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TikTokから始まった、新しいアートの仕事 耳で聴く美術館 avi さんインタビュー〈前編〉

アートのインフルエンサー

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「耳で聴く美術館」のaviさん。東京都現代美術館にて

個人がアートの魅力を発信する方法と、その影響力について取材するシリーズ「アートのインフルエンサー」。1回目は2021年からTikTokを中心に活動をスタートし、Instagram、YouTubeも含めると総フォロワー数50万人(2024年9月時点)を超えるアカウント「耳で聴く美術館」。落ち着いた声で、展覧会やアーティストの紹介をするショート動画が人気です。動画の中で語るのはavi(アビ)さん。学生時代に美術教育を学び、企業への就職、退職後のアルバイトなどを経てショート動画のクリエイターとして活動しています。前半ではその経歴とともに、動画制作の背景などを聞きました。


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2024.09.20

コロナ禍とTikTokの隆盛という時代の波

──「耳で聴く美術館」を見ていると、やさしい語り口で自然とアートの世界に引き込まれます。どのようなきっかけでこの活動をスタートされたのでしょうか。

私が活動を始めた2021年はコロナ禍で、行動制限があった頃でした。当時は美術館で働いていましたが、出勤が減り、やることもなく家にいて時間がたくさんありました。あるときTikTokをぼーっと見ていたら、映画紹介をしている人の動画がおもしろくて。観た映画の感想を語っている短い動画ですが100万回以上再生され、コメントもたくさん寄せられていました。個人の主観がこんなにも受け入れられることにまずびっくりして、「これならスマホ1台で私にもできるかも」と思ったのが、最初のきっかけでした。

──特別な機材がいらないのは挑戦しやすいですよね。動画の撮影や編集はスキルも必要かと思いますが、どうやって学んだのですか。

投稿を始めてから半年くらい経った頃、TikTokがクリエイターを支援するプログラム「TikTok creator academy」の1期生に選抜され、3カ月ほどオンラインで講座を受けました。講師はトップクリエイターばかりで、支援金をもらいながら動画のつくり方やSNSの運営方法を実践的に学ぶことができました。

──1期生に選ばれたということは、そのときにはすでにフォロワーがたくさんいたのでしょうか。

たしか半年で10万人くらいになりました。当時からInstagramとYouTubeは併用していましたが、一気にフォロワーが増えたのはTikTokでした。その頃は1件投稿すると、一晩で100万回再生されるようなこともあって。アルゴリズムの違いもあり、InstagramやYouTubeのショート動画と比較しても、短期間でフォロワーを集められるのが当時のTikTokでした。たまたま私はその波に乗れたのだと思います。

「耳で聴く美術館」を運用するaviさん。

苦しくならない仕事との出会い

──TikTokでなぜアートを発信しようと思ったのでしょうか。それまでの経歴も教えてください。

大学で美術教育を学んでいたので、もともと好きでした。美術の教員免許を取るために教育実習に行ったのですが、教壇に立つのが苦手で。教えることが向いていないと思ったんです。それで教員はあきらめ、就職活動をして鉄鋼会社に新卒で入社し、経理の仕事に就きました。月曜から金曜、朝9時から17時まで勤務という会社員生活を過ごしていましたが、だんだんと人生の時間を無駄に過ごしているように感じてしまって。「自分のやりたいことではないのに、1日の大半を費やすのはどうなのだろう」と。その不安や焦燥感にかられながらも3年近く働いた頃、鬱(うつ)っぽくなり、会社に行けなくなってしまいました。

──そのあと退職されたのですね。

20代後半でしたね。そこからは「好きなことを試そう」と、いろいろなアルバイトをしました。動物が好きだから動物病院で働いたり、体を動かすことも好きなのでジムでパーソナルトレーナーをしたり。そのなかで美術館でのアルバイトが一番自分に合っていました。TikTokを始めたのもその頃です。

──その後、TikTokのクリエイターに専念することになったのですね。美術館のお仕事を辞めてクリエイターに専念するのは勇気がいるのではないでしょうか。動画だけで食べていくための、ビジネス的な視点も気になります。

ショート動画は、Instagram、YouTube、TikTokとそれぞれ仕組みは違うものの、すべて動画が再生されることで収益があります。ただ、私の場合はそれだけで食べていくことは難しくて。やはり美術館や企業からお仕事をもらうことが大きな収入源になっています。TikTokを始めて1年くらい経ち、案件(企業からのPRの仕事)が増えてきました。そうするとアルバイトのシフトの調整が難しくなり、これはアルバイトを辞めないと案件をうけられないなというタイミングがきたんです。最近は動画の制作だけではなくて、美術館からの依頼で展覧会の音声ガイドをつくったり、ミュージアムを貸し切ってお客さんと鑑賞会するお仕事などもあります。

https://youtu.be/JJqw4y0JVlI?feature=shared
「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(森美術館、2024年)の紹介動画

どんなに忙しくても動画をつくり続ける

──定期的に動画をつくりながら、それ以外のお仕事もしていらっしゃるので、とてもお忙しいと思います。

最初の1年くらいはすべて一人でやっていて大変でした。三脚でスマホを固定して撮影したりして。いまは数名のチームで分業しながら動いていて、撮影も別のスタッフにお願いしていますし、書類作成や名刺管理もそれぞれ担当がいます。ただ、動画編集だけは人に任せられません。細かな編集での表現にクリエイターそれぞれの個性が出るので、これを外注してしまうと視聴者もそれまでの動画との違いに違和感を覚えてしまうため、委託できなくて。編集作業に専念できるよう、そのほかのことはなるべく人に手伝ってもらうようにしています。

──プラットフォームも複数ありますし、動画の編集だけでも大変な本数ですよね。TikTokはどのくらいの頻度で投稿されているのでしょうか。

いまは毎月15本前後だと思います。これはクリエイターあるあるなんですが、お仕事が増えれば増えるほど動画をつくる時間がなくなります(笑)。でも以前先輩に言われた「忙しくても動画をつくり続けなさい」という言葉が忘れられなくて。移動時間などを駆使してどこでもパソコンを開いて編集しています。完璧を目指しすぎず、8割くらいの完成度かなと思っても、まずは早く届けることを大事にしています。

https://youtube.com/watch?v=MlKdkauksuo
若手アーティストの紹介も

──展覧会や美術館の紹介だけでなく、初期の頃から若手アーティストへのインタビューなども積極的にされていますよね。美術のファンを増やすことだけではなく、つくり手側にも目をむけてもらう動画もたくさんあがっています。

いま日本ではすばらしい展覧会や作品をいつでも観ることができますが、それが続くためには次世代のアーティストが育たないと、という思いもあって。私たちが伝えることで、少しでも若手のアーティストが世の中に知られるきっかけをつかむことができればと、考えています。

Text:佐藤恵美
Photo:北浦敦子
撮影協力:東京都現代美術館

avi(アビ)

2021年から動画クリエイターとして活動。TikTokやInstagram、YouTubeのアカウント「耳で聴く美術館」で、展覧会情報や若手から近代以前の作家まで幅広く紹介する動画を発信する。大阪府出身。神戸大学発達科学部で美術教育を学び、教員免許と学芸員資格を取得。新卒で鉄鋼メーカーに3年勤めたのち、動物病院やギャラリーなどの勤務を経て独立。

TikTok  ⇨ tiktok.com/@mimibi301
Instagram ⇨ instagram.com/mimibi_art301/?hl=ja
YouTube  ⇨ www.youtube.com/@mimibi.art301

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