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アートの法律 もし購入者が作品を勝手に改変してしまったら

アート110番!法律の悩み、お答えします

No.003

悩めるアーティストのための駆け込み寺「アート110番!」。毎回さまざまな相談者に、複数の法律家が答えます。法律は創作活動をしばるものではありません。正しい知識があなたをサポートしてくれます。
今回の相談は「購入者が作品を勝手に改変してしまったら」。作品を購入してくれた人が無断でその作品に手を加えてしまった場合、その行為についてアーティストはどこまで権利を主張できるのでしょうか。

イラスト:赤池佳江子
協力・監修:Arts and Law
構成:坂本裕子

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2023.10.17

クマ次郎
クマ次郎
こんにちは。オブジェ作品をつくっているのですが、大変ショックなできごとがあり、どうしたらよいのか分からなくて……。
マル海
マル海
こんにちは。何があったのですか?
クマ次郎
クマ次郎
数年前に、ある会社が新しくオープンする店舗に飾りたいと作品を注文してくださり、そのお店のコンセプトに合わせた作品をつくったのですが、最近お店の業態が変わり、その際にイメージに合わなくなったから、と、私の作品に手を加えて見た目を変えてしまったんです。そんな話は全然聞いていなくて。購入してもらったものですけど、私の作品であることには変わらないし、悲しいやら、悔しいやら、なんか愕然として……。こうした場合、私はクレームを入れることができるのでしょうか。
マル海
マル海
それはショックですね。法律に鑑みて一緒に考えていきましょう。
カク山
カク山
こうした場合、まずは、権利関係を確認します。大きくは2つ。ひとつ目は、どちらがモノとしての「所有権」を持っているかです。ふたつ目は、制作物としての「著作権」がどちらにあるかです。契約書にはどのように記載されていますか?
クマ次郎
クマ次郎
納品期日や金額の記載されている書類(発注書、納品書、領収書など)はありますが、きちんとした契約書を交わしていなかったような……。
カク山
カク山
なるほど。こうした場合、所有権は購入した店舗に渡っていることが多いですね。所有という観点から見た場合、自分の持ち物をどう扱うかについては他者が意義を申し立てるのは難しいと言えます。ただし、“改変”してしまったというのは、作品の表現に手を加えているという視点から、アーティストの著作権を侵害していないか、という問題が生じることがあります。著作権がどちらに帰属しているのか、作品にどれくらいの改変がなされているのか、その程度にもよってきますね。
マル海
マル海
他者による作品の改変について、著作権法上、制作者は2つの権利で守られています。
翻案権」と「同一性保持権」です。

今回の法律キーワード

【翻案権】

制作者の経済的な利益を守るために定められた権利(著作権)のうちのひとつ。原作(元の作品)の表現上のクリエイティブな特徴を残したまま改変し、元の作品にはない別のクリエイティブな表現を加えて、他の作品を生み出す権利のこと。作品のもつ創作性を利用して、勝手に別の作品をつくられることを防ぐ機能をもつ。

【同一性保持権】

著作物が制作者の思想・感情の表現であることから、制作者の人格的な利益を守るために定められた権利(著作者人格権)のひとつ。制作者の意に反した変更や切除などの改変を禁じることができる権利のこと。制作者が名誉を棄損されたり、精神的に傷つけられることから保護する機能をもつ。

