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TikTokから始まった、新しいアートの仕事 耳で聴く美術館 avi さんインタビュー〈後編〉

アートのインフルエンサー

No.002
東京都現代美術館の1階中庭にて

TikTok、Instagram、YouTubeを中心にアートの魅力を発信する「耳で聴く美術館」のavi(アビ)さん。インタビュー後編では動画制作の裏側や、多くの人に届けるためのコツ、国内外のおすすめのミュージアムなどを掘り下げます。


(前編はこちら)

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2024.09.20

最初の1秒で目に留めてもらう

──aviさんの動画を見ていて、取り上げる作品や紹介するポイントはどのように決められているのだろう、と思いました。たとえば、依頼があって展覧会の動画をつくるときにも細かな要望があったりするのですか。

要望はほとんどなく「自由につくってください」ということが多いです。でもこれはアートに限ったことではなく、ショート動画のクリエイターには自由につくってもらう、というのが依頼側のマナーのようでして。クライアントが求めるものにこたえようとすると、個人の声で発信するというスタイルが崩れてしまうことがある。違和感が出ると、視聴者も「いつもと違う」と気づくのですよね。私が動画をつくるときに意識するのは、美術の知識がなくてもいかに興味をもってもらえるか、というポイントです。

──ショート動画ならではの短い時間のなかで伝えることが重要だと思いますが、工夫していることはありますか。

ショート動画って、見ているようで見ていないもの。次から次へとコンテンツが流れていくなかでいかに目に留まるかで、最初の1秒が肝心と言われています。私の場合は、美術に興味がない人にも、動画再生をとばされない工夫をしています。たとえば旅行の要素で入るとか、ファッションの要素で入るとか。自分の興味から入ったと思ったら、気づけば美術の世界にいた、というように。じつは私が戦っているのは、犬や猫の動画やお料理の動画なんです。

アートを通して、知らない誰かと話すこと

──目をひくために、ご自身のキャラクターづくりも工夫されていますか。初めて見たときはミステリアスな印象を持ち気になりました。

そうですね、初期の頃から意識していました。ショートヘアでジェンダーもはっきりしないような外見でしたし、偏りなくいろいろな方に見てもらえたというのはあると思います。視覚的な要素ですと、髪の色や洋服も展示に合わせて変えています。陶芸の展覧会では青い髪だと浮いてしまうので茶色にしたり、壁が白い会場では白に映える洋服を選んだり。髪は多少痛みますが(笑)、見る人がストレスを感じないような工夫をしています。

──ストレスという点では、美術作品のなかには過激な表現や繊細な問題を扱う作品も多いと思います。作品を取り上げるうえで、気をつけていることはありますか。

それぞれのプラットホームにガイドラインがあるので、たとえば裸体の表現など取り上げられないものもありますが、社会問題をテーマにした作品は積極的に取り上げるようにしています。国立新美術館の展覧会「遠距離現在 Universal / Remote」(2024年)に展示されていた、孤独死を扱ったティナ・エングホフの作品を取り上げた動画は反響が大きかったです。多くの人が考えやコメントを寄せてくれて、普段は誰にも話せないようなテーマでも作品を通して自分のことを話したり、意見を交わしたりできるのだなと思った出来事でした。そうした作品を取り上げるときは、自分の主観は入れず、美術館の資料をもとに解説をいれます。作家の思いが曲がって伝わらないように気をつけています。

「遠距離現在 Universal / Remote」(国立新美術館、2024年)の紹介動画
https://www.tiktok.com/@mimibi301/video/7359136876386618641?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7380152535971055105

aviさんおすすめのアートスポット

──たくさん展覧会を観ていらっしゃるaviさんですが、都内で印象的なミュージアムはありますか。

今日伺った東京都現代美術館はこれまでも行ったことがありましたが、中庭などのパブリックスペースを案内いただいて「こんな場所もあったのか」と驚きました。展示室に行って帰るだけではなく建物のなかを歩くのも楽しいですね。それから江戸東京たてもの園東京都庭園美術館はおすすめしたいです。特に庭園美術館の本館は、古い建築に作品が展示されますが、ホワイトキューブの展示室とはまた違う魅力があります。展覧会を観てから庭園を散策できるのもいいですよね。私も先日行ったときに「いい1日だったな」と思いながら帰りました。

東京都庭園美術館「旧朝香宮邸を読み解くA to Z」展の紹介動画:
Instagram:https://www.instagram.com/reel/C4AqRDayOrP/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==
TikTok:https://www.tiktok.com/@mimibi301/video/7341695682165673218?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7380152535971055105
※東京都庭園美術館の館内での撮影の可・不可については、展覧会ごとに異なります。

──そのほか国内外に広げると、おすすめのミュージアムはありますか。

長野県上田市にある美ヶ原高原美術館がすばらしかったです。長野に行く機会があって寄ってみたのですが、そのとき一面に霧が立ち込めていて。霧のなかから巨大な彫刻がバーッと現れるんです。『ハウルの動く城』のような、まるで映画の世界でした。動画も大きな反響をいただいて、その美術館に行ったときのエピソードを感想に書いてくれた人がたくさんいました。

──どのようなエピソードでしょうか。

「いまは半身不随で自由に動けないけれど40年前に行ったときにすごくよかったのを思い出した」とか「小さい頃に親に連れていってもらい、よくわからないけれど怖かった」とか。SNSを通して誰かの記憶につながれるのだなと、私自身にとっても印象的な経験になりました。それから最近訪れた所だと北海道のモエレ沼公園や、上海の浦東(プードン)美術館もおすすめです。美ヶ原高原美術館の開館は1980年代、モエレ沼公園の開園は1990年代(グランドオープンは2005年)。時が経つとメディアで取り上げられることが少なくなりますが、魅力的な場所はたくさんあるので再発掘のようなこともしていきたいです。

──最後に、今後の展望がありましたら教えてください。

一つは若手の作家をフォローしていくような活動と、もう一つは国内外問わずもっといろいろな地域の美術館や作品を発掘していきたい、というのがあります。そして海外に向けての発信にも力を入れていきたいですね。いま、フォロワーの多くは日本からですが、時々韓国や台湾の方もフォローしてくださっています。海外のフォロワーにも届くようなコンテンツを発信していけたらと思っています。

「耳で聴く美術館」を運用するaviさん。東京都現代美術館にて撮影

Text:佐藤恵美
Photo:北浦敦子
撮影協力:東京都現代美術館

avi(アビ)

2021年から動画クリエイターとして活動。TikTokやInstagram、YouTubeのアカウント「耳で聴く美術館」で、展覧会情報や若手から近代以前の作家まで幅広く紹介する動画を発信する。大阪府出身。神戸大学発達科学部で美術教育を学び、教員免許と学芸員資格を取得。新卒で鉄鋼メーカーに3年勤めたのち、動物病院やギャラリーなどの勤務を経て独立。

TikTok  ⇨ tiktok.com/@mimibi301
Instagram ⇨ instagram.com/mimibi_art301/?hl=ja
YouTube  ⇨ www.youtube.com/@mimibi.art301

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