アートの法律 もし購入者が作品を勝手に改変してしまったら
アート110番!法律の悩み、お答えします
No.003悩めるアーティストのための駆け込み寺「アート110番!」。毎回さまざまな相談者に、複数の法律家が答えます。法律は創作活動をしばるものではありません。正しい知識があなたをサポートしてくれます。
今回の相談は「購入者が作品を勝手に改変してしまったら」。作品を購入してくれた人が無断でその作品に手を加えてしまった場合、その行為についてアーティストはどこまで権利を主張できるのでしょうか。
イラスト:赤池佳江子
協力・監修:Arts and Law
構成:坂本裕子
「翻案権」と「同一性保持権」です。
今回の法律キーワード
【翻案権】
制作者の経済的な利益を守るために定められた権利(著作権)のうちのひとつ。原作(元の作品)の表現上のクリエイティブな特徴を残したまま改変し、元の作品にはない別のクリエイティブな表現を加えて、他の作品を生み出す権利のこと。作品のもつ創作性を利用して、勝手に別の作品をつくられることを防ぐ機能をもつ。
【同一性保持権】
著作物が制作者の思想・感情の表現であることから、制作者の人格的な利益を守るために定められた権利(著作者人格権)のひとつ。制作者の意に反した変更や切除などの改変を禁じることができる権利のこと。制作者が名誉を棄損されたり、精神的に傷つけられることから保護する機能をもつ。
そして、作品を制作した時の作家の想いやコンセプト、社会的評価など、制作者の「変えられたくない」コアの部分を守るのが「同一性保持権」です。これは、アーティスト個人に紐づくので、誰にも、どこにも譲渡できない権利です。
いずれにしても、事前に「所有権」と、「翻案権」を含めた著作権の在りか、そして「同一性保持権」の行使に関して、契約をきちんと取り交わしておくことが今回のような事態を回避する術です。契約で特に定めていない場合は、翻案権などの著作権は制作者のもとに残り、同一性保持権も行使できるのが通常ですが、契約書がなくても契約は成立しますので、事情によっては購入者に譲渡した、または行使しない約束をしたと判断されることがあります。
そして、何よりも事前にそうした条件を確認しておくことの重要性を痛感しました。これからはきちんと契約を取り交わすようにしたいとも思いますが、作品を発注、購入してくださるお客さまにあまり細かく、うるさい条件の提示をするのも、相手の条件に異を唱えるのも、ちょっとやりにくいというか、抵抗が……。
また、ご自分の作品を紹介・販売しているサイトなどがあれば、そこに、そうした条件を記した「ガイドライン」をあらかじめ掲示しておき、それらに「同意する」をチェックした人に購入の手続きに進んでもらうというステップを踏むのも、ひとつの予防線になると思います。
わからないことや不安がある場合は、第三者の、法律の専門の知識のある人に相談するのが、一番間違いがありません。専門の機関を紹介する窓口もありますので、ぜひご活用ください。
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」は東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京による共催事業で、2023年10月にフルオープンしました。オンラインを中心に「相談窓口」、「情報提供」、「スクール」の3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげる場です。
「芸術文化活動で受けられる公的な支援や民間の助成金を知りたい。」「確定申告の仕方や、著作権の考え方がわからない。」「ハラスメントのことで相談したい。」「団体の活動を継続的に行うためのアドバイスがほしい。」など、都内で活動するアーティストや芸術文化の担い手が直面するさまざまなお悩みやお困りごとについて、解決に向けてお手伝いします。ご相談の内容によっては関係機関や法律・会計などの専門家と連携し、無料で受けられる相談先をご案内します。
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Arts and Law
Arts and Law(AL)は、弁護士・弁理士・会計士など有資格の専門家の協働による、芸術・文化・創造的な活動への無料相談窓口をはじめとする支援プログラムを企画運営する非営利の任意団体です。
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