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CHANGE ヘルス・グラフィックマガジン

フリーペーパーの世界

No.001
『ヘルス・グラフィックマガジン』の表紙

インターネットでの情報収集が主流になった現代、多くの雑誌メディアは電子化に舵を切っています。そのようななか、あえて紙で情報を発信するフリーペーパーが数多く存在します。インターネットや市販の雑誌とは異なる誌面には、ものづくりへの愛情や、こだわりのデザインなど、独特の見どころがあります。フリーペーパーのディープな世界を探るシリーズの1回目は「CHANGE」をテーマに、業界のイメージを変えることに挑戦するフリーペーパーを紹介します。第1回目は、健康や医療に関する専門的なテーマでありながら、遊び心の効いた表紙のアートワークが目をひく『ヘルス・グラフィックマガジン』。2015年度にグッドデザイン賞を受賞した本誌は、年4回のペースで38号(2020年9月現在)まで発行されています。発行元である株式会社アイセイ薬局で、編集長を務める門田伊三男(かどた・いさお)さんにお話をうかがいました。


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2020.09.30

専門的な知識を、グラフィカルに伝える

『ヘルス・グラフィックマガジン』の表紙

――『ヘルス・グラフィックマガジン』は、「高血圧」「めまい」「花粉症」といった、健康に関するテーマを豊富な写真やイラストで紹介する、目に楽しい情報誌となっています。創刊は2010年ですが、なぜ発刊に至ったのでしょうか。

門田伊三男(以下、門田):弊社は全国に展開する調剤薬局ですが、薬の提供に限らず、健康に関するイベントや店舗のサイネージなど、予防医療やセルフケアに役立つ情報発信も行っていました。そのなかで、調剤の待ち時間に読める冊子をつくるのはどうかというアイデアが出て『ヘルス・グラフィックマガジン』につながりました。そこで最も重視したかったのは手に取ってもらうこと。医療情報は大切なことを正確に伝えようとするあまり、難しそう、つまらなそう、という印象にもなりかねません。まずはインパクトのある表紙で目を引いて、本文は専門知識をなるべくグラフィカルに伝える、というのが創刊からのコンセプトになります。

『ヘルス・グラフィックマガジン』が置かれている薬局のラック

――正方形という判型も特徴的ですよね。

門田:その形になったのは2つの理由がありまして、薬局で配るので薬を入れる袋に収まること。もう一つは、グラフィック的に表現の幅が広がることです。

――専門的な情報をグラフィカルに伝えることには、技術が伴うと思います。その制作のプロセスを知りたいのですが、どのように進められているのでしょうか。

門田:編集長になる前、私は広告制作会社でアートディレクターの仕事をしていましたので、ビジュアルコミュニケーションは専門領域です。弊社では同じ部署のデザイナー、そのほか外部のデザイン会社やコピーライターとチームをつくり、編集とデザインを担っています。

最初にテーマを決め、各ページの企画と構成はいろいろな文献をもとに企画会議で決めていきます。必ず大学の先生などに監修をお願いしているので、監修者に取材した精度の高い内容を元に記事をつくり、同時に表紙を検討します。表紙はデザイン制作会社がラフを用意し、そこから会議でブラッシュアップすることが多いです。私が考えた案もあれば、進行管理の担当者のアイデアが採用されることもあり、垣根を超えてみんなでアイデアを出し合います。

見開きごとに印象が変わり、めくる楽しさがある

健康情報を、無料で直接手にとれることの重要性

――これまでの表紙案で、門田さんの特に印象に残る号はありますか。

門田:どの号の表紙もお気に入りですが、私がアイデアを出したなかでは「高血圧」が印象的ですね。高血圧は、心臓から送り出される血圧が高いことで動脈に負担がかかり、血管のしなやかさが失われて動脈硬化が進み、心不全や脳卒中などのリスクを高めてしまいますが、そのメカニズムを心臓=トランペットを強く吹く人、血管=トランペットで表しています。インパクトは大切にしていますが、医学的な事実とも矛盾がないように配慮していす。よく見ると、トランペットが傷ついているところにもこだわっています。

「高血圧」特集の表紙(左)と本文(右)
  
編集会議の様子

――これまでの読者からの感想で印象的なものがあれば教えてください。

門田:この10年で、読者プレゼントの応募ハガキがたくさん届き、ご感想も寄せていただいています。デザイン面で評価をいただくことも多いですし、健康情報が役に立ったというご意見もいただきます。個人的に嬉しかったのは、70代~80代の方からの「大変参考になりました」「わかりやすかったです」という言葉です。媒体のイメージとしては若年層向けですが、高齢者の方にも好意的に受け取っていただけているのは、嬉しく励みになります。やむをえず本文は小さい部分もありますが、そのぶんキャッチコピーや見出しだけで、ある程度の情報が伝わるように工夫しているからかもしれません。