クマ次郎
クマ次郎
難しいので、もう少しわかりやすくお願いします。
マル海
マル海
例えば、小説を原作としたアニメーションやマンガを作る場合、原作者の許諾を得る必要があります。これが「翻案権」ですね。事前に許諾を得ていない場合、原作者はこの権利が守られていないと主張することができます。ただし、この権利は他者に渡すことができますので、契約時にどちらに帰属するのか、明確にすることが重要です。
そして、作品を制作した時の作家の想いやコンセプト、社会的評価など、制作者の「変えられたくない」コアの部分を守るのが「同一性保持権」です。これは、アーティスト個人に紐づくので、誰にも、どこにも譲渡できない権利です。
クマ次郎
クマ次郎
では、その2つの権利から異議を申し立てることはできるのですね。
カク山
カク山
そうですね。制作者に「翻案権」が残っている場合は、たとえ作品の購入者といえども、制作者の許可がなければ作品に手を加えて別の作品にすることはできません。ただし、制作者が「翻案権」を購入者に譲渡している場合は、誰かが制作者の許可無くその作品の改変を行った場合に制作者が権利侵害をされたと主張することは難しいです。「同一性保持権」についても、譲渡はできませんが、その権利を「行使しない」という契約を結んでいた場合、やはり主張は難しくなります。企業などの契約書では、「翻案権の譲渡」と「同一性保持権を行使しない」の条文がセットになっているものが多いですね。こうした正式な契約書がないということですが、変えられてしまった作品はどの程度の改変なのでしょうか。
クマ次郎
クマ次郎
実は、作品の売却先が焼き鳥屋さんからイタリアンレストランになって、私の作品は、色が塗りかえられたうえに、一部が外されて別の場所にくっつけられていて、元の形から大きく変わってしまい、作品としての印象も異なっているんです。このため、台座に入れてあったサインも外したから、と言われてしまって……。
カク山
カク山
そうですか。改変の程度も重要になります。例えば、和風の手ぬぐいを洋風のコックの帽子に変える程度の軽微な変更の場合は問題なしとされるケースが多いです。また、逆にまったく原形をとどめないほどに改変された場合、本来の著作物ではない、別個のモノになったという主張が成り立ち、翻案権や同一性保持権の侵害が成立しないとされる可能性があります。
クマ次郎
クマ次郎
あきらめるしかないのでしょうか……(泣)。
マル海
マル海
たとえ改変の程度が極めて軽微だったり、作品そのものには手を加えていない場合でも、思想的なものなど、所有者が、作家の主義と反する、あるいはその名誉を害したり社会的評価を下げるような利用をした場合は、著作者人格権侵害に当たる場合があります(「名誉声望権侵害」といいます)。一方、原形をとどめないほどに改変された場合でも、所有権を購入者に譲渡していない場合は、自分の所有物を汚され、破壊されたことになりますから、所有権に基づいて損害賠償請求ができるでしょう。また、元の作品の要素が残っている部分を探して、「同一性保持権」から意に反した改変に対する主張ができるかもしれません。
カク山
カク山
お店の方で原形をとどめないほどに改変した時の過程や場面を、お店のお客さんやSNSなどに公開している場合は、同一性保持権侵害を訴えることはできますね。
いずれにしても、事前に「所有権」と、「翻案権」を含めた著作権の在りか、そして「同一性保持権」の行使に関して、契約をきちんと取り交わしておくことが今回のような事態を回避する術です。契約で特に定めていない場合は、翻案権などの著作権は制作者のもとに残り、同一性保持権も行使できるのが通常ですが、契約書がなくても契約は成立しますので、事情によっては購入者に譲渡した、または行使しない約束をしたと判断されることがあります。
マル海
マル海
契約を締結する際に先方が提示してくる契約書もよくチェックしてください。「同一性保持権」について、「購入者に行使しない」の条文がある場合は、購入者にとって有利な条件を飲んでいるわけですから、販売金額や制作の条件について交渉の余地が生まれることもありますし。
クマ次郎
クマ次郎
もう一度受注時の書類なども読み直してみます。それと、お店の動画などがないかも検索してみます。元の作品に戻してもらうのは難しそうですが、交渉できる点があったら先方と相談してみます。
そして、何よりも事前にそうした条件を確認しておくことの重要性を痛感しました。これからはきちんと契約を取り交わすようにしたいとも思いますが、作品を発注、購入してくださるお客さまにあまり細かく、うるさい条件の提示をするのも、相手の条件に異を唱えるのも、ちょっとやりにくいというか、抵抗が……。
カク山
カク山
購入者や会社との契約で「同一性保持権を行使しない」の条項を外すことが難しければ、別項で、「してほしくないこと」をリストアップして、その点だけは守ってもらう契約にするとよいと思います。
また、ご自分の作品を紹介・販売しているサイトなどがあれば、そこに、そうした条件を記した「ガイドライン」をあらかじめ掲示しておき、それらに「同意する」をチェックした人に購入の手続きに進んでもらうというステップを踏むのも、ひとつの予防線になると思います。
クマ次郎
クマ次郎
それであれば高飛車な感じはせず、こちらの希望を伝えられるような気がします!
マル海
マル海
オンラインのみでの購入や、今回のような事態の予防としては有効ですが、それだけで安心しないでくださいね。契約は最新の日付が優先されます。最終的にオフラインでのやりとりになる場合は、提示された内容を改めてチェックして、できれば契約は書面(電子でも)で交わすことをおすすめします。
カク山
カク山
契約」というのは、相手を縛るのではなく、互いの権利を守り、円滑に取引を行うためのツールです。後々に嫌な思いをしないためにも、真摯に希望を伝え、相互に折り合える条件を見つけることが重要なのです。
わからないことや不安がある場合は、第三者の、法律の専門の知識のある人に相談するのが、一番間違いがありません。専門の機関を紹介する窓口もありますので、ぜひご活用ください。

東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」は東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京による共催事業で、2023年10月にフルオープンしました。オンラインを中心に「相談窓口」、「情報提供」、「スクール」の3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげる場です。
「芸術文化活動で受けられる公的な支援や民間の助成金を知りたい。」「確定申告の仕方や、著作権の考え方がわからない。」「ハラスメントのことで相談したい。」「団体の活動を継続的に行うためのアドバイスがほしい。」など、都内で活動するアーティストや芸術文化の担い手が直面するさまざまなお悩みやお困りごとについて、解決に向けてお手伝いします。ご相談の内容によっては関係機関や法律・会計などの専門家と連携し、無料で受けられる相談先をご案内します。
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Arts and Law
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