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印象派を紹介する画商に扮した、声優の速水奨さんにインタビュー!

音声ガイドのススメ

No.004

音声ガイドの制作者などにインタビューし、アートを「聴く」楽しみ方を掘り下げる本シリーズ。今回は東京都美術館で2024年1月27日(土)より開催中の「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」展で音声ガイドを担当する、声優の速水奨(はやみ・しょう)さんにインタビューしました。

魅力的な低音ボイスで数々のアニメのほか、洋画、CM、ナレーションなど幅広く活躍する速水さん。本展の音声ガイドでは「ある画商」に扮し、印象派がどのように生まれ海を渡っていったのか、展覧会に訪れる人たちを作品世界へ導きます。音声ガイドの収録を終えた直後の速水さんに、収録の感想、印象派への思いや本展で好きな作品、さらに都内でお気に入りのアートスポットについてもうかがいました。


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2024.02.06

100年前の光と風を感じるモネの《睡蓮》

──「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」はアメリカ・マサチューセッツ州にあるウスター美術館所蔵の印象派の作品がほぼ初来日ということで話題を呼んでいます。モネ、ルノワールなどフランスの印象派に加えて、ドイツや北欧の印象派、これまで日本で紹介される機会の少なかったアメリカ印象派の魅力にも迫る展覧会ですね。1898年の開館当初から印象派の作品を積極的に収集した同館と画商の間で交わされた、作品購入に関わる書簡(複製)等もあわせて紹介されることがたいへん興味深いです。まずは音声ガイドの収録のご感想からお聞きできたらと思います。

速水奨(以下、速水): 「印象派」は僕のなかでもおおまかなイメージしかなかったのですが、今回の仕事で触れたことで非常に身近に感じることができました。印象派は19世紀後半のパリに端を発していますが、誕生から約150年。僕の祖父の祖父くらいの時代に起こった芸術運動なんだなと、収録を通じて歴史に思いを馳せました。

「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」チラシ

──速水さんが演じたのは印象派に詳しい「ある画商」。役づくりに苦労されたことはありますか。

速水:そんなに苦労はなくて、自分が体験した記憶のように想像しながら挑むことができました。というのも、僕は原田マハさんの小説が好きなんです。原田さんは美術をテーマにした小説を多く書かれていますが、モネなどの印象派をはじめ、作品や画家、画廊が登場する物語もあります。小説を結構読んでいたので、今回の音声ガイドの世界感には親近感がわきました。収録は短い時間でしたけれど、僕自身が楽しい旅をしたような余韻に浸っています。

音声ガイドの収録を終えたばかりの速水奨さん。「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」のポスターの前で

──過去にも音声ガイドのお仕事をされていらっしゃいますが、今回のガイドはこれまでとの違いはありましたか?

速水:これまでナレーターとしてガイドをするという形が多かったのですが、今回は画商という「役」をいただいたことが大きかったです。あたかもその絵をご覧になる方の隣に存在しながら、「これはこういう作品なんです」とエスコートするようなキャラクターでした。ナレーションというよりも「演じる」ガイドだったので、自由度が増しました。

──本展のなかで、特に印象深い作品はありますか?

速水:たくさんありますが、一つはやっぱりモネの《睡蓮》(1908年)ですね。「睡蓮」のシリーズは中学生のときに美術の教科書で初めて見ましたが、そのときはぼやけた印象の絵だなという感じで、よくわからなかった。どちらかというと、レンブラントのように輪郭や陰影がくっきりしている作品がわかりやすくて好きでした。でも大人になって、こうして改めてモネの作品を見ると、そこに存在していたであろう光はもちろん、風までも感じて。素晴らしい絵だと思います。

クロード・モネ《睡蓮》1908年 油彩、カンヴァス ウスター美術館
Museum Purchase, 1910.26/Image courtesy of the Worcester Art Museum
モネがパリのデュラン=リュエル画廊で〈睡蓮〉連作を発表した翌年の1910年、ウスター美術館は本作を購入。モネの〈睡蓮〉を購入したのは同館が世界初

私たちの目がパレットになるシニャックの作品

──大人になってから印象派の良さを理解できるというお話、よくわかります。

速水:モネは晩年近くになると自らつくった「水の庭」で睡蓮を描き続けたそうです。この絵もその一つ。日本が好きだったというモネは、水の庭に日本風の太鼓橋もかけ、絵にして残した。モネが日本好きというのはなんだか誇らしいですし、親しみがわきますよね。

──そのほかにおもしろいと思われた作品はありますか?

