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Instagram「建築とアートを巡る」坂田綾緒さんのiPhone撮影術〈後編〉

建築の不思議発見 目のつけどころ

No.002
Photo: 中川周

Instagram&ブログ「建築とアートを巡る」を運営する坂田綾緒(あやお)さんに、名建築での撮影のポイントをうかがう「建築の不思議発見 目のつけどころ」。後編では坂田さんと渋谷区立松濤美術館を撮影します。建築家・白井晟一(せいいち)による静謐な空間を、坂田さんはどのように切り取るのでしょうか。具体的な作例とともに解説してもらいました。


(前編はこちら)

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2025.02.04

渋谷区立松濤美術館は白井晟一(1905-1983)の晩年の作品で、1981年に開館。同じ白井の設計で同時期に開館した静岡市立芹沢銈介美術館とは共通点も多いそう。「松濤美術館の方が規模は小さいですが、魅力がギュッと詰まっています。同じ建築家によってつくられた建築を見比べることで、場所やテーマに応じて建築家が何を考え、工夫したかが想像できるのが楽しいです」と坂田さん。
館内の照明や、注意書きの立て札も、白井のデザインです。

オニキスの天井が美しいエントランス

Photo: 坂田綾緒

一階のエントランスを入ってすぐ、天然石のオニキスを使った天井は、芹沢銈介美術館と共通するものです。紅雲石の外壁、館内のde Sede(デセデ)社のソファも色違いの同じデザインを2館とも採用しています。坂田さんは早速カメラを構えます。
「天井とともに正面のアーチも入れて、引きで撮ると空間が広く見えますよ」

噴水のある吹き抜けとエンブレム

Photo: 中川周
Photo: 坂田綾緒

楕円形の吹き抜けから、隣のマンションの頭がのぞきます。このマンションは日本のガウディと称される梵寿綱(ぼんじゅこう、1934-)が、まだ田中俊郎と名乗っていた時代の作品「シャンボール松濤」です。「スッキリと空間を見せたい人には邪魔と思われるかもしれませんが、竣工は松濤美術館のほうがあとです。名建築家の時空を超えたコラボレーションとして楽しみたいですね」

Photo: 坂田綾緒

ブリッジのフェンスにはエンブレムがあり、中央には「SHOTOH」と刻まれています。親和銀行(現在の十八親和銀行)にも似た装飾があるそうです。エンブレムは白井のデザインではないとのこと。

松濤美術館の京都

Photo: 坂田綾緒

エレベーター前の円形窓からは、モミジと白い砂利の植栽が見えます。Pタイル(プラスチック樹脂を原料とした単層タイル)の床の反射も一緒にフレームに収め、カメラのレンズを下向きにして、床につけて撮影します。

Photo: 中川周

「水面など反射のある床面で効果的です。視線を下げるローポジションは、小津安二郎の映画のような雰囲気も出ますね」

Photo: 坂田綾緒

螺旋階段にある照明も印象的ですが、建てられた当初はもっと照明を暗く設定して、洞窟のような雰囲気だったそうです。
「上からのぞいたアングルも来るたびに撮るので、1000枚くらい写真がありますね」。

Photo: 中川周
Photo: 坂田綾緒

普段は作品に日光が当たらないよう、窓にカーテンがかかっています。展示によってはカーテンを開けるそうで、「今日はラッキーですね」と嬉しそうな坂田さん。吹き抜け側にカメラを向けると、複数の窓の反射で面白い写真が撮れました。

ハマスホイ・ポイント

Photo: 坂田綾緒

淡い光と鏡の組み合わせが、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイの絵画のような一枚です。
「普通は美術館に鏡なんてありませんよね。そこに白井の主張の強さが表れています」。

Photo: 中川周
Photo: 坂田綾緒

2階は2009年頃まで喫茶室として使われていました(現在は終了しています)。坂田さんも利用したことがあるそうで、「絵をみながらケーキやお茶をいただけるのが最高でした」とのこと。ベルベットの壁面にローズウッドの梁と、こちらも美術館にしては主張が強めです。

蛇口の謎

Photo: 中川周
Photo: 坂田綾緒

外にひっそりとある蛇口は、1954年に竣工した前橋の書店「煥乎堂(かんこどう)」の入口にあったのと同じものです。表には「清らかな泉」とラテン語で書かれ、裏には白井のサインと煥乎堂の竣工年が刻まれています。館内建築ツアーにも何度か参加している坂田さんは、ツアー時に初めて水が出ているのを見て驚いたそうです(※現在、水は出ません)。

最後に坂田さんに、松濤美術館の周辺でおすすめの建築をお聞きしました。
「梵寿綱のマンションや、視覚障害者のための手で見るギャラリーとして設立された「ギャラリーTOM」(内藤廣設計)など、建築家の初期作品を見ることができます。鍋島松濤公園には「THE TOKYO TOILET」プロジェクトで隈研吾がデザインしたトイレもありますよ」。
松濤美術館でアートを鑑賞したら、こちらにもぜひ訪れたいですね。

坂田綾緒さん 渋谷区立松濤美術館前にて
Photo: 中川周

Text:浅野靖菜
撮影協力:渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
住所:東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:10:00–18:00(金曜は20:00まで、公募展・サロン展期間中は9:00-17:00 最終入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝休日は開館し翌平日休館)、展示替期間、年末年始など
入館料:展覧会によって異なる
https://shoto-museum.jp

坂田綾緒(さかたあやお)
東京出身。多摩美術大学卒業後、現代美術のプライマリギャラリーやアーティストの個人事務所、インテリアデザインの設計事務所などに勤務。都内を中心に、これまでに10,000近くの展覧会を鑑賞。自身で巡った“建築とアート”について、Instagramアカウントと鑑賞者目線のブログを綴っている。Threadsでは階段愛好家。
https://www.instagram.com/_saaaaaoo_

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