2013年UP
初めて出展される収蔵作品も
東京都写真美術館では、毎年テーマを設定し、3期に分けてコレクション展を開催している。今年度テーマは、「写真のエステ」。『五つのエレメント』『写真作品のつくりかた』に続き、目下、第3弾にあたる『コスモス-写された自然の形象』が開催中だ。
小山学長とゲスト・アーティストの川久保ジョイさんは、収蔵庫へと向かった。同展出品作を特別に見せてもらうためだ(取材時は開催前)。学芸員の米崎清実さんに解説をお願いした。
米崎 コレクション展は、3人の学芸員が一人ひとりそれぞれの眼差しで作品を選びます。私は、対象物(被写体)に美しさを見出そうというテーマを設定しました。
小山 収蔵点数はどれくらいあるんですか?
米崎 およそ2万9千点ですね。
川久保 すごいっ、そんなに!
米崎 ただ、収蔵していても展示したことがない作品も多くあります。今回は7割くらいが初出展となります。
 収蔵庫にて。プリントの酸化を防ぐため、作品とマットの間に特殊なシートを敷く
小山 あらためて収蔵品をご覧になって、何か新しい発見はありましたか?
米崎 図録や写真集では見られないマチエール(材質)や質感があらためて分かりましたね。
小山 ところで、米崎さんがいちばん好きな写真家って、誰ですか?
川久保 いい質問です! それ、聞きたい!
米崎 いやあ、誰でしょうねえ……(笑)。
小山 ダメですよ、ちゃんと答えてくれないと。
米崎 すみません、ちょっと、それは……。それよりも、写真をご覧下さい。本展では自然を写した写真を選びましたが、自然を木・火・土・金・水の五つに分類しました。たとえば火の作品のひとつが、野町和嘉のもの。そして、こちらは土は……。
小山 あっ、柴田さんだ。
川久保 ですよね。プリントがきれいで、かっこいい。
米崎 ええ、そのとおり。柴田敏雄の《愛媛県今治市》です。
 柴田敏雄 《in color》より 愛媛県今治市 2007年 発色現像方式印画
小山 柴田さんって、こういう光景をどうやって見つけるんだろ?
川久保 車に撮影機材を積んで、ひたすら走ると聞きましたよ。
米崎 土からもう1点、お見せしましょう。
小山 松江さんですね。この人も車でいろいろと出かけるんだよね。
米崎 はい、松江泰治の《TOROS TURKEY》です。
川久保 松江さんは、淡いプリントが独特ですよね。しかも、この写真は白トビ(白一色になる)ぎりぎりのプリントが特徴的です。
小山 人間の視覚を越えた感じがあるね。
米崎 それに、こういう光景って、普通なら撮りませんよね。
小山 東大地理学科を出てますからね。地層学的に惹かれる光景だったのかも。
 松江泰治 TOROS TURKEY 1994年 ゼラチン・シルバー・プリント
 左から、川久保ジョイさん、小山登美夫さん、解説をしていただいた学芸員の米崎清実さん

学芸員の個性が出る展覧会
米崎 そしてこちらが、中国・北京在住の写真家ユニット、榮榮&映里(ロンロンアンドインリ)による《Untitled no.25 2008》です。
 榮榮&映里 《Untitled no.25 2008》 2008年 ゼラチン・シルバー・プリント
 作品から何を読み解き、分類するか。学芸員の個性が発揮される場面
写真提供:東京都写真美術館
小山 これは、何に分類したんですか?
米崎 木にしました。
小山 そのココロは?
米崎 木というキーワードには、成長といった意味を込めています。この写真は、二人にとってプライベートな作品で、二人の成長の象徴として木にしました。
小山 なるほど。今年のコレクション展、三人の学芸員の個性が出ていて、実に面白い。それに、図録では各学芸員の名前が自筆サインで載っていて、「責任持って選びました」感があっていい。これ、画期的なアイデア。
川久保 写真を撮る人と選ぶ人は、写真への視点が当然違う。今回は、自分にはない視点が楽しめました。
それから川久保さんは、小山学長に向けて自作について語り始めた。彼はイギリスのケルト文化圏や、国内では那智の滝など伝説の場所に出かけて大型カメラで写真を撮ってきた。だが、写真とは何かと考えるうち、スキャナーに被写体を置いて「撮影」したり、シャッターを切るまでの息づかいや自然の音を録音した「写真作品」を発表するようになる。
小山 写真から距離を置いた作品制作に取り組んでも、基本的には写真につながってるね。そこが面白い。
 川久保ジョイ The medium IV 2012年 ピグメントプリント
 川久保ジョイ 那智滝 2011年 ピグメントプリント
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