速水:シニャックがいいなと思いました。点描画の画家ですが、絵具を混ぜるのは画面上ではなくて人の目。面白いですよね。黄色や青、ピンクといった鮮やかな色を目の中で混ぜて鑑賞する、その感覚が今見ても新しいなと。

ポール・シニャック《ゴルフ・ジュアン》1896年 油彩、カンヴァス ウスター美術館
Gift from the Chapin and Mary Alexander Riley Collection, 1964.27/Image courtesy of the Worcester Art Museum
印象派に衝撃を受けた画家の一人、シニャックによる南仏のリゾート地ゴルフ・ジュアンが遠景に見える作品。シニャックは新たな絵画の探究を続け、光学や色彩理論にもとづく点描技法を採用した

──普段は美術館に足を運ばれることもありますか。

速水:もともと古典美術やルネサンスなどは好きでよく鑑賞するんですけれど、最近は現代美術も見るようになりました。木場にある東京都現代美術館もいいですよね。

──印象に残っている展覧会はありますか。

速水:石岡瑛子さんの展覧会「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020年)は素晴らしかったです。好きだった映画の衣装を細部まで見ることができたり、逆に展覧会で出会った衣装から映画を見て「これを作られたんだ!」と感動しました。常設展で見た横尾忠則さんの作品も鮮明に記憶に残っています。横尾さんも子供のころはよくわからなかったけれど、いまではその思想がよく理解できる作家の一人です。

「ある画商」に扮する速水さん

──アートがお好きなんですね。ほかに都内でお気に入りのミュージアムやギャラリーはありますか。

速水:上野の国立科学博物館のシロナガスクジラ(館外展示)にはたまに会いに行きたくなります。実は化石をコレクションしているのですが、特にアンモナイトが好きで。よく博物館に見に行っています。

──ちなみに、音声ガイドは利用しますか?

速水:何年か前に利用したことはありますよ。でも仕事柄、音声のほうが気になってしまって作品に集中できなくなってしまうんですよね(笑)。

──速水さんの音声ガイドで見る展覧会は、100年以上前の世界を身近に感じ、鑑賞をより奥深い体験に導いてくれると思います。会場で作品を鑑賞しながら音声ガイドを聴くことがとても楽しみです。本日はありがとうございました。

Text: 佐藤恵美
Photo: 齊藤幸子

©️ Rush Style

速水 奨
Show Hayami

兵庫県出身、劇団青年座、劇団四季を経て声の世界へ。アニメーション、洋画、ナレーションに加えプロデュース、シナリオ提供も手掛ける。また朗読のライブやディナーショーなど、アーティスト活動も行う。
代表作/マクロスシリーズ(マクシミリアン・ジーナス)、ドラゴンクエスト ダイの大冒険2020(バラン)、本好きの下剋上(フェルディナンド)、BLEACH(藍染惣右介)、ホークアイ(ジャック・デュケイン)、仮面ライダーゼロワン(アークゼロ)。
X:@show_ism

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵
会期:2024年1月27日(土)~4月7日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
開室時間:9:30-17:30、金曜は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月・休)、3月11日(月)、3月25日(月)は開室
土曜・日曜・祝日及び4月2日(火)以降は日時指定予約制(当日空きがあれば入場可)
公式サイト:https://worcester2024.jp

オフィシャルサポーター:鈴鹿央士
音声ガイド:速水奨
https://worcester2024.jp/guide/

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