町工場をリノベーションした「蔵前4273+creative garage」(くらまえよんにーななさんクリエイティブガレージ/以下、蔵前4273)は、天井の高い開放的な空間。一見すると下町のおしゃれなカフェですが、展示や作品制作、またはオフィス代わりに利用できる場所です。寄席やダンス教室、音楽イベント、カートの試乗会などさまざまなイベントも開催しています。
「蔵前4273」が生まれたのは4年前。代表の大類将彦(おおるい・まさひこ)さんは、以前は恵比寿に事務所を構えていました。アーティストや音楽会社のプロモーションなど制作会社のディレクターとして仕事をしていた大類さん。これからは一方的に発信するのではなく、コミュニケーションのなかで面白いことを伝えていく仕事がしたい、と感じていました。
「人と人をつなぐ場をつくりたいと思い、地域のつながりを大切にしている下町に拠点を移しました。蔵前を選んだのは、共同経営者と話して、仕事柄出張が多いので空港に近いエリアということもあります。当初の予定では会議室として使うつもりでした。でもこの物件に決め、町会に挨拶したり近所の方々にも受け入れてもらったりするなかで、せっかくなら色々な人が集まれるオープンな場所にしよう、と。それで一階はカフェにして一般の方も自由に出入りできるようにしました」
蔵前の持つ風土に合わせ、自然とまちに開放された「蔵前4273」。現在は「クリエイターズメンバーシップ」という月額会員制度を設けています。入会すると、シェアスペースやレジデンスとして活用できる仕組みです。作品展示、イベント、プロモーションビデオの撮影、ファンとの交流会などさまざまな用途に利用されています。
うどんアーティスト・小野ウどんさんと電動木製カートの設計者・水嶋徹(みずしま・とおる)さんもこのメンバーです。同じクリエイターでも一見タイプの違う2人。「蔵前4273」で出会い、現在小野さんは水嶋さんにある仕事を依頼しています。うどんを打つリズムを、音楽と融合させるパフォーマンスで海外でも人気の小野さん。そのパフォーマンスで使用する特殊な台を、水嶋さんが設計中なのだそうです。
小野さんは、「蔵前4273」の魅力を「色々な人とのつながりができるプラットフォーム」だといいます。イベントや日々の作業のため「蔵前4273」に通うなかでメンバーの水嶋さんの仕事を知り、依頼に至ったそうです。
普段は機械設計を仕事にしている水嶋さんは、自身がデザイン・設計した電動木製カートの試乗会を「蔵前4273」で開いたばかり。この場所は「町工場だったこともあって、広くて使い勝手がいい」と話します。現在は電動木製カートのガレージやメンテナンスの場として、また展示や打ち合わせの場所として利用しています。
「都会のショールームに展示すると、通りかかる人がちらっと見るだけ、ということも多いですが、ここで展示すると道ゆく人が気軽に話しかけてくれます」
ある部品設計の緊急の依頼を受けたとき、大類さんに地元の町工場を紹介してもらい、そこで対応できたこともあったそうです。「産業基盤のあるまちだからこそ、柔軟にものづくりに対応してもらえた」と水嶋さん。
人脈が人脈をよぶ「蔵前4273」。つながりを生み出すコツを大類さんに伺いました。
「色々なクリエイターが利用してくれていますし、それぞれ得手不得手もある。だからイベントなどをこちらがオーガナイズするのではなく、メンバー自身がやりたいことをサポートするようにしています」
まちや人とのつながりを大事にし、用意するのは場所と仕組みだけ。その柔軟な姿勢によって、たくさんの化学反応が自然発生し、有機的なつながりや新たな創作を生み出しているようです。
(後編に続く)