20〜30代が数多く参加したトークショーは、"お散歩スナップ"をテーマに、千倉さん流スナップ撮影の楽しみ方と、デジタル一眼レフカメラを使いこなすための技術的なポイントの2部構成で行われました。
千倉志野さん(右)の解説を聞きながら、作品を熱心に見る参加者の皆さん。
まずイントロダクションとして、千倉さんが日頃仕事で持ち歩いているカメラバッグを披露。一般にプロのフォトグラファーが持ち歩く機材は10kg以上、多くなると20kg以上とも言われますが、千倉さんはクッション入りのリュックサックひとつという身軽なスタイル。一眼レフカメラと替えのレンズ1、2本があれば、大抵の撮影は事足りるそうです。 「私はポートレート撮影でも三脚などは持って行きません。タイマーで記念撮影をしたい時も、ベンチや塀など周りにあるものを上手く使えば、いくらでも三脚代わりになりますよ。屋外で写真を撮る時は、身軽に動き回れるのが一番です」
さらにプライベートでは一眼レフカメラをそのまま"背負って"自転車で出かけることも。愛用している伸縮自在のストラップは「丈夫で長さを素早く調節でき、背中にピタッと固定できるので、走行中も邪魔にならず便利」だそうで、千倉さんが実物を見せて説明すると、参加者の皆さんは興味深そうに見入ってしていました。
では、お散歩感覚で一眼レフカメラを持ち歩くと、どんな写真が撮れるのでしょう。千倉さんが連載を担当する都内アートイベントの情報誌『ART NEWS TOKYO』で撮影した東京ゲートブリッジの写真を例に説明しました。
「この時は橋のふもとからスタートし、橋を至近距離で下から仰いで撮ったり、釣り人の姿や釣った魚を撮らせてもらったりしながら歩いて行きました。出会った人との会話や、そこから生まれる表情や光景を撮れるのも、お散歩スナップの魅力。途中でレンタサイクルを発見したので自転車を利用したのですが、移動範囲がぐんと広がり、遠距離から橋の全景を撮ることもできました。自転車に乗ると徒歩の時とは目線が変わるので、その違いも面白いですね」 また、金網越しに撮った橋の全景写真では、「邪魔だと思うものをあえて入れてみるのもひとつの手。ピントを橋に合わせれば、手前の金網はぼやけるのでうるさく見えず、構図のいいアクセントになります」とアドバイス。被写体だけに捉われず、身の回りにあるものを上手に活かすことも一眼レフでスナップ撮影を楽しむ秘訣のようです。
 金網を構図に活かして東京ゲートブリッジを撮った千倉さんの作品。『ART NEWS TOKYO』にも掲載され反響を呼んだ。
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テーマを決めると、お散歩スナップはもっと楽しくなる! |
お散歩スナップをより楽しむために千倉さんがおすすめするのは、撮影テーマを設けること。
「最初はテーマがなくてもかまいません。心惹かれるものを撮り続けていけば、後でその写真を見返した時に自分がどういうものが好きなのかわかってくると思いますし、私もそうでした。テーマが見つかると、何気ない光景や見慣れた風景も違う目で見られるようになりますよ」
そこで、千倉さんがライフワークとして撮り続けている「自転車」や「人」、「レトロ」、「ブルー」をテーマにした作品を紹介ながら、視点や見どころを解説。たとえば「自転車」なら、アスファルトの木漏れ日と自転車のタイヤ、サイクルショップ、自転車柄のファブリックなど、必ずしも自転車そのものにこだわる必要はないのだそうです。
テーマは同じ『自転車』でも、切り口を変えるとこれだけ作品に変化が生まれる。
「テーマを柔軟に捉えてちょっと目先を変えた写真を混ぜると、ひとつのシリーズとして見た時にメリハリがついて楽しさが増します。色にばかり目が行きがちな『ブルー』のテーマも、空や海だけでなく人も一緒に撮ることで、風になびいた髪や服などから色以外のものも伝えることができます」
さらに、雨の渋谷で撮ったというスナップ写真も紹介。雨の日は傘や水滴、ガラス越しに滲んだ信号など、雨天ならではのモチーフや光景に出会えるだけでなく、「晴れの日とは"色温度"が違うため、青みがかった雰囲気のある写真になるのが魅力」と千倉さん。常日頃から一眼レフを持ち歩いているからこその多彩な写真に、参加者の皆さんも熱心に見入っていました。
濡れた路面の反射や傘の彩りは雨の日ならでは。晴れの日には見られない青みがかった色調も美しい。
後半はいよいよ、しぼりやシャッター速度などテクニックの話題へ。その内容は次回たっぷりとお伝えします。
インタビュー・文/杉瀬由希
千倉さんの写真連載が掲載されているART NEWS TOKYOはこちらからご覧になれます。 http://www.rekibun.or.jp/promotion/press.html
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