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イベント・レポート
No.060
東京都現代美術館 あそびのじかん

2019.9.11

子供の頃は当たり前だった遊び。大人になると、気づけば遊びは日常から遠のいている気がします。東京都現代美術館ではこの遊びに注目した企画展「あそびのじかん」を2019年10月20日まで開催。6組のアーティストによる作品をとおして、大人も子供も楽しめる展覧会です。ゲームのような作品を体験したり、迷路のような場所に迷い込んだり。遊びから生まれる好奇心やアイディアは、この時代を生き抜く創造力につながるかもしれません。夏休み半ば、来場者で賑わっていた展覧会をレポートします。

《ポジティブな呪いのつみき》

美術館に現れた、巨大な壁と迷路

2019年春にリニューアル・オープンした東京都現代美術館。カフェ、レストランが新しくなったほか、エレベーターの増設や授乳スペース、こどもとしょしつの新設など、いろいろな人が過ごしやすい美術館に生まれ変わりました。
「あそびのじかん」展のメインエリアは1階の展示室。一つ目の部屋では、タンスを積み上げた巨大な壁が立ちはだかります。カラフルなホールドがついていて、一見ボルダリングジムのよう。のぼりたくなるような壁ですが、作品のタイトルは《受験の壁》。なんだか気が重い壁です。

開発好明《受験の壁》。安全のため、登れるのは1段目のみ
開発好明《受験の壁》。安全のため、登れるのは1段目のみ

開発好明《受験の壁》の迷路コーナー。迷路の壁には難問が……
開発好明《受験の壁》の迷路コーナー。迷路の壁には難問が……

作者の開発好明(かいはつ・よしあき)さんは受験のプレッシャーを「家」を象徴するタンスで表現しました。良い家庭をつくるために、良い就職をするために、良い学校に行く。小さい頃から「家」を背負う子供たちをタンスの壁は表しているのかもしれません。壁はのぼることもできますが、高さ5メートルにも及び、とても越えられる高さではないので、今回は特別に「裏口入学」をして向こう側に行くことができます。壁の向こうがわには、難問が書かれた迷路が広がっていました。

「あそびのじかん時計」をつくるダメパンダ。この日は、全日本だるま研究会公式キャラクター・山田るまも遊びにきていた
「あそびのじかん時計」をつくるダメパンダ。この日は、全日本だるま研究会公式キャラクター・山田るまも遊びにきていた

この日は開発さん扮する「ダメパンダ」(会場には不定期に登場)にも遭遇。貧乏くじびきやサイン会、卓球などを来場者と一緒に遊んでくれるパンダです。「僕は達成感のないことをするパンダです」と言い、「あそびのじかん時計」をつくるというダメパンダ。来場者の女性に「遊びたい時間は何時?」と聞き「夜の22時」と答えると、ダメパンダは「さすが! 大人ですね」と言いながら22時を指す時計を描き、女性に渡します。この時計は遊ぶ時間しか表示しないのです。

一緒に作品をつくる、自由な展覧会

次の部屋の作品は野村和弘さんの《笑う祭壇》です。床に散らばる無数のボタン。そのなかの小さな台座に向かってボタンを投げて載せる、参加型の作品です。ボタン投げに挑戦できるのは小皿2杯分まで。これがなかなか難しく、成功する人はごくまれだそうです。その低い確率にかけながら、ボタンを投げていると、いつの間にか夢中になり時間を忘れてしまいます。日々床に増えていくボタンは、みんなの失敗でできあがった一つの絵画と言えるかもしれません。

野村和弘《笑う祭壇》
野村和弘《笑う祭壇》

ハンバーグ隊《今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることは♾でしかない》。エクササイズマシーンに取り付けられたモニターが、赤、青、緑の色面を壁に投影している。そのほか、映像作品や美術館の館内放送をジャックする作品なども。
ハンバーグ隊《今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることは♾でしかない》。エクササイズマシーンに取り付けられたモニターが、赤、青、緑の色面を壁に投影している。そのほか、映像作品や美術館の館内放送をジャックする作品なども。

