問題です。繰り返しますが一番いいのは契約書。なるべく具体的に細かく、後から第三者が見たときでも、これは約束だねと特定ができるような書き方を目指しましょう。そこからだんだんレベルが下がっていって、メールでもいい、場合によってはLINEでも、という感じです。

相手に「破損したときに補償してくれますか」というニュアンスを伝える時、法的に効力のあるもっとも柔らかい表現を教えてください。急にLINEで「甲が乙に補償するものとする」なんて言い回しが出てきたらびっくりすると思うので。

タマ子

カク田

概括的なお答えをすると、言い回しはくだけていても問題ありません。公序良俗に反するような文言を使わずに、しかし内容が誤解されないように「いかなる場合もギャラリー側がいっさいの補償する」という文言は残して。

その「いかなる」とか「いっさいの」って言い方は必須でしょうか。使い慣れないので抵抗が……。

タマ子

マル山

オススメの方法があります。そういう言葉が書いてある契約書のひな形をお手もとにつくっておくのはどうでしょう。打ち合わせの際にパッと出して、「どのギャラリーとのお仕事でも、これにサインをいただいています。ご面倒なのですが」とその場で確認してもらってサインまでもらってしまいましょう。

それならできそう!

タマ子

カク田

しかも同じ内容のものを2枚持参して、双方が控えを持っておけるようにすればベターです。

マル山

さらにこの方法のバリエーションとして、「アドバイスをもらっている弁護士から、これに返信をもらうように言われています」というメールとともに契約文を送って、「内容を確認いただいたら、メールでこれに『了承です』とだけお返事をいただけますか」と伝えるのも簡素なやりかたです。

さらにハードルが下がりました。「わたしの顧問弁護士が返信もらえってうるさくって」って言ってみたいです。今回壊れた作品について、裁判で解決するかはよく考えてみますが、次から困らないで済みそうです。お二人に相談して気持ちが楽になりました。

タマ子

マル山

立証できないと裁判所も認定できないので、日ごろから何かの形で証拠、記録を残す意識をするとよいと思います。

カク田

そして第三者の、法律の専門の知識のある人に相談するのが、一番間違いがありません。専門の機関がいくつもありますし、私たちのいるArts and Lawもそのひとつです。ぜひご活用ください。

Arts and Law
Arts and Law(AL)は、弁護士・弁理士・会計士など有資格の専門家の協働による、芸術・文化・創造的な活動への無料相談窓口をはじめとする支援プログラムを企画運営する非営利の任意団体です。
https://www.arts-law.org

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