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会話というアートの楽しみ方を提供する移動式カフェ「COFFEE PERSON」

アートのインフルエンサー

No.003
COFFEE PERSON(コーヒーパーソン)店主の藤田孝之さん

アートの魅力を発信する人に焦点を当てたシリーズ「アートのインフルエンサー」。今回登場いただくインフルエンサーは、有楽町駅前、丸の内仲通りの一角に出店する移動式カフェ「COFFEE PERSON(コーヒーパーソン)」の店主の藤田孝之さんです。藤田さんのキッチンカーのカウンターには、美術館のチラシやカードが整然と置かれています。その様子はまるで美術館やアートギャラリーのラックのよう。藤田さんはドリンクを提供しながら、自発的にアートの魅力を伝えています。藤田さんのアートとの出合いからたどります。


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2025.03.04

人生を変えたフランスでのアート体験

大手町から有楽町をつなぐ、丸の内仲通り。レストランやアパレルショップなどが並ぶこの通りは、ランチタイムには歩行者に解放され、ビジネスパーソンや買い物を楽しむ人でにぎわいます。この通りに週4日ほど不定期に出店するのが「COFFEE PERSON(コーヒーパーソン)」です。トゥールーズ=ロートレック、アンディ・ウォーホル、佐伯祐三、黒田清輝、アルフレッド・シスレーなど、キッチンカーの車内には近現代のアート作品のポストカードが飾られています。コーヒーを買いにくるお客さんが気づいて「このあいだ展覧会で、この絵を観ましたよ」と話しはじめることも。すかさず店主の藤田さんは「僕も行ってきたんです」と展覧会の情報交換や感想を伝えはじめます。ポストカードは、お客さんとの会話のきっかけ。「これが僕のアートの楽しみ方」と藤田さんはいいます。

平日の丸の内仲通り

10代から飲食業界で働いてきた藤田さん。アートと本格的に出合ったのは26歳の頃でした。海外の有機農業を体験するため、国際NGOのウーフ(WWOOF)が行う「ワークエクスチェンジ」という制度を使い、単身でフランスの地方都市で香水のメッカと呼ばれるグラースの農家へ。3カ月ほどのフランス滞在で数日間訪れたパリでは、せっかくきたのだからと、「カルト・ミュゼ」というパリのミュージアムをまわるフリーパスを購入。ワインや料理には詳しかったものの、それまで美術には興味がありませんでした。それでも美術館めぐりを決行したのは、数千円で何十館ものミュージアムを回れるお得さから。しかし、これが転機になりました。

藤田流・アートの学び方

当時は2000年代初頭でスマホもない時代。電子辞書を片手に展覧会を観ながら、気になった作品のタイトルや解説を翻訳し、ひたすら手元でメモをしました。
「作品のタイトルを日本語に訳してもよくわからない。絵をじーっと見て『何を意図して描かれた作品だろうか』と自分なりに考える。気になった作家は生年や没年をメモして、何歳の頃に描かれた絵かを調べてその人生を想像したり。それが面白かったんですよね」
そうして夢中で美術館を巡りました。なかでも印象的だったのはロダン美術館。「作家の名前を冠した美術館は、作品とともにその生涯を追えるのがいいですね」と振り返ります。フランス人の芸術の楽しみ方や豊かな時間の使い方を体感したことは大きな財産となりました。

一番人気の「コーヒーパーソンブレンド」。一杯ずつハンドドリップでいれている

帰国後、飲食関係の仕事を続けながら農業を目指すものの、東日本大震災の影響もあり断念することに。その後、今の仕事を始めたのが2016年でした。「パティシエである妻の影響や、自宅の駐車スペースを生かすことを考えて、移動販売のコーヒー屋をやってみるのはどうだろう」と最初は小さな軽自動車からスタートしました。始めてみると「とにかくお客さんとの会話が楽しかった」そうです。

薫りたつバランスの良いブレンドで、冷めても美味しいように抽出をしている

丸の内仲通りへも出店していたなかで、近隣の美術館に勤める人たちとの出会いもありました。フランスで美術館巡りをした話をきっかけに、展覧会の案内をもらったり、チラシを店先に置いたりするようになりました。
「美術館の方に、観た展覧会の感想を話すと『そういう見方もあるのですね。そんなふうに感じてもいいと思いますよ』と返してくれたことがあって。それがうれしかったんです。アートを勉強したわけでもない自分の視点を伝えてもいいんだ、と思いました」
そうして、訪れた美術館のポストカードを買っては車内に飾るようになりました。

車内に飾られたポストカード

アートを通した会話から

丸の内は、三菱一号館美術館、静嘉堂文庫美術館、出光美術館のほか、足をのばせば東京ステーションギャラリーやアーティゾン美術館などもあり、アートが集まるエリア。アートが好きという学生のお客さんには「アーティゾン美術館は撮影できる作品が多いですよ」とすすめたり、遠方からのお客さんとは「東京ステーションギャラリーの展示は巡回しているそうですね」と盛り上がったりと、相手の思いをくみながら会話をします。「お客さんとの話から自分自身が学ぶことが多くて、それが楽しいんです」と藤田さんは話します。

近隣の美術館スタッフと話す藤田さん。コーヒーパーソンの出店日をインスタグラムで毎月チェックして買いに来る。アートの話だけでなく、近隣のおいしいお店情報も交換しているそう

藤田さんは日本語に限らず、各国の言葉でお客さんと挨拶を交わします。簡単なあいさつ程度なら40カ国語は話せるとのこと。
「英語はほぼ独学でしたが、会話を積み重ねるうちにだいぶ話せるようになりました。他の言語は、お客様に『あなたの国での挨拶はどんな感じ?』と聞いたり、その国で有名なものを尋ねて、メモして覚えます。メモを見返して、一つのセンテンスでもスムーズに伝わるまで体に染み込ませるように覚えます。私は積み重ねていくことが好きなんです。積み重ねることによってしか見えない景色があると考えています。その景色のことを考えると、とてもワクワクします」
人とアートを美味しいコーヒーでつなぐ藤田さん。藤田さんのキッチンカーを有楽町で見かけたら、ぜひドリンクとともに会話も楽しんでください。

暖かい季節、屋外で飲むなら「アイスココア」も絶品

Text:佐藤恵美
Photo:桧原勇太

藤田孝之(ふじた・たかゆき)

キッチンカー「COFFEE PERSON(コーヒーパーソン)」店主。1990年頃、10代より飲食業界に身を置き、国内外の農家や飲食店、ホテルなどでの勤務を経験したのち、2016年よりコーヒーの移動販売を始める。金曜から月曜を中心に週に4日ほど丸の内仲通りに出店。
出店場所や時間はインスタグラムをチェック。

ウェブサイト ⇨ https://www.coffeeperson-tokyo.com/
Instagram ⇨ https://www.instagram.com/coffeeperson_tokyo/

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