作家の顔をかたどったお面をデコレーション
作家の顔をかたどったお面をデコレーション

タノタイガ《タノニマス》。壁には作家の顔をかたどったお面がずらり
タノタイガ《タノニマス》。壁には作家の顔をかたどったお面がずらり

ハンバーグ隊の新作《今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることは♾でしかない》は、メンバーのあいだでSNSのグループチャットを活用してつくられたユニークな制作プロセスの作品群。 ハンバーグ隊の部屋を過ぎると、壁一面に同じ顔をしたお面が並びます。タノタイガ《タノニマス》は、壁にあるお面を自分でデコレーションできる作品。タノタイガさんの顔をかたどった同じ顔を思い思いに彩るワークショップは毎日大人気です。
また、言葉との関わりを軸に活動するアートユニット、TOLTA(トルタ)の部屋では、《ポジティブな呪いのつみき》で遊ぶことができます。前向きな言葉が書かれた積み木を組み合わせて、文章をつくります。

TOLTA《ポジティブな呪いのつみき》
TOLTA《ポジティブな呪いのつみき》

「そばを食べる」「パパといっしょにあそぶと」「肺が傷ついても」「ヒゲをのばせる」という言葉を並べた男の子。一緒に参加したお父さんは「自分でつくると整合性のとれた文章をつくろうとしてしまうけれど、子供がつくると思いもよらない表現が出てきますね」と話します。

うしお《不如意の儀》。ところどころに置かれた台座にはジェンガやカードゲームなども。古代ギリシャの歴史家・ヘロドトスの著書にある「貨幣を発明したと言われているリュディア人が、食糧危機の時代、1日はゲームだけをし、1日は食事をする生活を18年続けていた」という話もコースの途中に登場し、遊びの歴史に思いを巡らせる
うしお《不如意の儀》。ところどころに置かれた台座にはジェンガやカードゲームなども。古代ギリシャの歴史家・ヘロドトスの著書にある「貨幣を発明したと言われているリュディア人が、食糧危機の時代、1日はゲームだけをし、1日は食事をする生活を18年続けていた」という話もコースの途中に登場し、遊びの歴史に思いを巡らせる

最後の作品はうしおの《不如意の儀》。枝分かれしたコースに11個の作品が置いてあるインスタレーションは、遊びの歴史に注目した作品です。遊びながらコースをめぐるうちに、どのように遊びが展開してきたのか、遊びとは何か、という考えに出会います。
6組の作品をみたあとは、3Fへ。ここでは休憩をしながら、丸いうちわを使ってアイディアを共有することができます。「新しい遊びを開発しよう」「今好きな遊びをおしえてね」「(あ)(そ)(び)で作文してみよう」などの質問が書かれたうちわに答え、壁に貼ったり、参加アーティストのインタビュー映像を見たり。「遊び」にまつわるさまざまな記憶やアイディアが飛び交う場所です。
アーティストの作品を通して遊び、考え、楽しむ「あそびのじかん」展。ぜひ6組のアーティストにヒントをもらいながら、自由な「あそびのじかん」をお過ごしください。

休憩コーナーにて。壁に貼られたさまざまなアイディアを見ながら「これ、おもしろいね!」と話す男性が指さす先には、8歳の子供が書いた作文がありました。「(あ)メリカで (そ)ばを食べて (び)ールのむ」。子供の発想とは思えない作文に笑みがこぼれます。
休憩コーナーにて。壁に貼られたさまざまなアイディアを見ながら「これ、おもしろいね!」と話す男性が指さす先には、8歳の子供が書いた作文がありました。「(あ)メリカで (そ)ばを食べて (び)ールのむ」。子供の発想とは思えない作文に笑みがこぼれます。

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

東京都現代美術館「あそびのじかん」

日程:2019年7月20日(土)〜10月20日(日)
場所:東京都現代美術館 企画展示室1F、3F(B室)
住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/time-to-play/

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