大ホールに音楽が響きステージの幕が上がると、誰もいない舞台が現れました。色とりどりの照明と、さまざまな器具を吊り下げる「バトン」と呼ばれる装置が音楽に合わせて動きます。こうしたきらびやかな演出の裏に、どんな仕掛けがあるのでしょうか。ステージの謎を解く「東京文化会館バックステージツアー」が始まりました。
舞台の裏側をめぐる「東京文化会館バックステージツアー」
イベント・レポート
No.028オペラやコンサート、バレエなど多くのファンをひきつけてやまない「音楽の殿堂」、東京文化会館。その舞台裏を体感できるツアーが、年に数回不定期に行われています。60人ほどの定員がすぐに完売してしまう大人気の「東京文化会館バックステージツアー」をレポートします。
誰もいない舞台の上で
早速、普段は上がることのできない舞台上へと案内されると、専門スタッフから舞台装置や照明についての説明がありました。オペラやバレエ公演では場面ごとに幕が用意され、さまざまな舞台美術がほどこされます。「バトン」はそうした幕や大道具を支える大事な装置です。1本あたり900kgの重量に耐え、その動作はすべてコンピューターで制御されています。ならば天井の照明もコンピューターで動いているのかと思いきや、実は手作業でライトの向きを調整しているとのこと。天井から吊られた台に乗って、高所で作業をしています。
アーティストたちの50年間の軌跡
続いて舞台袖へ進みます。ここは公演を行った世界の名だたるバレエ団や歌劇団をはじめ、東京文化会館の舞台に立った数々の出演者たちによるサインで埋め尽くされています。一番古いサインは黄色いチョークで書かれた1967年のフィラデルフィア管弦楽団のもの。それから約半世紀の間、ここを訪れたアーティストたちの軌跡が見える唯一無二の貴重な壁です。
中心は指揮者にあり
オペラやバレエなどの公演で、オーケストラの楽団員が客席から見えない位置で演奏を行う「オーケストラピット」にも入りました。舞台上の出演者からピット内の指揮者が見えるよう、指揮者が立つ場所の背景だけ白く塗装がされていたり、左右の舞台袖に設置されたモニターで指揮者の動きが確認できるようになっていたりと、たくさんの工夫がされていました。
楽屋から舞台を思う
そして舞台袖を抜け、リハーサル室や楽屋、スタッフルームも見学しました。これらはすべて地下1階にありますが、同じフロアにまとまっていることで、忙しいスタッフにとって使い勝手がいいのも特徴です。シャワーとソファが完備された個室は6部屋、大部屋は9部屋。大部屋には洗濯機が設置できる衣裳スタッフ用の部屋もあります。海外からのツアー公演では、使い慣れた洗濯機を使用したい、とわざわざ持ち込む衣裳スタッフも少なくないとか。
熟練の技、スポットライト
次は、客席の5階にあるスポットライトの操作体験。大きく重量のある照明器具を両手で支え、階下の舞台に光を当てます。出演者の動きに合わせて照明を当てるのは一苦労。技術の習得に5年は要するほどの熟練技です。
ステージで拍手喝采を体験
そしていよいよ目玉イベントでもあるカーテンコール。舞台に立ち、出演者さながらの気分でカーテンコールを体験できます。手を繋ぎ、閉じたカーテンの後ろでスタンバイ。するとカーテンが開き、拍手と光が降り注ぎました。
コンサートで見せるもう一つの姿
一通り巡り終え、気づくと舞台には、奈落に格納されていた音響反射板が徐々に現れてきました。深い闇の世界を語源に持つ「奈落」。ですが東京文化会館の奈落に闇の印象はなく、真っ白で巨大な音響反射板を含めたコンサート用舞台を格納しています。その深さは約16m。幅は約21m、奥行き10mにも及びます。オペラやバレエの公演では姿を隠していますが、オーケストラなどの公演に備えてゆっくりとせり上がってきます。
特別な記憶が残る1時間半
こうして、光のあたる出演者や、裏方で舞台を支えるスタッフの仕事など、さまざまな「バックステージ」を巡る、1時間半のツアーがあっというまに終了しました。
今回初めて参加した、バレエの大ファンという女性にツアーの感想を伺いました。「これまで海外も含めていろいろなコンサートホールでバレエをみたり、バックステージツアーに参加したりしましたが、今日のツアーは特別楽しめました。特にカーテンコール体験は最高! 文化会館の出演者たちしか見ることのできない舞台裏にも行けて大感激です」。
「東京文化会館バックステージツアー」は不定期に開催しています。公式ウェブサイトをこまめにチェックして、ぜひご参加ください!
Text:佐藤恵美
Photo:中川周
東京文化会館バックステージツアー
日程:2018年4月18日(水)19:00-20:30
会場:東京文化会館 大ホール