――10年続く、秘訣のようなものはありますか。

門田:読者のみなさまの感想や、2015年にグッドデザイン賞に選ばれるなどの実績もあり、社内でも重要度が認知されてきています。薬局の店舗でも、この媒体をきっかけに患者さんとのコミュニケーションが生まれた話も聞きました。採用面でも、他社との差別化が難しい調剤薬局業界ですが、こうした取り組みが注目につながることもあります。発刊当初は社内でも「薬局らしくない」といった厳しい声もあったようですが、社外での評価や効果によって、徐々に理解が深まっています。

――最後に、フリーペーパーの魅力について、どのように思われますか。

門田:デジタルにふらず、あえて紙にこだわるのは、私たちがコミュニケーションをとりたい相手が幅広い年代の方々だからということがあげられます。すべての方に関係する健康の情報を、無料で直接手にとれることが私たちにとって大事で、そこに魅力があると考えています。

株式会社アイセイ薬局コーポレート・コミュニケーション部部長で『ヘルス・グラフィックマガジン』編集長の門田伊三男さん

■『ヘルス・グラフィックマガジン』株式会社アイセイ薬局発行
・創刊年:2010年9月
・年4回発行
・本文頁数:22頁
・判型:200×200mm
・発行部数:15万部
・URL:https://www.aisei.co.jp/magazine/

CHANGEな3冊
その分野が持つ従来の印象とは異なる見せ方で、建設機械、まち、仏教などの魅力を多角的に伝える全国のフリーペーパーを紹介。

■『ガジラ通信』株式会社タグチ工業発行

岡山県に本社を置く建設機械アタッチメントのメーカー、タグチ工業が社内報として創刊。写真やイラストを交えた技術研究・商品の解説や、マンガによる営業所探訪のほか、連載小説、4コママンガ、映画コラムなど、社員ではなくても楽しめる内容が評判となり、徐々に部数をのばした。建設機械の写真を、ザラっとした柔らかい紙に印刷するなど、ビジュアル面も工夫されている。
・創刊年:2015年9月
・年4回発行
・本文頁数:20頁(変動)
・判型:250×186mm
・発行部数:3千部
・URL:https://www.taguchi.co.jp/guzzi-tsu/

■『やくならマグカップも』株式会社プラネット発行

岐阜県多治見市の有志や企業により、地域おこしの一環として制作されるフリーコミック。舞台は高校の陶芸部。主人公の豊川姫乃が、脱サラした父親と二人で亡き母親の故郷である多治見市に引っ越したところからスタートし、陶芸部の仲間と物語を展開していく。表紙など随所に多治見市の名所が描かれている。2021年、テレビアニメ放送予定。
・創刊年:2012年2月
・年4回発行
・本文頁数:30頁(変動)
・判型:B5サイズ
・発行部数:5千部
・URL:http://yakumo-tajimi.com/dl.html

■『フリースタイルな僧侶たち』フリースタイルな僧侶たち 発行

宗派を超えた僧侶と、仏教文化の持つ豊かな可能性を見出す人たちのコミュニティ「フリースタイルな僧侶たち」によるフリーマガジン。僧侶や仏教の従来のイメージを脱却し「フリースタイル」に伝えていきたいと創刊。お参りの記録共有サイト創設者のロングインタビューや、仏教とマンガをテーマにしたマンガ家による対談の特集など。読み応えのある内容に引き込まれる。
・創刊年:2009年8月
・年4回発行
・本文頁数:14頁(変動)
・判型:A4サイズ
・発行部数:1万5千部
・URL:https://freemonk.net/magazine/
※各データは2020年9月現在。
※上記のフリーペーパーは、フリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER TOKYO」にて入手できます。(在庫がない場合もございますのでご了承ください)

ONLY FREE PAPER TOKYO
無料で配布されるZINE、リトルプレス、インディーズマガジンといった全国のフリーペーパーを多数置いている。
住所:東京都目黒区中目黒3-5-3 Space Utility TOKYO内
TEL:03-3792-2121
営業:13:00-20:00/日、月、火休(イベント開催時の日曜は営業)
http://onlyfreepaper.com/

選書・監修:松江健介(ONLY FREE PAPER)
Text:佐藤恵美

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