──TikTokでなぜアートを発信しようと思ったのでしょうか。それまでの経歴も教えてください。
大学で美術教育を学んでいたので、もともと好きでした。美術の教員免許を取るために教育実習に行ったのですが、教壇に立つのが苦手で。教えることが向いていないと思ったんです。それで教員はあきらめ、就職活動をして鉄鋼会社に新卒で入社し、経理の仕事に就きました。月曜から金曜、朝9時から17時まで勤務という会社員生活を過ごしていましたが、だんだんと人生の時間を無駄に過ごしているように感じてしまって。「自分のやりたいことではないのに、1日の大半を費やすのはどうなのだろう」と。その不安や焦燥感にかられながらも3年近く働いた頃、鬱(うつ)っぽくなり、会社に行けなくなってしまいました。
──そのあと退職されたのですね。
20代後半でしたね。そこからは「好きなことを試そう」と、いろいろなアルバイトをしました。動物が好きだから動物病院で働いたり、体を動かすことも好きなのでジムでパーソナルトレーナーをしたり。そのなかで美術館でのアルバイトが一番自分に合っていました。TikTokを始めたのもその頃です。
──その後、TikTokのクリエイターに専念することになったのですね。美術館のお仕事を辞めてクリエイターに専念するのは勇気がいるのではないでしょうか。動画だけで食べていくための、ビジネス的な視点も気になります。
ショート動画は、Instagram、YouTube、TikTokとそれぞれ仕組みは違うものの、すべて動画が再生されることで収益があります。ただ、私の場合はそれだけで食べていくことは難しくて。やはり美術館や企業からお仕事をもらうことが大きな収入源になっています。TikTokを始めて1年くらい経ち、案件(企業からのPRの仕事)が増えてきました。そうするとアルバイトのシフトの調整が難しくなり、これはアルバイトを辞めないと案件をうけられないなというタイミングがきたんです。最近は動画の制作だけではなくて、美術館からの依頼で展覧会の音声ガイドをつくったり、ミュージアムを貸し切ってお客さんと鑑賞会するお仕事などもあります。